買い物を終えたマルクエンとラミッタは、シヘン達の待つ宿屋に帰る。
「今、もどったわ」
「おかえりなさい」
シヘンが笑顔で出迎えてくれる。ケイは頭の後ろで手を組んでいた。
「今日の夕飯はどこの店に行くっスかー?」
「そうね……」
ラミッタは考えていたが、遮るようにケイが言う。
「それなら、さっき気になる店見付けたんで行きませんか?」
「あら、良いわよ」
ケイの提案で夕食が決まる。それは繁華街の小道を曲がった所にあった。
「ここっスー! 何でも東の国の料理が食べられるだとか」
全体的に赤い装飾の店へと入ると、席へと案内され、メニューを渡される。
見慣れない料理名に戸惑ったが、その下にはどういった料理なのか説明文が書いてあった。
「えーっと、これ美味しそうっすね! エビとソースの炒めもの!」
ケイは元気にそう言った。マルクエンもメニューを眺める。
「大豆の加工品のトーフ? という物のソース炒めもあるんですね。気になるな」
「お米の炒めものもあるのね」
「スープに麺を入れて食べる料理もあるみたいですよ」
皆、それぞれ気になるものを頼んで分け合う事にした。
しばらく待つと料理が並ぶ。良い香りに腹が減る。
「うわっ、このエビ旨いっすよ!!」
ケイはぶりぶりのエビを食べて言う。どれどれと食べるマルクエンも同じ感想が出た。
「このトーフって奴も面白い食感ですね」
マルクエンは初めて食べるトーフを中々気に入ったみたいだ。
「私にも寄越しなさい宿敵」
大皿からトーフのソース炒めを小皿に移すラミッタ。そして、一口食べる。
すると、しばらくしてラミッタの顔が赤くなり口を抑え、水を飲んだ。
「な、なにこれ!? 辛すぎじゃない!?」
「そうか? ちょうど良いぐらいだと思うが」
「あり得ない、あり得ないわ!!」
そんなに辛いのかとケイとシヘンも食べてみた。確かに辛いが、騒ぐほどではない。
「あー、ラミッタさんもしかして辛いのダメな感じですか?」
ケイに聞かれ、正直に話してしまいたかったラミッタだったが、マルクエンの手前、意地を張る。
「じょ、冗談よ冗談。私が辛いのダメなおこちゃまなワケ無いじゃない」
ラミッタが右下に首を動かして言う。それを見てマルクエンは苦笑した。
「ラミッタ。無理はしなくて良いぞ」
「無理なんてしていない」
「だってお前、強がる時右下を向くだろう?」
「ふえっ!?」
ラミッタは変な声が出た。いつの間にか、そこまで知られていたことにビックリし。辛さとは別の赤面が起こる。
「な、何でそんな事まで知ってるのよ!?」
「あ、図星だったんスか?」
ドツボにハマるラミッタ。涙目のままでマルクエンに言う。
「そ、そんな事まで知っているなんて、どれだけ私を見ていたのよ!! このド変態卑猥野郎!!」
ハハハと笑うマルクエン。それに釣られてシヘンとケイも笑っていた。
その後ラミッタは不機嫌になったが、美味い料理を食べて店を出る頃には機嫌が治っていた。
次の日、四人は一つの部屋に集まり、ラミッタが話し始める。
「この街とは今日でおさらばね。魔王の情報が集まらないわ」
「そうだな、次の街へと向かうか」
マルクエンは頷いて言う。
「シヘンさんの村から離れていってしまうが、大丈夫ですか?」
「えぇ、私は平気です!」
「それじゃ、早速出発するッスか?」
「そうね、今から出れば夕方前には次の街に着くことが出来るわ」
四人は街を後にし、街道を歩き出した。
道中の魔物はシヘンとケイの練習用に任せ、マルクエンとラミッタは見守ることに徹する。
「はい、この辺りで休憩ね」
「あー疲れたッスー」
そんな事を言うケイを見て少し笑い、シヘンはお弁当を取り出した。
「作っておいたんです。食べて下さい」
「ありがとっ、それじゃ頂こうかしら」
「あぁ、シヘンさんありがとう」
サンドイッチを掴んで皆で食べる。
「美味しいわシヘン」
「ありがとうございます!」
ラミッタに言われてニコッと笑顔を返すシヘン。マルクエンも感想を言った。
「本当、美味しいです。毎日食べたいぐらいですよ」
「えっ、その、毎日……、ですか?」
シヘンは思わず顔を赤らめて下を向く。ラミッタはマルクエンを不機嫌そうな顔で見た。
「何言ってんのよ、ド変態卑猥野郎」
「えっ、私は何かおかしい事でも言ったか?」
昼食が終わり、やっと次の街が遠くに見えてきた。そんな時だ。マルクエン達の前に立ちふさがる影があった。
「私の下僕候補よ、今日こそ屈服させてあげるわ!!」
白い肌に黒いドレスとゴスメイク。黒魔術師のシチ・ヘプターだった。ついでにちっこい手下も居た。
「お前は、シチ・ヘプター!!」
マルクエンは名前を口に出して剣を引き抜いた。
「なっ、えっ、な、名前覚えていてくれたの!? じゃなくて、覚えていたのか、流石、下僕候補ね」
少し嬉しそうなシチだったが、冷静さを取り繕う。
「あんた達、懲りないわね」
ラミッタも剣を構えて呆れていた。
「あなたは魔剣士ね。今日こそ倒してあげる」
シチは炎の魔法を数発打って寄越した。ラミッタは軽々とそれらを避けて地面を強く踏む。
すると、シチの立つ地面が急に盛り上がり、壁が出来た。その壁に捉えられたシチと手下は身動きが取れなくなった。
「ふん、この程度……」
魔力を送り込んで解除しようとするが、シチは驚く。魔力が壁をつたい、地面へと流れ出て行ってしまうのだ。