「待ってくれ、別の世界? どういう事だ!?」
「そのまんまの意味よ。この世界にはルーサもイーヌ王国も存在しないわ。別世界なの」
「そんな……、信じられん……」
マルクエンは目を丸くして言う。
「私だって、死んだと思ったら生き返って、しかも見知らぬ土地よ。最初は信じられなかったわ」
ラミッタは右手を開いて話すと、そうだと思い出したように続けた。
「そう言えば、宿敵。あなたもこの世界に来たということは死んだのかしら?」
「あぁ、恐らくな。お前に付けられた傷が原因で高熱を出し、気が付いたらあの森へ居た」
その言葉を聞いてラミッタはニヤリと笑う。
「そりゃ十中八九死んでるでしょうね。ならば勝負は引き分けって所かしら?」
「あぁ、そうだな」
あっさりとマルクエンは引き分けを認め、つまらなそうにラミッタは前を向く。
「私も、正直ラミッタさんのお話は半信半疑でした。ですが、お二人ほどの実力者がつまらない嘘を付いているとは思えない」
ギルドマスターは手を前で組んで言う。
「そうだ! 元の世界へと戻る方法は無いのでしょうか?」
マルクエンが尋ねると、ギルドマスターは首を横に振る。
「残念ながら……。ですが、古い伝承に、こういった物があります」
ギルドマスターはそう前置きをして、語りだす。
「魔王現れる時、異なる世界から勇敢なる戦士が現れるだろう。その者は魔王を討ち滅ぼし、去っていく。と」
「魔王? ですか」
いまいちピンときていないマルクエンにラミッタは言い放つ。
「居るのよ。魔王」
「そんな、魔王なんておとぎ話の世界だろう? 魔物ならともかく……」
「居るの。この世界には」
はぁーっとため息をついてラミッタが言った。
「本当か!?」
「ラミッタさんの言う通りです。ちょうど一年前、魔王が現れました。やがて、魔王は魔物を束ね、人類に
そこまで言ってから、間を置いてギルドマスターは話し続ける。
「今回の村への襲撃も、恐らくは魔王配下の者の仕業でしょう」
信じられない事の連続でマルクエンは必死に頭を回す。
「と、ともかく。その、伝承が本当であれば、その魔王とやらを倒せば元の世界へと帰れると?」
話に食いつくマルクエンとは対照的に、出された茶を一口飲んでラミッタが言った。
「可能性はあるんじゃないかしら?」
そんな熱くなるマルクエンにギルドマスターは言いづらそうに話す。
「ですが、魔王はとても強く、国が数千の兵士を送り込んでも倒せなかったと聞きます。いくらお二方が強くても魔王相手では……」
マルクエンはその話を聞いてガクリと肩を落とす。魔王とはどんな存在か知らぬが、勝てるだろうかと。
「しょげないの宿敵。この世界も案外暮らしやすいわよ」
「私は、私には、イーヌ王国を守るという使命がある。何としても戻らなくてはならない」
「そう、それじゃやる? 魔王討伐」
まるで少し出かけて用事を済ますかのようにラミッタは言う。
「あぁ、そこでラミッタ。お前に提案がある」
「なにかしら?」
「魔王を倒すまで休戦を申し込みたい」
言われ、ラミッタは大声を出して笑った。
「
「そうか、ありがとう。心強いよ。よろしく頼む」
マルクエンはそう言ってラミッタに手を差し出す。
「あなた、こういうの恥ずかしくないの?」
ラミッタは少し赤面してそっぽを向き、マルクエンの手を握った。
「それで、魔王はどこに居るのでしょうか?」
そうマルクエンが言うと、ギルドマスターが答える。
「居場所を転々としております。今もどこへ居るのやら……」
「魔王って何かこう……、城でも建てて、そこにずっと居るというイメージでしたが」
マルクエンは自国のおとぎ話を思い出していた。そこでラミッタが提案をする。
「魔王を倒したかったら、まずは配下の魔人や魔物を倒す所からね。そうすりゃ怒って出てくるだろうし、戦力も
「そうか……、分かった。他の案も無いしな」
そう言って何かを考え込むマルクエンに、ギルドマスターが言った。
「そうそう、マルクエンさん。異世界から来たことは内密にしておいた方が良いでしょう」
「何故ですか?」
キョトンとした顔で言うマルクエンにラミッタが呆れて言う。
「あなた、腕っぷしは強いのに頭は残念ね。会う人間にいちいち説明しても信じて貰えないどころか、大丈夫かコイツって思われるわよ?」
「まぁ……、確かに」
「それに、万が一にも魔王が伝承とやらを信じていたら、私達に総攻撃を掛けてくるわ。流石にそんなのは勝てないし、周りも巻き込むでしょ」
ラミッタの言葉に納得したマルクエンは、そこまで頭が回らなかった自分を恥じた。
「わかった。ラミッタ、お前の言う通りだな」
「何か聞き分けが良すぎて不気味だね。あなた、戦い以外ではそんな感じなの?」
話が終わった二人は応接室から出た。冒険者の登録証は上手いこと偽造してくれるらしい。
「まずは冒険者としてお金を稼ぎつつ、魔王の情報を集めるわ。ランクの高い冒険者じゃないと閲覧できない情報もあるし」
「そうなのか、わかった」
そんな事を言った後、マルクエンは待っている間どうしようかと思っていると、シヘンとケイがギルド併設食堂の席に座っているのが目に止まった。