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 マルクエンは冒険者ギルドで鉄製の大鎚おおづちを借りる。


 重さ数十キロにも及ぶそれを軽々と片手で持ち運ぶのは、流石と言った所だろうか。


「さて、着いたわね」


 魔人の残した箱の前まで来るとラミッタが言う。


「さぁ宿敵! ぶっ壊しちゃいなさい!!」


「おう!!」


 マルクエンはありったけの力を込めて箱に大鎚を叩きつけた。


 ガインっと物凄い音が鳴り響くも、箱はビクともしない。


 二度三度と叩くも、箱に傷ひとつ付けることが叶わなかった。


「この箱、硬い!!」


 マルクエンがそう口にする。ラミッタは何かを考えていた。


「でも、魔物が出てきた時はあっさりと壊せたわ。何か条件があるのかしら」


「謎ッスねー……」


 うーんと皆で悩む中、ラミッタは思いついた仮説を披露する。


「多分だけど、魔物が出てくる時しか破壊できない……、かもしれないわね」


「可能性はあるな」


 マルクエンはラミッタの意見を支持した。


「宿敵、箱を押して動かしてみて」


「あぁ、分かった!」


 ラミッタに言われ、マルクエンは馬鹿力で箱を押す。


 しかし、ほんの少しも動かない。


「壊せない、動かせない。ってことは、待つしか無いって所かしら」


「あぁ」


「まー、悩んでいても仕方ないわ。その時まで街でゆっくり暮らしましょう」


 ラミッタは箱に背を向けて歩き始めた。その後をマルクエン達も付いていく。


 ギルドに大鎚を返すと、マルクエン達は街なかを歩いた。


「何か欲しい物があったら買い物しちゃいましょう。せっかくお金も貰ったんだし」


「それじゃ、私は食べ物や、生活の消耗品なんかを買ってきますね!」


「お、私は荷物持ちしてくるッスー」


 シヘンとケイは買い物に出かける。残されるマルクエンとラミッタ。


「それじゃ宿敵。私達も何か家で必要な物でも買うわよ」


「うーん、特にこれと言って必要な物が無いのだが……」


「ありまくりよ!!」


「具体的に何が必要なんだ?」


 マルクエンが不思議がって聞くと、ラミッタは答える。


「必要なものは必要なものよ!! 街の中を見ていたら気付くわよ」


「そういうものなのか?」


 マルクエンとラミッタは街を歩く。ラミッタは雑貨屋の前で足を止めた。


「そうね、ここでも見ていきましょう」


「あぁ、分かった」


 二人は店の中へと入っていく。食器類や消耗品などが売っていた。


「いらっしゃいませー! 何かお探しですか?」


 マルクエンは女性の店員に話しかけられる。


「いえ、特にこれと言って探しているものは無いのですが……。そうだ、何か良い食器がありましたら」


「食器ですか……。あっ、そうだ! こちらなんていかがでしょう?」


 そんな事を言って店員が手に持ったのは水色とピンクのマグカップだった。


「同じデザインの、いわゆるペアマグカップです! あちらは彼女さんですよね!?」


「い、いえ、ただの冒険者仲間です……」


 食い気味に言われたマルクエンは否定する。


「そうなんですかー? でも、仲良くなりたいですよね、っね!?」


 そう言われ、確かにとマルクエンは思う。ラミッタはいつもっかかってくるし、仲がいいとは言えない。


「この同じデザインのマグカップを使えば、二人の仲も一気に良い方向へ!!」


「おぉ……」


「しかも今なら2つでお値段3000エンです!」


「わかりました、買います」


 半分流された形だが、マルクエンは買った。紙で包んで貰い、ラミッタの元へと行く。


「何か買ったの宿敵?」


「あぁ、良いものだ」


 ちょっとしたサプライズにしようと、マルクエンは家に帰るまで内緒にしておく事にした。


「お待たせーッス!!!」


 待ち合わせの場所に居ると、ケイが手を振りながらこっちへやって来る。


 マルクエンは皆の荷物をなるべくカバンに詰めて家へと歩き出した。


「重くないですか? マルクエンさん」


「いえ、大丈夫ですよ」


 シヘンはマルクエンの心配をしたが、当の本人は全然といった感じだ。


 家に着くと、それぞれ買ったものを広げだす。


「そうだ、ラミッタ。プレゼントがあるんだ」


 その言葉に、ラミッタだけでなく、仲間達もマルクエンの方を見る。


「な、何よプレゼントって」


「ほら、これだ」


 マルクエンはお揃いのデザインのマグカップを取り出し、ピンク色の方をラミッタへ渡した。


「なっ、ちょっ、なー!!!」


 ラミッタはよく分からない声を上げてシヘンとケイも目を丸くする。


「なっ、なんだ!?」


 マルクエンはラミッタの反応に驚く。


「ペアマグカップって、な、何考えてんのよド変態卑猥野郎!!!」


「何って、店員さんがこれを使えば仲が良くなると……。それにラミッタピンク色好きだろ?」


「なんでそんな事を覚えているのよ!! ド変態卑猥野郎!!」


 ラミッタは、それはそれはもう顔が真っ赤だった。


「いや、私とラミッタはそんなに仲が良くないだろう? だからこれをにと思ってな」


 ラミッタは色々な感情がぐるぐると頭の中を巡っている。


「だ、だからって、ペアマグカップなんて……」


「嫌だったか? 仕方がない……。店に返してくるか?」


 しょんぼりとするマルクエンにラミッタは待ったをかけた。


「そ、そんな事したら店が迷惑でしょ!! し、仕方がないから使ってあげるわ!!!」


「そうか!!」


 マルクエンの顔が明るくなる。そんなやり取りをシヘンとケイはニヤニヤしながら見ていた。


「それじゃペアマグカップ記念にお茶でも入れるッスかね」


「そこを強調しないで!!」

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