目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
罪!

 そして、一時間は経っただろうか。かご半分ぐらいの薬草が集まってきた。草むしりなんて初めてやったが、慣れてくると宝探しみたいで楽しい。


「さて、次はあっちの方に……」


 言いかけた瞬間。マルクエンは何かの気配を感じた。


「やっぱこの男の鎧が一番上物そうだ」


 女の声が聞こえる。マルクエンは何事かとそちらの方向を見る。


「おい、兄ちゃんよ。その身ぐるみ全部置いていってもらおうか?」


「お前は……、追い剥ぎか?」


 自分より年がいくつか下の女を見てマルクエンが言う。


「そーだ。草集めなんてしてる下級の冒険者じゃ私に勝てないよ」


 そう言って女は剣を引き抜く。だが、マルクエンは少しも動じず剣を抜こうともしない。


「どうした? 恐くて動けなくなったか?」


「いや、私は不器用でな。剣を持つと手加減が出来ないんだ」


 その言葉は女の逆鱗に触れた。


「野郎、ぶっ殺してやる!!」


 剣を握り走り来る女。構え方走り方を見て、なるほど確かに剣の腕はそこそこありそうだとマルクエンは思った。


 だが、斬りかかった瞬間。マルクエンはさっと避け、女の手を掴んで投げ飛ばし、剣を奪い取った。


「があっ!!」


 地面に激突し、声を上げる女。だが、次の瞬間。


「今です! 姉御!」


 声を上げると森の中から雷の魔法がマルクエン目掛けて飛んできた。飛び退いて躱し、攻撃された方向を見る。


「手下が世話になったわね」


 そこから出てきたのは魔導書を持つ長い黒髪の女だった。青いアイシャドウとそれと同じ色の唇をしたゴスメイク。その出で立ちを見て一発でマルクエンは分かった。


「黒魔術師か」


「ご名答ね」


 そう言いながら火の玉をいくつも発射する黒魔術師。マルクエンは剣でそれらを切り捨てた。


「なっ!!」


 明らかに初心冒険者の動きではないそれを見て黒魔術師は驚く。


「小癪な!」


 次は極太の氷柱を打ち出す。


 しかし、マルクエンに届く前に剣で弾かれてしまった。


「あなたは!? 一体何者!?」


 そんな事を言う黒魔術師に向かってマルクエンは走り、一気に覆いかぶさり組み伏せ、短刀を首に近付けた。


「降伏してもらおうか」


 そう言うと、黒魔術師は観念したように言う。


「殺すなら殺して」


「姉御!!」


 その時だった。騒ぎを聞きつけたラミッタ達がマルクエンの元へとやって来た。


「宿敵!! 何かあったの……、って」


 黒魔術師の女に馬乗りになっているマルクエンを見てラミッタは……。


「あ、あんた!? 何をしているの!? このド変態卑猥野郎!!」


「マルクエンさん!?」


 シヘンもケイも驚いて一緒にマルクエンの名前を呼ぶ。


「いや、違う!! この者達は追い剥ぎだ! 襲われたんだ!」


 それを聞いてラミッタは拘束魔法を詠唱し、剣士の女と、黒魔術師と、ついでにマルクエンを縛り上げた。


「ちょ、ちょっと待て! 何で私まで縛られているんだ!?」


「うるさいバカ」


 拘束魔法を食らった黒魔術師は驚いた。いくら解除しようとしても身動きが出来ない。ここまで高度な拘束魔法は、かなりの上級者でなければ使えないはずだ。


「あなた達何者なの!?」


「それはこっちのセリフよ」


 ラミッタは剣を黒魔術師に突き付けながら言う。


「あっもしかして、こいつ等最近話題の女盗賊じゃないっスか!?」


 ケイが言うとラミッタはそちらを振り返り「そうなの?」と尋ねる。


「はいッス。黒魔術師とちっこい女の盗賊がいるって」


「誰がちっこいだ!!」


 黒魔術師の手下はそう言い返す。


「確か賞金も掛かってますから、ついでに治安維持部隊に連れて行けば金と冒険者の実績が貰えるっスよ!!」


「そう、それじゃ……」


 ラミッタが言い掛けた時にマルクエンは待ったをかける。


「ちょっと待ってくれ! この国で盗賊はどんな罰を受けるんだ?」


 その質問にケイが答えた。


「まぁ、良くて右手首の切り落とし。悪くて縛り首って所っすかね」


 それを聞いて手下のちっこい女はブルブルと震えだす。


「確かに彼女達は盗賊で、私にも襲いかかった。しかし、飢える者が居るのは国の責任だ!!」


「飢える者?」


 マルクエンの言葉にケイは疑問符が浮かぶ。ラミッタは何かを感づいたみたいだが。


「戦って分かった。剣や動きに力がない。そして痩せて顔色も悪い」


 見抜かれた事に黒魔術師は驚いていた。


「どうしてそれを……」


「確かに、ウチも姉御も一週間は食ってないけど」


 ラミッタはため息を付いて全員の拘束を解いた。マルクエンはカバンから昼食を取り出す。


「これしか無いが、良かったら食べてくれ」


「施しのつもりかしら? 要らないわ」


 黒魔術師は今にも差し出されたパンを食べたかったが、意地を張る。手下もそれを見て目を背けた。


「食べて欲しいんだ」


 重ねてマルクエンが言う。すると、いきなり黒魔術師が高笑いをした。


「なに? 気が触れたのかしら?」


 ラミッタが言うと、黒魔術師はこちらを見る。


「施しではないのなら、これは貢ぎ物ね。あなた殊勝な心がけだわ。特別に下僕にしてあげても良いのよ?」


「は、はぁ……」


 マルクエンは困惑しつつも食料を渡す。受け取った黒魔術師は礼の代わりに指さして言った。


「今日の所は見逃してあげるわ!! でもいつの日か打ち負かして下僕にしてあげる!! 私の名はシチ・ヘプター!! 偉大なる黒魔術師よ!!」


「ねぇ宿敵。こいつ等やっぱり治安維持部隊に突き出した方がいいんじゃないかしら?」


 ラミッタが言いかけている途中だが、追い剥ぎの二人は物凄い勢いで逃げていってしまった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?