「おはようございます! マルクエンさん」
「あぁ、おはようシヘンさん」
一足先にやって来たシヘンに挨拶を返すと、その後ろからラミッタとケイも歩いてきた。
「優雅に紅茶かしら。昨日は眠れた? 宿敵」
「あぁ、おかげさまで」
突っかかってくるラミッタに苦笑して、マルクエンは紅茶を飲み干し席を立つ。
「冒険者ギルドに行く前に、余裕があったらで良いのですが、髭の手入れをしてくれる場所があるとありがたいのですが」
マルクエンが言うとシヘンが尋ねる。
「もしかして、マルクエンさん脱毛の魔法が切れてしまったのですか?」
「えっ? 脱毛の……魔法ですか?」
驚くマルクエンだったが、それ以上にシヘンとケイの方が驚いていた。
「マルクエンさん、もしかして記憶喪失になって忘れたんスか?」
えーっと考えるマルクエンをジロリと見てラミッタは何かを訴えかける。
「どうやらその様ですね。言われてみたら何だか思い出してきました。脱毛の魔法」
笑って誤魔化すと、ラミッタがニヤリと笑ってシヘンに言う。
「シヘン。脱毛の魔法使えたわよね? 掛けてあげたら?」
「そうなんですか。お手数ですが、出来たらお願いできますか?」
それを聞いてシヘンは顔を赤くし、ケイが慌てて言った。
「ダメっスよ!! シヘンの脱毛魔法はダメっス!! 全身ツルピカになったムーラガおじさんの悲劇を繰り返してはイケないっス!!」
「ぜ、全身ツルピカ……」
マルクエンがシヘンを見ると下を向いて黙っている。心の中で犠牲となったムーラガおじさんの毛を思いつつ、理髪店を探すことにした。
理髪店でヒゲを剃った後に例の脱毛魔法を掛けてもらったマルクエン。顔がさっぱりとし、この世界には生活に特化した便利な魔法があるのだなと思っていた。
元々居た世界では魔法と言ったら、もっぱら攻撃の手段だ。魔法を攻撃以外に応用しているということはこちらの世界の方が文明が進んでいるのだろうかと考える。
「皆さん、おまたせしました」
「お、マルクエンさんいい男になったっスね! それじゃギルド行きましょうか」
ケイに言われ、少し照れるマルクエン。一行は冒険者ギルドへと向かった。
マルクエンは三人の後ろに付いて行くと、一際大きい建物の前へとたどり着いた。看板に『冒険者ギルド』と書いてあるのでここで間違いないのだろう。
魔王の情報を集めたいが、先立つ物が無いとその日の食事もままならない。
「立派な建物ですね」
感心してマルクエンは言う。
「私、この街の冒険者ギルドに来るのは半年ぶりぐらいです」
シヘンもそう言って少し緊張していそうだった。ドアを開けて中に入ると、ガヤガヤと活気のある光景が出迎えてくれる。
「えーっと、マルクエンさんって冒険者のランクはどのくらいっスか?」
ケイに聞かれ、発行された冒険者登録証を取り出す。
「えっ!? マルクエンさんあんなに強いのにEランクなんスか!?」
驚いて言われるマルクエン。どう言い訳するか、ランクとは何かと考えていた所、ラミッタから助け舟が来る。