朝に村を出て、その上ケイの道案内もあり、四人は夕暮れ時には街に着くことが出来た。
住民の数は千人ぐらいだろうか、そこそこ大きな街だなとマルクエンは思う。
「さて、今日は遅いですし、宿を取った方がいいっスね。明日この街の冒険者ギルドに行きましょう!」
「えぇ、分かりました」
ケイの言葉にマルクエンは返事をした。宿屋に向かうと三人部屋と一人部屋を取る。
その後は適当な飯屋に向かい、四人は食事を取ることにした。
肉や揚げ物が盛り付けられた大皿料理と、スープにパンが目の前に運ばれてくる。
「よっしゃ、景気よく乾杯! ……、と言いたい所だけど、宿敵。あなたのそれは何?」
「何って、ミルクだが?」
真面目な顔で言うマルクエンにラミッタは爆笑する、
「あんたミルクって、冗談はやめてよ」
「何だと!? ミルクは体に良いらしいぞ?」
「いや、普通酒でしょ酒!! 飲まなそうなシヘンだってお酒頼んでるのよ!?」
ラミッタとケイはジョッキのビールを、シヘンはワインを頼んでいた。
「私は酒が飲めないんだ。ビール一口で気持ち悪くなって寝る」
「そのガタイで酒飲めないの!?」
「あぁ、一滴も飲めん」
断言するマルクエンにシヘンもポツリと言葉を漏らす。
「マルクエンさんの意外な一面ですね」
はぁーっとラミッタはため息を付いた。
「あなたと戦う時、剣じゃなくて酒でも掛けたほうが良かったかしら」
「まぁまぁまぁ、ラミッタさん! 乾杯っスよ!」
「……そうね、おこちゃまに乾杯!」
四人はジョッキとグラスをぶつけ、中身を飲み始める。
食事の時間は楽しいものだった。それが終わると宿屋へと戻る。
「宿敵は一人部屋ね、寂しくなって夜泣かないでよね?」
「ははは、言ってくれるなラミッタ」
そう言ってマルクエンは部屋へと入る。この世界に来て始めて一人でゆっくりと考え事が出来るようだ。
ベッドに腰掛けて天井を見つめる。マルクエンにはこの世界が元いた世界とは別物だと今だに信じられない。
料理もどこか見覚えのあるものばかりだし、言葉も通じる。
だが、この世界にはイーヌ王国もルーサもない。元の世界へ戻れるだろうか? そんな事をぼんやりと考えていた。
いつの間にか眠っていたマルクエンは朝を迎える。定刻になると音が鳴る魔石に起こされ、上半身を起こした。
鏡を見て髪を整える。ふと、伸びてきた髭が気になった。王都では朝メイドに剃ってもらっていたが、現在そんな者は居ない。
一瞬、この世界にも理髪店はあるのだろうかと考えたが、無い訳があるまいと身支度をしながら思う。
マルクエンは宿屋のロビーで仲間達を待つ。その間、紅茶を一杯頼んで飲んでいた。