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海を見よう!

 その後、駆けつけた治安維持部隊に一時間ほど事情聴取をされ、マルクエンは戦いよりもそっちの方で疲れを感じていた。


「それじゃ、私は帰りますので……」


 そう告げて帰ろうとすると、スミレはもじもじとしながら話す。


「マルクエンさん、私ね嬉しかった。怒ってくれたこと……」


「いえ、当然ですよ」


 そんな言葉が返ってきて、ちょっと泣きそうになるスミレ。


「サキュバスってさ、やっぱり偏見を持たれるからさ。まぁ仕方のない事だけど……。サキュバスだって誰でも良いわけじゃない。好きになる男の人も、嫌いな男の人もいるから」


「サキュバスの事、私も良くは知りませんが。スミレさんは、スミレさんですよ」


 マルクエンに言われて顔を赤くするスミレ。気付かれないように後ろを向いてから言葉を出す。


「マルクエンさん、きっとまた来てね。サービスするから!!」


 ハハッと笑ってからマルクエンは「また来ますよ」と告げ、宿へと戻っていった。





 食事会の翌日、勇者マスカル達はシヘンの生まれ育ったトーラの村に着く。


 魔人が現れたという報告を受けて、魔王に関する情報が無いかと調べに来たのだ。


「これはこれは、勇者様」


 村長がマスカルを出迎えた。軽くお辞儀をすると、聞き込みを始める。


「村長殿、魔人が現れた時の事を知りたいのですが、お教え願えませんでしょうか」


 マスカルが言うと、村長は当時の出来事を思い出して語り始めた。


「村を魔物の集団が襲って来まして。一度は撃退出来たのですが、その夜に魔人と共にまた魔物がやって来ました」


「そうでしたか、ご無事で何よりでした」


 そして、マスカルは一番に聞きたい事を尋ねる。


「それで、魔人は倒されたと聞いたのですが、いったい誰が……」


「えぇ、マルクエンさんとラミッタさんという冒険者の方が助けて下さいました」


 その名を聞いて勇者パーティーに衝撃が走った。


「ら、ラミッタさんと言いましたか!?」


「え、えぇ、そうですが……」


 動揺を隠しきれないマスカルに村長は話し続ける。


「あのお二人で、ほぼ全ての魔物と魔人を倒されていきました」


 とても信じられない話だが、村長が嘘を言うはずもない。


 念のため冒険者ギルドでも話を聞いたが、同じ内容の話を誰もが口々に話した。


「勇者様、これは……」


 魔導師のアレラが言う。勇者は軽く頷いてから返事をした。


「街へ戻るぞ、これはラミッタさんに話を聞く必要があるな」





 その頃、マルクエン達は今いる街を出て次の街へと向かっていた。


「次の街はどんな所なのでしょう」


「『ルサーバ』って街ッスねー。海沿いの水の都ッスよ」


 ケイの言葉にマルクエンは思わず興奮気味に言葉を出す。


「海!? 海ですか!?」


「え、あ、そーッスけど……」


 珍しくキラキラとした目をするマルクエン。


「私の国は内陸地でして、話には知っているのですが、海を見た事が無いので」


「そうだったんですね」


 シヘンはクスクスと笑いながら言う。ラミッタは呆れていた。


「子供じゃないんだから、海ぐらいで騒がないでよ」


「そうは言ったって、海だぞ海!! ラミッタも見たこと無いだろ!?」


「そりゃ、無いけどさ……」


 内心ラミッタも海が楽しみであったが、マルクエンに悟られないようにしている。


 道中の魔物は、シヘンとケイに任せていた。二人を鍛えるためだ。


 二人とも危なっかしい所はあるが、怪我もなく魔物を倒していた。


 ルサーバの街までは二日ほど掛かるので、今日は野宿をする事になる。


「今日は私がお料理を作りますね!」


「シヘン。私も手伝うわ」


「いえ、私はこういう事ぐらいしかお役に立てないので……」


 ラミッタの申し出をシヘンは断った。


 しばらくして出来上がったのは立派な肉入りのスープだ。


「それじゃイタダキマース」


 全員で言うとマルクエンはスープに口をつけて感想を言う。


「ん、美味しい!! シヘンさん、美味しいですよ!」


 マルクエンに褒められたシヘンは顔が赤くなる。


「そ、そんなに言われると……。照れちゃうので……」


「何か私の料理を食べた時より随分ずいぶんとご機嫌じゃない?」


 ラミッタはそう言うが、確かにシヘンの料理は自分の手料理よりも美味いことを実感していた。


「いや、ラミッタの料理も美味かったぞ」


 マルクエンは笑顔で言うと、ラミッタは目を伏せて視線をそらす。




 ルサーバの街へ近付いていく一行、遠くに水平線が見えてきた。


「もしかして、あれが海ですか!?」


「そうッス!! 海ッスね!」


 まるで子供のようにはしゃぐマルクエンを見て、シヘンとケイは笑う。


「まったく、子供みたいね」


 ラミッタは呆れている風を装っているが、ソワソワとしていた。


 歩くごとに近付いてくる海、それと共にマルクエンの目もキラキラと輝きを増していく。


 街の入り口まで来ると、潮の香りが漂う。


「さてと、まずは宿屋を見付けて、冒険者ギルドに行くわ」


「そうか、分かった」


 ラミッタの後をマルクエン達は付いていく。宿の集まる区画で、冒険者向けのこじんまりとした安めの宿の前で足を止める。


「そうね、値段的にも手頃だし、そこそこ綺麗ね。ここで良いかしら?」


「はい、そうですね!」


 シヘンはにこにこと笑って返事をする。一人部屋と三人部屋を予約し、部屋に荷物を下ろして冒険者ギルドに向かう。


 クエストボードを眺めるラミッタ。海の近い水の都らしく、魚や珍しい貝の採集といった依頼もある。


「魔人や魔王に繋がる情報は無さそうね」


 マルクエン達は受付嬢や、話しやすそうな冒険者に尋ねてみたが、誰も情報を持っていなかった。


「この街に長居は無用かもしれないわ」


「そうか……」


 情報が集まらなかった事と、せっかく海に来たのにすぐ出発になる事でマルクエンはしょんぼりとする。

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