目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ファッションセンス

「こっち見んな!! ド変態卑猥野郎!!」


「あ、いや、すまん」


 マルクエンはラミッタから目を逸らして奇術師を見る。


「ねーお二人さん。僕の仲間になってよ」


「お断りするわ」


「うーん。それだと……」


 奇術師はあどけない笑顔を捨ててギロリと睨む。


「ここで死んでもらうかもね」


 懐から取り出したトランプを投げる奇術師。マルクエンは一歩前に出て剣で弾くと、重い衝撃を感じた。


「トランプ投げて戦う奴が本当にいるとはね」


 ラミッタが足で地面を強く踏むと、魔力が走り、奇術師の足元から土の槍が飛び出る。


「あははっ、やるぅー!!」


 ひらりひらりとそれらを躱し、奇術師は楽しそうだった。


「それじゃこっちもお返し」


 色とりどりのボールを取り出し、ジャグリングを始める。


「マーダージャグリング!!」


 一番高く上がった赤い玉から炎の玉が吹き出てマルクエンを襲う。


「っく!!」


 魔法耐性のある大剣でそれを打ち返すが、今度は黄色の玉が高く上がり、そこから雷の矢が放たれた。


「宿敵!! こっちに来て!!」


 声のした方へ走ると、ラミッタはタタンと地面を踏んで土壁を作った。そこに雷の矢が突き刺さる。


 緑色の玉からは風の刃が、水色の玉からは水の刃が生まれ、こちらへ向かってきた。


 ケイはスライムの粘液まみれで、シヘンは二人を案じて戦いを見ていたが。


「轟け!! いかずちよ!!」


 少しでも二人を助けたくて、呪文を詠唱し、奇術師に攻撃を加えた。


「こんな弱い魔法が効くわけ無いじゃん」


 なんと、奇術師はシヘンの飛ばした雷の矢を手で掴んで、投げ返した。


「危ない!!」


 マルクエンは叫んで、自らの身体を盾にし、雷を受け止める。鼻の奥に焦げた嫌なニオイが充満した。


「マルクエンさん!!」


「宿敵!!」


 そんな様子を見て奇術師は両手を顔の横に上げて言う。


「なーんかしらけちゃったなー、またねー」


「マルクエンさん!! 大丈夫ですか!?」


 駆け寄るシヘン。それよりも先にマルクエンは立ち上がっていた。


「えぇ、鎧には魔法耐性があるので平気です」


「良かった……」


 ホッと安心するシヘン。


「宿敵なら平気よ。殺そうと思っても中々殺せる奴じゃないわ」


 左腕で破れかけの服を抑えながらラミッタが言う。その後ろでケイが叫んでいた。


「あのー!! 私もどうにかして欲しいッス!!!」


 マルクエンは振り返ろうとしたがハッとして見ないようにする。そこには一糸まとわぬケイが地面に座っていた。


「宿敵!! 街に行って服買ってきて、シヘンも!!」


「あ、あぁ、わかった!!」


「はい、急いで買ってきますね!」


 マルクエンとシヘンは急ぎ街へと向かった。




 街に着くと、服屋へ急ぐ。


「いらっしゃいませー!」


 店員が笑顔で迎えてくれる。女物の服屋へ入るのは初めてなマルクエンはどこか落ち着かない様子だった。


「私は下着とケイの服を買ってきますので、マルクエンさんはラミッタさんの服を見てください」


「えぇ、分かりました」


 服を待つ二人は背丈が違うので、ラミッタの服はマルクエンが選ぶことになった。適当に何か買おうと思ったが、何を買えば良いのか分からない。


 女性が服を着ていると、可愛いだの美しいだのが分かるのに、服だけ選ぶとなると難しいものだと思った。


「何かお探しですかー?」


「えっ、えーっと、知り合いに服を買いたいのですが」


 店員に声を掛けられ、マルクエンはおどおどとする。


「プレゼントですか?」


「え、えぇまぁ」


「だったら、このワンピースなんていかがでしょう? 新作で、色もたくさんご用意しておりますよー?」


「なるほど……」




 買い物が終わり、マルクエンとシヘンは駆け足で先程の現場へと向かう。


「ラミッタ!! ケイさんいるか!?」


 洞窟の中に身を隠していた二人が顔だけ出してこちらを見ている。


「良かったー、助かったッス!!」


「遅いわ宿敵!!」


 粘液はラミッタの水魔法で洗い流したらしい。シヘンが服を持って二人の元へと向かう。




 程なくして三人は洞窟の中から出てきた。ケイは濃い青色のキュロットと茶色のジャケットを羽織り、元気な彼女にはピッタリだった。


 シヘンも一緒に出てきたが、ラミッタが出てくる様子がない。


「ラミッタさん、大丈夫ですって!!」


 そう言われ、シヘンに手を引かれながら出てきたラミッタ。赤面して水色のワンピースを身に纏っている。


「しゅ、宿敵……。これはどういう事かしら?」


「どうって……。あまり気に入らなかったか?」


 似合っているか、いないかで言えば、街を歩けばナンパされるぐらいには似合っていた。


「こんなの私に似合うわけ無いでしょ!!」


「そ、そうか? 似合っていると思うが……」


「なっ!!」


 二人のやり取りをケイはニヤニヤとして見ている。


「だって、わ、私は……」


「私がラミッタに似合うと思って選んだんだが。やはり私のセンスではちょっと駄目だったかもしれん。街に着いたら返品して別の服を……」


「返品なんて面倒だからこのままで良いわ!! 全くド変態卑猥野郎ね!!」


 マルクエンはまたラミッタを怒らせてしまったなと軽く落ち込んでいた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?