遠くハルキの首筋へ、瑠璃色の肌を持つ悪魔が近づき、何かをした様子が視えた。ハルキの身体から熱き炎が消え、氷のように硬直していく様子が視える。
「……ハルキ! あなたはその程度で終わらない筈よ!」
思わず声が出てしまうが、ルルーシュはまだ気づいていない様子。むしろ眼前の獲物を弄ぶかのようにハルキの首筋へ舌を這わせ……。
(……私の横へ並んで歩くに相応しい人間になるんじゃなかったの? ハルキ、目を覚ましなさいよ!)
私の声が彼に届いたのかは分からない。この時、彼の身体から再び加護の力が溢れ出す様子が視て取れた。玩具を弄ぶ事に飽きたのか、ルルーシュが彼から背を向けた瞬間、彼女の体躯は爆炎に包まれていた。立ち上がったハルキの槍先は既に悪魔の右腕を薙ぎ払っている。
「ハルキ・アーレス……貴様、何をした」
「言ったろ? 俺の熱はそう簡単に冷めないぜってな」
再び闘志を燃やすハルキと冷徹な悪魔ルルーシュが激しくぶつかり合う様子を遠くより静観する私と道化師。少しは言葉だけじゃない男に成長している……という事かしらね。
「笑みが零れているぞ、メイ」
「気のせいよ……って、あれはまずいわね!」
ルルーシュが残った左腕を掲げた瞬間、呼応するかのように空が胎動したのだ。須臾の間に冷やされた大気。上空より産まれし氷の刃は、彼の闘志はおろか、空間ごと全てを穿たんとしていた。
参戦すべきは今、このタイミングね。
「あら、生きていたのね、ハルキ」
「小僧、奴の能力、よく打ち破ったな」
漆黒の鎌へ力を籠めた私は、鎌を回転させつつ、解析済の氷刃全てを相殺する。守護者である道化師が双眸を細め、ルルーシュの姿を捉える。
「俺はメイを迎えに行くという約束を果たす迄は死ねないさ」
「そう、分かったわ」
ハルキの無事を確認した私は、諸悪の根源である上級悪魔へと向き直る。
私達の様子に気づいた悪魔は、残った左手の指でハルキに斬り落とされた蠍の尾に触れ、滴る紫色の血液を舐め取り冷笑する。ひと言にすると妖艶な悪魔。纏わりつく凍える
「貴女の攻撃、もう見切ったわよ。貴女はここで終わりよ、ルルーシュ・プルート」
「あら~、遅かったわね。メイ・ペリドッド。黒竜を手懐けるのに時間がかかったのかしら?」
「やはり迷宮の異変は貴女の仕業ね。マイを始め、人間の命を弄んだ罪、償って貰うわよ」
「何人でかかって来ても同じ事。凍える程の
エルフの国、天空の舞台にて、漆黒の鎌と彼女の氷刃が激突する!
空間より顕現する氷の刃。彼女が左腕を振り下ろした瞬間、腕の長さ程の氷で出来た無数の鋭利な刃が私へ向けて真っ直ぐ放たれる。
「無駄よ」
漆黒の鎌をひと振りする事で、一瞬で消失する
「氷は防げても、ダイヤモンドのように硬いワタクシ自慢の爪は防げなくってよ?」
「それはどうかしらね?」
一旦距離を取る私とルルーシュ。その間も彼女は、私の足許を凍らせようと加護の力を発動している。氷による動き封じを諦めたのか、彼女は左手を添え氷のように冷たく笑う。
「フフフ……そう、ただその鎌で打ち消しているだけではないという訳ね。その様子、ワタクシの氷を封じたとでも言いたげね。あなたの能力、とても興味があるわ?」
「
解析した能力を提示するも、
「そうね、そうだとしても、ワタクシの力はそれだけでは語れなくてっよ」
滴る血が止まっていたルルーシュの右腕結合部分が蠢き、何事もなかったかのように
「くそっ、俺がやっと斬り捨てた腕と尾をいとも簡単に再生させやがった……」
「お前はよくやった。後は我とメイがやる」
ハルキが悔しそうな表情でこちらを見ている。『仲間にしてあげますか?』と質問が出て来そうな表情だったが、今は構ってあげている余裕はない。
「さて……と、そろそろ頃合ですわね」
「……!」
刹那、ルルーシュの纏う邪素の量が増大する! 私は背後からの気配に旋回しつつ漆黒の鎌を振るう。背中へ向け放たれた氷の刃が砕かれるも、続けて水晶の床より何本もの氷が槍のように私へ向け伸び、襲い掛かる!
「氷は封じた筈よ? とも言いたげね?」
「一体どういう事?」
私は能力を開放したまま旋回しつつ、氷刃による連戟を鎌で打ち払う。ライトグリーンの双眸で彼女を見失わないよう見据えつつ、氷による猛追を食い止める。が、ルルーシュは背後から迫る氷の刃を打ち砕き、背を向けた一瞬の隙を狙う。太腿を狙って放たれた、切り離された蠍の尾の先端部分――突き刺さる尾をすぐに引き抜くも、私の太腿より紫色の血が流れ、一瞬身体がぐらつく。
「「メイ!」」
私のピンチにトルマリンが
「解析によりアナタが毒を打ち消すまで約2.5秒。ワタクシにとってはそれで充分よ、メイ・ペリドッド」
「しまっ……!?」
私の胸を狙い放たれた氷の槍を漆黒の鎌で弾くも、悪意の刃は無情にも腸を抉り、私の身体へ孔が空く。
そのまま私は膝から