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39 メイ・ペリドッド 幼女の秘密③

 私とルルーシュが激しくぶつかっている中、カーネリアンは純白のボンテージスーツ姿で、女王メーテリアと向かい合う、幼女姿のオパールと対峙していた。


「なぁーーんだぁ~~。白猫と黒猫も来たのかぁ~。凄いねぇ~同窓会みたいだねぇ~!」

「あんたね、人間の国を陥れ、エルフの国を手に入れようなんて、百万年早いさね!」


 カーネリアンの掌から鞭のように放たれる雷撃は、オパールが纏う何かによって弾かれる。幼女は無邪気な笑顔を見せたまま、白猫の攻撃を無視し、掌から邪素を籠めた蒼い炎を豊穣の女神メーテリアへ向けて放つ。メーテリアの前には透明の見えない壁。全てを燃やす闇の炎が女王へ届く事はなく……。


「きゃはははっ。そんな守ってるだけじゃあ何も出来ないよぉ~?」

「それはあなたも同じでしょう? オパール」


 力と力。それぞれの妖気オーラと魔力、邪素が可視化出来る状態で衝突し、その都度舞台が揺れる。白猫カーネリアンが接近戦で仕留めようとオパールへ迫ると、彼女は姿を消し、別の場所へと顕現する。その間、メーテリアは結界を展開し、エルフの国へ被害が及ばないよう警戒しつつ、幼女から漏れ出す異常な邪素から身を守っていた。そう、幼女はこの時、攻撃せずとも踊る兵器と化していたのだ。


「ねぇ。ねぇねぇねぇ? 久し振りの戦闘で、身体が鈍ってるんじゃないの? カーネリアン?」

「そんなことは、ないさねっ!」


 オパールの挑発に乗るかのように、雷撃、火柱、風塵、水流。一つの属性ならまだしも四つの異なる属性、しかも上級魔法レベルの攻撃を連続で放つ彼女が精霊女王であるという事実を、私は後から聞かされる事になるのだが。


 拮抗した状況の中、オパールはその場を愉しんでいるかのように舞台で飛び跳ね、プリンセスドレスを翻す。纏っていた邪素を一旦全て・・体内へと戻した幼女は、オーロラのように光を反射させ、女王と白猫へこう告げた。


「面白くなって来たねぇ~~。折角だから、もうちょっと遊んじゃおっか?」


 蒼き瞳と紅き瞳を妖しく光らせ、蠍座の守護者は無邪気に踊る。



********



 ルルーシュは勝ち誇ったかのように私の前へ立ち、瑠璃色の肌へ飛散した紫色の液体を指でなぞり、自身の舌で舐め取った。


 (フフ……完全に後れをとった形ね。ここまで追い込まれたのは初めてかもしれないわね)


「あら……どうして笑っていられるのかしら?」

「フフフ……命を弄ぶような下衆悪魔・・・・に私が負けるわけ……ないもの……ゴフッ」


 ルルーシュが私を蹴り飛ばし、傷口を赤いピンヒールで踏みつけ、抉る。思わず顔が一瞬歪むが、再び不敵な笑みを浮かべる私に彼女は眉根を寄せたまま、邪素をぶつける。


「下衆悪魔ですって! アナタこそ人間の肩を持つエセ上級悪魔の癖に、気に喰わない……気に喰わないわね!」


 彼女の掌から放たれる氷の刃を掌で受け止める。紅いマニキュアを塗ったダイヤモンドのように磨かれたネイルで私の掌、腕が引き裂かれ、再び私は蹴り飛ばされる。水晶の床がだんだんと、紫色の液体で染まっていく。


「決めたわ。ワタクシの氷で痛めつけ、殺さずオパールの力で生きた奴隷にしてアゲル♡」

「あなた……狡猾なように視えて、感情が高ぶると、意外と周りが見えなくなるのね」


 厚い壁となっていた氷の檻はそのままに、ルルーシュの能力範囲テリトリー内部・・へと空間転移したトルマリンが雷套らいとうを纏った腕を上級悪魔の下腹部へと思い切りり込ませ、そのまま彼女を殴り飛ばす! 瑠璃色の体躯が氷の檻へとぶつかった瞬間、激しい音と共に硝子のように氷が割れ、彼女の檻が消失した!


「メイ! 受け取って!」

「ナイス判断よ、ハルキ」


 ハルキが檻のあった場所へ突き刺さっていた漆黒の鎌を引き抜き、私へ向かって投げつける。両膝をついた状態で私は漆黒の鎌を受け取り、僅かな力で彼に微笑んだ。


「メイ……! お前、妖気オーラが不足していたのか……」

「……そんなこと……言っていられないでしょ、トルマリン?」


 紫色の血が止めどなく流れている。私の傍へ駆け寄った道化師姿の守護者トルマリンが私の両肩を支える。迷宮での連戦、マイ、ブラックドラゴンと終焉の天秤を二回連続で発動した代償。この時私は、解析能力と漆黒の鎌、上級魔法を発動出来ても、終焉の天秤を発動するまで回復していなかったのだ。


「我の判断ミスだ。メイ。仕方ない。守護者トルマリンの名の下に、汝の力、強制発動させるぞ!」

「え……どういう……んっ!?」


 一瞬何が起きたのか分からなかった。私の唇に冷たい何かが触れている。思ったよりも柔らかい。いや、そんな事を考えている場合ではない。


 (え……待って……待って……これ……嘘よ……)


 腸を抉られ、瀕死状態だった事も忘れ、全身が次第に熱くなっていく。道化師からの不意打ちの接吻口づけ。平静を保とうにも、今私の双眸は開きっぱなしになっている事だろう。全身から力が抜けていく私を道化師はそのまま抱き抱える。


「ちょっと……このエロマリン……どういうつも……」


 ドクンッ――


 刹那、私の鼓動が跳ね上がる。血液が循環するかのように全身がたぎっていく。腸を抉っていた傷も次第に修復されていく。


 何なの……熱い熱い熱い熱い……!? 


「ワタクシを愚弄した罪……アナタ達……許しませんわよ……」


 砕けた檻の外、トルマリンの攻撃により吹き飛ばされ、倒れていた上級悪魔が怒りの形相で立ち上がる。しかし、この時、全身を滾らせた私は宙に浮かび、愉悦に満ちた表情で上級悪魔を見下ろしていた。


「フフフフフ……あなたが今迄弄んだ命の数……今から裁いてあげるわ」

「メイ・ペリドッド……アナタ……その姿……!?」


 彼女の掌から放たれた氷刃は、宙に浮かぶ私の前、見えない何かに弾かれる!


「……ひざまずけよ、この外道。創星の加護の下、審判者はの者へ継ぐ。汝の罪は正義か悪か?」


 天空の舞台、刹那、空間より現れし月光に導かれ、遂に終焉の天秤が顕現する――――


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