「え、えぇ!?」
「はやくぅー。それとも嫌なの? マルクエンさん」
「い、いえ、嫌ではないのですが……」
マルクエンはあたふたとして、スミレはクスクスと笑う。
「それじゃ、あーん」
パスタをフォークにくるくると巻き付けて、スミレの口へと運ぶマルクエン。
「あむっ! うーん、おいしー!」
スミレはそんな事を言ってニコニコと笑う。
「そ、それは良かったです」
ふと、マルクエンは思ってしまった。このフォークを使えば間接キスになるのではないかと。
だが、フォークを変えてくれと言ったらスミレに失礼だ。
何も意識をしないようにマルクエンはフォークでパスタを食べ続ける。
「間接キスしちゃったね、マルクエンさん」
「ぶーっ!!」
数口食べた後にスミレに言われ吹き出すマルクエン。
「い、いえ、そういう事は考えてい、いないですよ!」
顔を真っ赤にしてマルクエンは言った。「ホントかなー?」とスミレはニヤニヤと笑う。
そんな時、先程から大声で騒いでいたテーブルから怒声が聞こえた。
「おーい、もっと女付けろや!!!」
三人ほど居る男が騒いでいる。ボーイがやって来てペコペコと謝っていた。
「マルクエンさん、うるさくてごめんね」
小さい声でスミレが耳打ちをする。
「いえ、私は気にしていません」
そうは言ったが、多少は気になる。だいぶ酔っ払っているのだろうか、男の一人がボーイに掴みかかった。
マルクエンは立ち上がり、男たちをじっと見据える。
「ちょ、マルクエンさん。ダメだよ!!」
スミレの制止も聞かずに男たちを見続けるマルクエン。向こうが気付き、こちらへ向かってきた。
「なんだ、お前。何見てんだよ」
「いや、うるさいなと思ってな」
「マルクエンさん!!」
スミレが心配そうにマルクエンを見る。男は言われた言葉で怒り始める。
「何だてめぇ、やんのか!?」
「いや、ただもう少し静かに飲んでくれないか? せっかくの飯が不味くなる」
「あったま来たわ。てめえこの野郎!!」
殴り掛かる男、スミレは思わず目を瞑ったが。
「なっ!!」
マルクエンは顔に飛んできた拳を手で受け止め、強く握った。
「は、離せこの野郎!!」
徐々に力を込めていくマルクエン。尋常じゃない力に男は恐怖した。
「い、痛い、いだい!!」
男が苦しみだすと、マルクエンは手を離してやった。そんな様子を男の仲間は見ていた。
「俺たちに手を出すなんて良い度胸じゃねーか」
そう言って立ち上がる巨漢をマルクエンは見た。恐らく一番強いのはこいつだろうと察する。
「俺は元Cランクの冒険者達だ、お前は見たところ冒険者だな?」
「あぁ、Dランクだがな」
それを聞いて笑い出す巨漢。
「今すぐ謝って金を置いていくなら見逃してやらん事も無いぜ?」
「断る。私は金が無いものでね」
「そうか、表に出な」
「ちょ、ちょっと待って! お客さん、私が謝りますから!!」
スミレがそう言って巨漢に近付くと、全身を舐めるように見られた。
「お嬢ちゃんが今夜『イイコト』してくれるなら許してやろうかなー?」
巨漢に言われスミレは恐怖する。
「何だその顔。サキュバスなんて、そんぐらいしか取り柄がねーだろうがよ!!」
「おい、スミレさんに謝れ」
マルクエンは険しい顔で怒鳴りつける。
「お前が喧嘩で勝てたら何でもしてやるよ」
そう言って外へ出ていく男達。マルクエンはその後を付いて行く。
店の外で男達とマルクエンは対峙した。
「かかってきな、大馬鹿野郎」
巨漢は手をクイクイと引いてマルクエンを挑発する。
「そうか、それじゃ」
マルクエンは走って一気に距離を詰めた。その速さに巨漢はギョッとする。
取り巻きの一人の腹を殴り、そのまま別の一人も蹴り飛ばし、あっという間に制圧した。
「後はお前だけだ」
「ふん、面白え」
巨漢は強がっていたが、内心焦っている。
殴り掛かられた拳をさっと避けて、カウンター気味に裏拳で巨漢の顔を殴る。大きな体が宙を舞い、飛んでいった。
スミレやボーイはその様子を見てぽかんとしている。あっという間に三人の男は地面に倒れた。
「すごい……」
思わずそう口にすると同時に、男達は短剣やナイフを取り出して立ち上がる。
「この野郎、舐めやがって!!」
「マルクエンさん逃げて!! 治安維持部隊はまだなの!?」
スミレの言葉にも、男達にも、マルクエンは動じない。
一人の男が魔法の詠唱を始め、火の玉が飛んできた。それと同じくして別の男と、巨漢が短剣を持ち走ってくる。
「死に晒せ!!」
もうダメかと集まってきた見物人達は思ったが、マルクエンは火の玉を最小限の動きで全部避けて、男達を返り討ちとばかりに蹴り飛ばした。
「少し、お仕置きが必要か?」
倒れる巨漢の両腕を後ろにねじり上げて
「いだ、いただ!!!」
「悪い腕だな、貰っておくか」
このままでは本気で折られると思った巨漢は命乞いを始めた。
「悪かった、俺が悪かった!!!」
「謝る相手が違うな」
マルクエンはそう言いながらスミレの方を向かせる。
「悪かった!! 悪かった!!!」
「マルクエンさん!! 私はもう大丈夫だから!!」
スミレが言うと、マルクエンは両腕を解放してやった。
「ひぃー」と言いながら男達は何処かへ逃げていく。
「マルクエンさん!!」
スミレはマルクエンに駆け寄って抱きついた。柔らかい感触が当たり、険しい顔から一気に照れ顔になる。
「す、スミレさん!?」
「無事で良かった……」