目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ここが私達のハウスね

 ケイとシヘンは緊張して座っていた。マルクエンも若干同じ気持ちだったが、ラミッタは堂々としている。


「私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターです。あなた方にご確認をしたいことがあるのですが……」


「はい、何でしょうか?」


 マルクエンが返事をすると、ギルドマスターは話し続けた。


「先程、前線で戦っていたお二人、あなたとそちらの魔剣士の方は本当にDランクの冒険者なのでしょうか?」


 どう答えようかマルクエンが考えていると、ラミッタが口を開く。


「そいつと私は確かにDランクの冒険者ですが、遠くの地で傭兵をやっていました」


「なるほど……。それで……」


 ギルドマスターは納得したのか、していないのか、といった感じだ。


「この街の兵士長です。まずは感謝を申し上げる。そして、お願いをしたいことがあるのですが」


「私に出来ることでしたら」


 そうマルクエンが言うと、「それでは」と兵士長は話し始めた。


「恐らく魔人であるあの者が、またいつ街を襲うとも分かりません。軍を要請する間、この街を守っていただけないだろうか?」


 マルクエンはラミッタに視線を飛ばす。軽く頷くのを見て返事をした。


「えぇ、分かりました」


「感謝します」


 話がまとまり、議長がマルクエン達に提案をする。


「軍が来るまで長期の滞在になるやもしれません。宿屋ではなく、街にある空き家をご用意致しますので、そこでしばらく滞在して頂けないでしょうか?」


 ふむ、と思うマルクエン。悪い提案ではない。


 だが、答えたのはラミッタだった。


「分かりました」


「ありがとうございます。最低限の家具はご用意しておりますが、他に必要な物がありましたら、こちらをお使い下さい」


 手渡されたのは、ずっしりと重い袋だった。中には恐らくかねが詰まっているのだろう。


「では、何かありましたら、ありがたく使わせて頂きます」


 ラミッタが受け取ると、ギルドマスターが話す。


「もちろん、こちらとは別に、ギルドから報酬もご用意させて頂きますので」


「承知しました」


 マルクエンの言葉を聞いて、対面の男達は立ち上がる。


「お話は以上になります。どうかよろしくお願い致します」


 頭を下げる議長を見て、マルクエン達も礼を返し、部屋を出ていった。


「あー、何だか緊張したッス!」


「うん、私も」


 一言も喋れなかったシヘンとケイはそんな事を言う。


「冒険者の御一行様ですねー! しばらくのお住まいにご案内させて頂きます!」


 若い女性が建物の外で待っていた。制服姿を見るに、冒険者ギルドの関係者だろう。


「よろしくお願いします」


 マルクエンが言うと「かしこまりましたー!」と元気に言葉が返ってくる。




「こちらでございまーす!」


 案内されたのは二階建ての小綺麗な家だった。


「おぉ、中々いい場所じゃないかラミッタ」


「そうね、宿敵」


 案内してくれた女性がふと何かを思い出したように話し始める。


「そう言えばお名前をお伺いしていませんでした! そちらがラミッタさんで、こちらがシュクテキ? さんですか?」


 その天然な発言にラミッタは大笑いする。


「いや、違っ!! 私の名は……」


「ド変態卑猥野郎よ」


 言いかけたマルクエンに言葉を重ねてラミッタが言う。


「なるほど、ド変態卑猥野郎さん!! えーっと、良い名前ですねー」


 最大限のフォローをされ、更にラミッタは笑った。


「違う!! 私はマルクエン・クライスです!!」


「あっ、あぁー! マルクエンさんですね!!」


 思わずケイも笑い、悪いと思いながらも笑いを抑えきれず、シヘンまで笑っている。


「ちなみに私はケイ、こっちはシヘンです」


「わかりました! この家はご自由に使って下さい! 何かありましたら冒険者ギルドまでー。それでは失礼します!」


 そう言って女性は何処かへ行ってしまった。


「私はもう休みたいわ、ベッドくらいあると良いんだけど」


 ラミッタは渡された鍵を使い、家のドアを開ける。


 空き家と言っていたが、中は綺麗に掃除をされており、最低限の家具はあった。


「中々良いじゃない。二階はどうなっているのかしら?」


 階段を登り、二階を確認する。きちんと部屋は人数分あり、それぞれベッドも完備されていた。


「私はここの部屋にするわ。少し休ませて」


 階段から一番近い部屋をラミッタは選び、中へと消えていく。


「私はどこでもいいですが」


 シヘンが言うとケイも同じ様な事を言う。


「それじゃ、私はここで」


 マルクエンはラミッタの横の部屋を選び、シヘンとケイは対面の部屋になった。


 部屋に入り、一息つくマルクエン。荷物をしまってベッドの上に寝転んだ。





「マルクエンさーん? マルクエンさん?」


 部屋のノックの音でマルクエンは目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。


「あ、あぁ、すみません。今、向かいます」


 ドアを開けると、声の主はシヘンだったようだ。エプロン姿が似合っている。


「勝手に作っちゃったんですけど、ご飯が出来ましたので……」


「おぉ、それはありがたい。ちょうどお腹が空いていました」


 美味いシヘンの料理が食べられることにマルクエンは喜んでいた。その様子を見てシヘンは何だか恥ずかしくなる。


 一階に降りると皆が着席して待っていた。


「遅いわよネボスケ」


「あぁ、すまん。いつの間にか寝ていたみたいだ」


 日は暮れかけてすっかり夕方だ。赤い光が窓から差し込んでいる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?