「この度はエルフの国を救っていただき、誠にありがとうございました」
悪意との直接対決翌日、フォルトゥナの神殿、謁見の間へ集まった面々。女王メーテリアが守護者と加護者へそれぞれお礼の言葉を述べている。
「今回黒猫とメイちゃん大活躍だったね、あたいの目に狂いはなかったさね」
「ですです! メイさんもう、格好よすぎです。あの『汝の罪は正義か悪か?』ってまた言って欲しいです!」
私が瞳をキラキラさせつつメイさんに迫ると、一瞬頬を赤らめるメイさんは、女王へ向かって恭しく一礼する。
「私もお役に立てて光栄です。親玉であるオパールを取り逃がした事は失態でしたが、この黒猫と責任持って後は追いかけます故、ご安心下さい」
うちの白猫と並んで毛繕いをしていた黒猫は、興味無さそうに肩を竦めた後、ヒョイっとメイさんの肩に乗った。
「ハルキさん、ガーネットさん、あなた方にも苦労をかけました。いち早くあなた方が駆けつけていなければ、悪意によってエルフの国は大変な事になっていたでしょう。改めてお礼を言わせて下さい」
今回の戦闘にもう一組参加していた牡羊座の加護ハルキ・アーレスさんと、守護者のガーネットさん。どうやらメイさんと面識があるみたい。トルクメニアンに住んでいるエルフ、ルルシィさんの推薦でこの戦いに参戦していたらしい。
「いえいえ、一緒に戦ってくれたエルフのグリエルさんを始め、神殿警護隊の方々、メイとトルマリン、皆さんの協力があってこそ、悪意を退ける事が出来ました。少しでも力になれたならよかったです」
「何かあった時はうちのハルキが活躍します故、またいつでも呼んで下さいね」
ガーネットさんの発言に『いやいや俺に振るなよ、ガーネット』とハルキさんが突っ込みを入れている。
「ま、ハルキがまだまだなのは間違いないわね。そこのお姉さんの香りなしじゃあ邪素すら耐えられなかった訳だし」
「おいおい、そんな言い方ないだろ! メイだって、奴の悪意に呑まれて暴走しかけていたじゃないか」
そこへすかさずメイさんがハルキさんへひと言。口論が始まるのかと思いきや……。
「なっ、あれは私一人でもなんとかなったわよ
! まぁ……あの時呼び掛けてくれた事には感謝してるわよ……」
「俺もあの時、メイの声が聞こえたから救われた……ありがとう」
ちょっとちょっと、なんですか、この空気は? 喧嘩が始まるかと思ったら急にしおらしくなってるメイさんが可愛くて私、悶えてしまいます。
「はいはい、
「我ガ側ニ居ル限リ、ソレハ不可能ダ、ガーネット」
呆れたような口調のガーネットさんに対し、黒猫姿のまま補足するトルマリンさん。
「そんなんじゃないわよ。でもハルキ、事実、加護の力で邪素への結界くらい創れるようにならないと、今後の戦いは厳しいわよ?」
「分かってるよメイ。俺だって、もっと強くなれるよう精進するさ」
メイさんって他人に干渉しない魔女みたいな方って聞いてたんだけど、意外と優しい一面も持ってるんですね。そう思ったうちは二人に向かってひと言。
「お二人とも、仲がいいんですね」
「そうなんだよ、俺とメイは……」
「どこがよ!」
自慢気に語ろうとするハルキさんに対し、真っ向から否定しようとするメイさん。二人の声が重なり合い、うちは思わず噴き出すのでした。
この後、メイさん達とハルキさん達はそれぞれ自国へと一度戻るため、カーネリアンが転移魔法陣で送り届ける事となった。カーネリアンは座標として守護者や加護者の登録が出来るため、今後はいつでも会いに行く事が出来る。
「残念ながらオパールは常に外部からの感知を遮断しているから、直接殴りに行く事は不可能さね」
カーネリアンが補足していた。特にエルフの国と同様に、彼女が住むルーインフォールト国は厚い邪素の雲に覆われ、外部からの侵入を防いでいるらしく、攻撃を仕掛ける事は中々容易ではないようで。
「ルルーシュも倒したんなら、オパールも暫くは動かないでしょう。それまではこちらも何かあった時に備えて準備しておきましょう」
「……嗚呼、ソウダナ」
そう語るはガーネットさんとトルマリンさん。メイさんとハルキさんも同意している。
「メイさん、ハルキさん、またいつでも遊びに来て下さいね。女王様もエルフの住民達も、国を救ったあなた方なら大歓迎ですから」
うちがお辞儀をする事で、鶯色のツインテールがぴょんこと跳ねる。メイさんとハルキさん、それぞれ握手をし、暫しお別れの挨拶を交わす。
「ええ、審判の合間に余暇もたまには必要ね。今度はゆっくり観光させて貰うわ」
「カルアさん、ありがとうございます。次回はメイと二人で遊びに行きます」
「それはお断りするわ」
「いや、そりゃないよメイーー」
ハルキさんにべったりなお姉さんと、メイさんにぴったりな黒猫が居る限り、ハルキさんは前途多難な気もするなぁ。
「よーし、脅威も去った事だしさ、これであたいもしばらく休暇が貰えるさね。例の物もよろしくね、メーテリア」
「フ、ヤハリカ、面倒クサガリノオ前ノ事ダカラドウセ物ニ釣ラレタノダロウト思ッテイタヨ」
カーネリアンの発言にトルマリンさんが反応する。気にも留めない様子でカーネリアンは話を続ける。
「まぁまぁトルマリン、あんたも眷属弄ばれた事が気に入らなかったんでしょう? 今回の共闘は互いの意向が合致したという事で」
「別ニオ前ノ行動理念ガ何ナノカ等、我ニハ関係ナイカラナ」
「カーネリアン、あなたに残念なお知らせがあります。オパールが放った邪素を纏った蒼い炎、あの影響で、
「えええええーーま、まさか!?」
メーテリア女王が申し訳なさそうに報告する。白猫の毛並みが総毛立ち、青ざめたように見えた。
「豊穣の女神としての力で国の実りを復旧しますが、暫く時間がかかります。褒美の妖精桃はしばしお預けという事で……」
「そ、そんなぁーー、酷いーー、給料未払いなんて、ブラック企業だぁあああああ!」
白猫カーネリアンの嘆声が、エルフの国へ響き渡るのでした。