街へと戻ると、マルクエン達は冒険者ギルドで奇術師に襲われた事を報告した。
「それは大変でしたね、ご無事で何よりです。この事は上層部に報告しておきます」
受付嬢はそう言った後に報奨金を渡す。
「私は戦い用の服を探してくるわ」
「それじゃ、俺も行こう」
付いてくると言うマルクエンにラミッタは「えっ?」と声を出した。
「な、何であんたが付いてくるのよ」
「いやその、俺は女の好みが分からないみたいだし、ラミッタがどういう服を選ぶのか知りたくてな」
マルクエンは頭をかきながら言う。ラミッタは赤面して目を逸らした。
「ふ、服ったって、戦闘用の服よ!? 見ても面白いものじゃないわ!!」
「それじゃマルクエンさん、私達と一緒に街でもあるくっスか?」
ケイがニヤリと笑って言う。するとラミッタがあたふたとしだす。
「ま、まぁ、どうしてもって言うなら付いてきても良いわよ?」
「わかった。すまないケイさん。今日はラミッタに付いていく事にするよ」
「そっスかー。いやー、残念残念」
冒険者ギルドを出るとケイとシヘン。マルクエンとラミッタに別れ、別々に行動する。
ワンピースに武器や防具は似合わないので、宿屋に置いてきた。
「この世界や街を見るいい機会だわ。服以外にも見物しておきましょう」
「あぁ、そうだな」
見渡すと店やら屋台やら、活気に溢れていた。ぼーっとマルクエンがその辺を見ていると、露天商の女に声を掛けられる。
「へいへい、そこのお兄さん!!」
最初は気付かなかったが、呼ばれたのが自分だということが分かると、マルクエンはそちらを見る。
「私ですか?」
「そうそう、横の人は彼女さん?」
そう言われ、ラミッタは赤面して否定すた。
「か、か、かの、彼女じゃない!!」
「あらー、そうだったの。残念。でもね、良いアクセサリーがあるのよ」
露天商の女はピンク色の宝石が付いた指輪を一つ指差す。
「これ! 何でも魔力を上げる効果があるとかで、冒険者さんにもピッタリの指輪なの」
「胡散臭いわね、それに魔剣士には邪魔になるわ」
「それなら、このチェーンでネックレスにするって手もあるわよー?」
マルクエンはなるほどと言い指輪を見ていた。
「魔力が上がるなら、私は使わないが、贈り物としては良いな」
「なっ、本気で言っているの宿敵!?」
「あぁ」
ラミッタは急に小声の早口になって話し始める。
「まぁ、どうしてもって言うなら受け取ってあげても良いわ。その、魔力も上がるし。あの、それ以上の意味は無いから」
「シヘンさんに世話になってるお礼がしたかったんだ。だから、プレゼントに」
次の瞬間ラミッタは大声で言った。
「店主!! 私が買うわ!!」
「へい、毎度あり!!」
マルクエンは、ラミッタも欲しかったのかと呑気に考えている。だが、何だかラミッタはあまり話してくれなくなった。
「ここが冒険者向けの服屋ね」
先程マルクエンが向かった服屋に比べ、少々地味な店だ。
店内に入ると、地味な色の服と、防具が並んでいる。ラミッタはいつも着ているような黒色の服を手に取った。
「ラミッタは黒が好きなのか?」
「別に好きってわけじゃないけど、汚れが目立たないし、暗闇に紛れる事もできるからね」
「そうなのか」
そこでふとマルクエンは思ったことを尋ねてみる。
「それじゃ、ラミッタが本当に好きな色って何だ?」
質問され、照れくさそうにラミッタは小さい声で答えた。
「赤とか、ピンクとか、それ系の色……」
「ほー、そうだったのか」
マルクエンはなるほどと声を出す。
「何よ、そういうのが似合うキャラじゃないってのは知ってるわよ!!」
「いや、似合うとは思うぞ」
「なっ!!」
ラミッタは本日何度目か分からない赤面をする。そんな会話を聞いていたのか、店主がぬっと現れた。
「ありますぜ、旦那。ピンクでフリフリの服」
「おわっ、ビックリした」
手をすりながら店主は話し続ける。
「異国の魔法使いの服なんですがね、珍しいモンがあるんですわ」
「本当ですか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!! 私は魔剣士で魔法使いじゃない!!」
「まぁまぁ、着るだけならタダ! いや、むしろモデルとして写し絵の魔法を取らせてくれたら、その服お値引きしますぜ?」
値引きと言われ、ラミッタの心が動く。
「ラミッタ、着てみたらどうだ? 案外、気に入るかもしれんぞ」
「わ、わかった。わかったわよ」
そう言ってラミッタは試着室へと案内され、店主の女房が服を着るのを手伝った。
「え、こんなフリフリなの恥ずかしいわよ!?」
「そんな事ありませんよ、お客様お似合いですよー?」
そんな声が中から聞こえる。
「はーい、出来たー。それじゃ開けますねー」
「ちょっ、ちょっと待って!! 心の準備が……」
試着室のドアが開けられると、ピンクを基調とし、肩やスカートには白いフリフリが付いたドレス姿のラミッタが居た。
「おー、ラミッタ似合ってるぞ」
マルクエンは思ったままの事を言う。ラミッタは恥ずかしさで頭がぐるぐるとしていた。
「あ、あぁ……」
「おぉ、素晴らしい!! あっしが見込んだ通りだ!! ささ、こちらで写し絵を」
色んな角度から写し絵を作られるラミッタ。いつもの威勢の良さはどこへやら。人形のように大人しくなっていた。
一通り写し絵が完成すると、ラミッタは試着室へと逃げ込んだ。次に現れたのは先程までの青いワンピース姿のラミッタだった。
「いやー、お嬢さんありがとうごぜえます。そっちの服は三割引にしておきますんで。後、お兄さん良かったらこれ」
マルクエンに渡されたのはラミッタの写し絵だった。
「ちょっ、それは!!」
ラミッタが言うが、マルクエンは写し絵をまじまじと眺めている。
「すごい技術だな。ありがとう店主さん。シヘンさん達にも是非見せたい」
「ぜ、絶対ダメー!!」
黒い服を買うと、ラミッタはいそいそと店を出た。