魔人は片手で魔法の防御壁を貼り、火の玉を受け止めた。
その後、地上に降り立ち、マルクエンと対峙する。
「面白い、挑発に乗ってやろう。掛かってこい!!」
マルクエンは大剣を斜めに構え、走った。魔人も剣を抜いて待ち構える。
「はあああぁぁぁ!!!」
大声を出しながらマルクエンは重い一撃を放つ。魔人は剣で受け止めると、腕にビリビリとした衝撃を感じ取った。
「ほーう、楽しめそうだ」
魔人は剣をくるりと回し、マルクエンに突きを繰り出す。今度はマルクエンが大剣でそれを防ぐ。
それからは斬り合いが始まった。お互い一歩も譲らずに、剣同士がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。
「私も無視しないで貰いたいわね」
ラミッタが加勢に入り、魔人を背中から斬ろうとした。
だが、それはひらりと
「流石に二人同時だと面倒だな」
空へと飛び上がり、魔人は二人を見下ろす。
「降りてきなさい! 卑怯者!!」
「ハハハ、勝負はお預けだ。楽しませて貰った礼に俺の名を教えてやろう」
魔人はそんな事を言った後に続ける。
「俺の名は『クラム』覚えておけ!!!」
「はっ、殺す相手の名前なんてどうでもいいわ」
ラミッタは挑発を続けていたが、もう誘いに乗るつもりは無いのだろう。
「そして、これはささやかなプレゼントだ」
クラムは手のひらに乗る大きさの灰色の箱を取り出した。
それを地上に放り投げると、箱は大きくなりながら落下していく。
地面につく頃には四方が三メートル程の大きさになり、ズシンと重く音が響いた。
「それでは、また会おう!!」
魔人は何処かへ飛び去ってしまった。
逃さないとラミッタは魔法の光弾を打つも、魔人の速さについていけずに終わる。
いつの間にか、マルクエンとラミッタの回りには冒険者や兵士。治安維持部隊が集まっていた。
「あんたら、魔人を退けるなんて……。Aランクの冒険者か?」
兵士に話しかけられ、マルクエンもラミッタも参ったなと思う。どう説明したものかと。
「いや、私はDランクの冒険者です」
ラミッタが言うと、兵士は目を丸くした。
「Dランク!? う、嘘だろ……」
「確かにランクはDですが、私もコイツも遠い異国の地で戦いを学んでいました」
「それにしても……。強すぎる……」
ラミッタはそれ以上言葉を返さずに、マルクエンに命令する。
「宿敵、あのふざけた箱を壊しちゃいなさい」
「!! あぁ!!」
マルクエンは筋力強化の魔法を使い、ありったけの力で大剣を箱に叩きつけた。
「なっ!?」
思わず声が漏れた。剣は弾かれ、箱には傷ひとつ付いていない。
「だらしないわね。どいてなさい」
ラミッタは手から氷、雷、炎、光弾をめちゃくちゃに放つ。
だが、箱は微動だにしない。
「これは……」
ラミッタは表情にこそ出さなかったが、内心驚いていた。
「仕方ないわね、一旦作戦の練り直しよ」
ギャラリー達の視線もお構いなしにラミッタは街へと歩いていく。マルクエンも後を付いていった。
「はぁはぁ、やっと追いついたッスよ……」
ケイとシヘンが息を切らしながらラミッタ達の元へやって来る。
「何か、周りの人達……。全員こっちを向いていませんか?」
「ちょっとだけ目立ちすぎただけよ。疲れたわ、宿屋でも取って休みましょう」
そんな会話をして街へ入るが、表には人っ子一人いない。
みな、家の中で鍵をかけジッとしているのだ。
街を歩き、宿屋を見つけると、ラミッタはノックをして大きめの声を出した。
「もしもーし、誰か居ませんかー?」
しばらくしてから、扉がゆっくりと、少しだけ開く。
「あ、あの、外はもう大丈夫なのでしょうか?」
宿屋の主人が顔を見せ、そう尋ねた。
「えぇ、大丈夫ですよ」
そうラミッタに言われるも、主人は警戒しながら扉をもう少し開けて辺りを見渡す。
「よ、良かったぁ……」
ため息を漏らしながら言う主人。街の人々も窓や扉から外の様子を伺っていた。
「そこの冒険者の方々!! 少しお話よろしいでしょうか?」
宿屋に入ろうと思ったその時。治安維持部隊の者にマルクエン達は呼び止められた。
ベッドで休もうと思っていたラミッタは、あからさまに不満げな顔をする。マルクエンは返事をした。
「お話とは、何でしょうか?」
「先程の戦い、お見事でした。そこで、あなた方の腕を見込み、街の議会と冒険者ギルドからお願いしたいことがございまして」
「お願いごとですか?」
何だろうかとマルクエンは思う。ラミッタは大体察しが付いているようだが。
「ご足労願えませんでしょうか?」
「あーはい。分かりました」
ラミッタは面倒くさそうだったが、言葉を返し、一行は治安維持部隊の案内で立派な建物へと連れて行かれる。
建物の中へと案内され、会議室へと通される。そこでは五名ほど人が待ち、座っていた。
マルクエン達が部屋に入ると一斉に立ち上がる。
「この街の議長です。この度は何とお礼を言って良いものか……」
深々と頭を下げる男。それに続いて他の者達も感謝を述べ、頭を下げた。
「いえいえ、街が無事で何よりです」
マルクエンが言うと「どうぞおかけ下さい」と対面に座る形で座席に案内される。