私とルルーシュ・プルート。二人の上級悪魔は終焉の天秤により、世界から隔絶される。
「アナタ風情がこのワタクシを裁こうと言うのっ? アナタ程度の力でそんな事出来る訳……」
私は愉悦に満ちた表情で宙に浮かんだまま漆黒の鎌を揺らす。ルルーシュの両腕が一瞬にして吹き飛び、紫色の液体と共に宙を舞う!
「サァ、再生してみなさいよ。自己再生機能があるのでしょう? 再生した両腕を何度も、何度も何度も斬り落としてあげるわ」
「ククククク……そう、アナタ。人間に情けをかける
私の背後で月光を浴びた天秤が激しく揺らぐ。通常なら天秤による審判に身動きすら取れなくなる閉鎖空間にて、
閉鎖空間の外側より様子を見ていた青年が、私へ声を投げかける!
「メイ……メイ! もうやめろ! そいつは極悪非道の悪魔だが、そこまでやる必要は……」
「ハルキ、今いいところなんだから邪魔をしないでくれる?」
ライトグリーンの双眸を光らせ、口元へ笑みを浮かべたまま上空よりハルキへギロリと視線を送ると、生唾を呑んで彼が静止する。道化師は私とルルーシュの様子を黙って静観している。そう……トルマリン。この高揚感、貴方の仕業ね……。
「フフフ……ありがとう、トルマリン。私が今、何をすべきか分かったわ」
「……」
トルマリンは何も答えない。代わりに怒りの形相をしたルルーシュが私を恫喝する。
「ワタクシを……ワタクシを無視しないで貰えるかしら!」
彼女が再び再生した両腕から氷刃を放とうとするも、氷刃を放つ前に私が両腕を斬り落とす。
「己の欲望を満たすためだけに人の命を弄んだ罪。アナタの命程度では償い切れない程重い。死ぬよりも辛い苦しみを味わいながら終焉の天秤によって裁かれるがいいわ!」
「ククククク……ワタクシは……ワタクシはこの程度の力で死ななくってよっ!」
月光を浴びた白銀の天秤が煌めきを放ち、私は漆黒の鎌を振り下ろす。
終焉の天秤は静かに傾く――――
ズルリ――滑り落ちるは己の欲望を満たすためだけに生きた上級悪魔の首。
「さぁ、次は誰? さぁ、さぁ! 終焉の天秤によって、私が裁いてあげるわ!」
血が滾るとはこの事だ。心地いい。嗚呼、裁かれた悪意が私の体躯へ流れ込んで来る感覚。さぁ、もっと……もっと私の前へ憐れな魂を……!
「……イ……メイ……メイ! 目を覚ませ!」
ずり落ちた生首は、閉鎖空間の地面へ転がる。支えを失った悪魔の体躯が力無く折り畳まれた。
漆黒の鎌が纏う黒き靄がだんだんと広がっていき、空間内を埋め尽くしていく。視界は遮られ塗り替えられる……。今ならこの世界全てを塗りつぶしてしまえそうに思えて来て……。
(嗚呼そうか……これが死神から与えられた本来の力か……)
終焉、闇――視界ゼロの漆黒の
『メイ、メイは悪を
「……誰よ……私の名前を呼び捨てにするのは……」
『君が俺へ呼び掛けてくれた時と同じように、今度は俺が君へ語りかける番だ』
「そんなもの、誰も頼んでないわよ?」
『頼んでなくてもやるさ! メイ、君を二度と失いたくないから! 目を覚ませ!』
「目を覚ませって……うるさいわね……私はとっくに目を覚まして……」
「メイ……メイ!」
「え?」
私の両肩を揺さぶっている誰かの声に気づき、私は双眸を開く。周囲を解析した時、脳裏に流れ込んで来る情報量が存在しない……つまり、既にライトグリーンの双眸は光を失っているようだ。
「安心シロ、オマエガ取リ込モウトシタ悪意ハ我ガ喰ラッタヨ」
「漆黒の鎌から靄が溢れ、隔絶された世界が突然真っ黒に染まったんだ。しかも、さっきの君、様子がおかしかったから……心配したんだよ、メイ!」
様子がおかしかった? 私はただルルーシュを裁いただけ。違った事と言えば、あの妙な高揚感……あれは何だったのであろうか……全ては……そう、あの黒猫が私へキ……あ……!
「エロ猫! あなた、さっきの! どういうつもり?」
「ナンノコトダ? 嗚呼、
その言い草にハルキも何か言いたそうに口をパクパクさせたまま、こちらを見ている。天空の舞台を泳ぐハルキンギョの誕生だ。
「いやいや、あんたとは誓うつもりはないから!」
「アレハ我ノ、守護者ノ力ヲ譲渡シ、一時的二オ前ガ持ツ
潜在能力の開放……。傷が塞がった事と、裁きの際の高揚感は、それが原因だったという事?
このエロ猫、まだまだ私に隠している事があるわね。
「そういえば、ルルーシュの死体、貴方が食べたの? トルマリン?」
「イヤ、魂ハ喰ッタガ奴ノ死体マデハ食ベテオラヌ……」
トルマリンが食べていないと言うのならば、彼女の死体は何処へ消えたのか。その事実はハルキから告げられた。
「それが、メイ。閉鎖空間が漆黒の靄で埋め尽くされそうになった後、トルマリンが空間の靄を喰らい、閉鎖空間が解けたんだ。でもその瞬間、あの蠍座の守護者、オパールが彼女の死体を持ち去ってしまったんだ」
「え? じゃあオパールには逃げられたという訳?」
これは私の失態だ。私が我を忘れず、冷静にオパールまで裁けていたなら、きっとそうはならなかった筈。
「メイ。オ前ガ悔ヤム必要ハナイ。ソレニ現時点デオパールヲ裁ク事ハ不可能ダ」
「どういう事?」
私が怪訝な表情で黒猫を見つめていると、黒猫の隣に舞台を駆けて来た白猫カーネリアンが現れ、私へこう告げる。
「そこはあたいが説明するさね!」
この後、白猫から私へ告げられた事実は、私が予想していた範疇を超えていた。
「蠍座の加護ルルーシュ・プルート。種族は上級魔族。そして、蠍座の守護者であるオパール。彼女は天秤座の守護者――
「え!?」
「邪、邪神だって!?」
ハルキと私が同時に声をあげる。オパールは『これは大変な事になったねぇ~~』と彼女の亡骸を無邪気に笑いながら持ち去ったらしい。契約者の命をなんとも思っていないのだろうか?
「死神ノ力デハ邪神ヲ裁ク事ハ出来ナイ。ソレガ事実ダ」
蠍座の守護者――邪神オパール。エルフの国へ迫る脅威は去った。が、オパールはこの
『嗚呼~~、楽しかったぁ~~。仕方無いから、今日は帰るね~~』
私達の脳裏に、彼女の無邪気な笑い声が聞こえたような気がした。