「あー、もう! 私も行ける所まで付いていくっスよ!」
「ケイさんもありがとう。心強いです」
フッとマルクエンは笑って言う。
街へ帰ると、冒険者ギルドへ向かい、報酬を受け取る。
奇術師の魔人と出会ってから一週間が経った。草むしりや軽い魔物の討伐をし、マルクエンは晴れてDランクの冒険者へ昇格する。
「それじゃ、Dランクになった宿敵に乾杯」
その日はギルドで酒を飲み、一日を終えた。といってもマルクエンはまたミルクだったが。
翌日、早速Dランク以上のクエストを受注する。増殖したスライムの討伐だ。
「街から2キロ先の洞窟で、スライムが異常発生しているらしい」
ラミッタが言うと、マルクエンはポツリと言葉を溢す。
「スライムか……」
「何だ、不満かしら宿敵?」
「いや、そんな事はない」
スライムと言えど、大量に居れば辺りの草木を根こそぎ食べるし、動物や人間さえも体内に取り入れ消化しようとする。
「久しぶりに戦うなー、スライム」
ケイは手を頭の後ろで組んで話す。そんなこんなで目的の地までたどり着いた。
「私と宿敵で一気に倒しても良いけど、修行がてらシヘンとケイに任せるわ」
「はい! 頑張ります!」
「よっしゃ、いっちょやりますか!」
二人共やる気は十分のようだ。剣を引き抜いてケイはスライム目掛けて走る。
スライムは体の中心にある核を潰せば死ぬ。その核を一撃で両断した。
「やるじゃないケイ」
「あざッス!」
シヘンもスライムに狙いを付けて雷の魔法を打ち込んだ。直撃すると、ブルブルと震え飛び散る。
「シヘンもナイスよ」
「ありがとうございます!」
そんな感じでスライムを倒していたが、それを遠くから見つめる不穏な影があった。
「ふーん、面白そうな事やってるじゃん」
奇術師の魔人だ。空を飛んで千里眼を使い、マルクエン達を観察している。
「でも、簡単すぎるみたいだね、もっと面白くしてあげよっかな?」
指をパチンと鳴らすと、スライム達の下から光が溢れ出す。
「な、何だ!?」
驚くマルクエン。ラミッタは魔法が使われたことを察知し、振り返り空を見た。
「あの時の!!」
ラミッタも千里眼を使い遠くを見る。奇術師の魔人がニコニコと手を降ってこちらを見下ろしていた。
「なっ、何すかこれ!?」
スライムは先ほどとは比べ物にならない速さで動き、あっという間にケイを取り囲む。
「まずい!!」
マルクエンとラミッタは助けるために走り出す。スライムはケイの手足にまとわり付いて自由を奪った。
「いやぁ!! 何かヌルヌルするッス!! 気持ち悪いっス!!」
無情にもスライムはそんな事を言うケイの胸や股にも這いずり回る。
「うぅ……」
そして、次の瞬間マルクエンは目を疑った。スライムが付いている場所の服が溶け始めたのだ。
「えっ、ちょっ、いやああああああああ!!!」
ケイは思わず叫び声をあげ、胸元を隠そうとするが、手足の自由が効かない。褐色の肌が
「宿敵!! あんたは見ないで!!」
マルクエンは目を逸らして空の奇術師の方を向く。スライムはラミッタがどうにかしてくれるだろう。
「こんな卑猥なスライムを作るなんて良い趣味してるわ」
ラミッタは剣でブスブスとスライムの核を突いていく。すると、スライムは不活性化し、ドロリと地面に落ちていった。
だが、ラミッタはスライムを突いた際、飛び散る返り血ならぬ返り粘液を少し浴びてしまった。
「って、何よこれ!!」
ラミッタの服も溶け始めた。肩や胸元、太ももが見え始める。
「大丈夫か、ラミッタ!?」
マルクエンは振り返ろうとするが、ラミッタが叫ぶ。
「大丈夫じゃないけどこっち見るな!!」
そんな様子をクスクスと笑いながら奇術師は見ていた。そして、空から降りてくる。
マルクエンは剣を構えて奇術師と対峙した。
「まぁ、そんなに警戒しないで。今日はお話をしに来たんだ」
「話?」
「そう、単刀直入に言うよ。君たち、魔王軍に就くつもりは無いかい?」
いきなりの提案にマルクエンは思わず言葉をそのまま返す。
「魔王軍に?」
「そう、魔王軍に。だって君たちはこっちの世界を守る義理なんて無いでしょ?」
言われてしまえばその通りだったが、マルクエンは言う。
「お断りだ。私は魔王を倒して元の世界へと帰る」
「何でそこまで元の世界に固執するのさー」
「私はイーヌの騎士だ。国を守るために何としても帰らなければならない」
「ふーん」
興味無さそうに奇術師は生返事をする。
「でもさ、魔王軍に入れば好きな事やり放題だよ? 気に入らない奴は斬り捨てて、可愛い女の子は自分の物にできる。それになんと今、魔王軍の仲間になれば幹部の地位もつけちゃいまーす!」
そこであっと奇術師は付け足した。
「何なら僕がこの場で君の彼女になってあげようか?」
「そんな事は興味がない」
きっぱりと断るマルクエン。
「えー、振られちゃった。傷つくなー。もしかして女の子に興味ない感じ?」
「語弊のある言い方だな……」
「君はさー、イーヌって国の騎士なんでしょ? じゃあこの世界なんて守る必要無くない?」
「宿敵、楽しそうにお話しているわね」
ラミッタが話に割って入る。マルクエンはその声の方を見ると。
「なっ、ラミッタ!?」
服が溶けかけの胸元を左腕で隠し、右手で剣を持っていた。