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Ⅹ 幼女の戯れ 37 メイ・ペリドッド 幼女の秘密①

「これは……大変です!」


 眼前の景色が見慣れぬ場所に切り替わった瞬間、叫声をあげた者、それはエレメンティーナの住民であり、乙女座の加護であるカルア・ヘルメスであった。


 空が啼いている。大地が悲鳴をあげている。豊穣の大地と呼ばれるエルフの国。美しき景色は変わり果てた姿となっていた。所々で燃え上がる蒼き炎。結界に覆われていた筈の空間で、邪素が大気を侵食しようと滲み出ている。


「あの炎……迷宮の最下層にあった炎と同じね。邪素で溢れているわ」

「そんな! 早くしないと私達の集落が!?」


 狼狽し、集落へ向かおうとするカルアの腕を私は掴む。


「カルア、冷静になりなさい。手段はあるわ。邪素なら聖属性で浄化させればいい」

「聖属性……それならっ!?」


 カルアが宝石を嵌め込んだ杖を掲げ、言葉を紡ぐ。杖が白き光に包まれたかと思うと、カルアの前へ魔法陣が出現した。


「お願い……皆を助けて! 風精霊――シルフィ! 聖精霊――ユニコーン!」


 カルアの連続詠唱。くるくると羽根の生えた妖精姿の風精霊と、額より黄金色の角を真っ直ぐ伸ばした、白き毛並の一角獣が顕現する。


「ちょっとぉ~私出番多くな~い? 還って寝たいんだけ……ちょっとどうなってるのよ!?」

「あんさん、呼んでいただくの久々ですなぁ~~。おっと、どうやら大変な事になっとりますなぁ~~」


 どうやらカルアの呼ぶ精霊は変わったノリの子が多いみたいね。


「シルフィ、ユニコーン。エレメンティーナが大変なの……。お願い、力を貸して!」


 カルアが今にも泣きだしそうな表情で訴えかけると、シルフィがくるくる回転しつつ宙を舞い、一角獣は整った白き毛並の全身をブルブル震わせた。


「そういう事なら任せてよ」

「わてを呼んだのは正解でおまっせ!」


 ユニコーンの角へ白き粒が集まっていく。金色の角が光を集め、シルフィが風の渦を纏っていく。ユニコーンが放つ光の粒が翠色の風に乗り、やがて聖なる風を引き起こす。


「「聖浄の微風セイクリッドブリーズ!」」


 近くで燃えていた蒼き炎が光の風に包まれ、やがて煌めきと共に鎮火していく。既にシルフィとユニコーンは次の一手に出る。


「一丁あがり! あたしの力、見直した?」

「カルアはん。わての背中に乗り! 集落の者を助けるで!」


 この子達に任せておけば、これ以上被害が広がる事はまず無さそうね。


「カルア、そっちは任せてもいいかしら!」

「勿論です。カーネリアン。女王様をお願い!」


 ユニコーンへ跨ったカルアはボンテージスーツ姿の白猫カーネリアンへ視線を送る。


「はいはい。あたいとこのエロ猫がなんとかするさね」

「なぜそこに我が加わる?」


 そう言いつつ、道化師姿のトルマリンは既にとてつもない邪素を感じる遠くの一点を見つめている。


「あっちからとんでもない量の悪意を感じるわね」

「これは……急いだ方が良さそうさね!」


 カルアはユニコーンの背に乗り、シルフィと集落の救出へ。

 そして私はトルマリン、カーネリアンと、エレメンティーナを見下ろすとされる、巨大な創星樹――フォルトゥナの神殿へと向かう。


 エレメンティーナ全体を見渡すように聳え立つ創星樹。妖精界の豊穣を見守る大樹に今、目に視える・・・悪意が迫っている。水晶の床、螺旋階段が煌めきを放つフォルトゥナの神殿最上部、競り上がった舞台が視える。どうやら上空にて、激しく何か力と力が衝突しているよう。


「女王が天空の舞台を創ったという事は、動き出したという事さね! 急ぐさね!」


 ボンテージスーツ姿の白猫カーネリアンが私達を促す。気づけば先程まで国中で蠢いていた蒼き炎も不思議な水のシャボンによって包まれている。これが豊穣の女神と呼ばれる女王メーテリアの力。


「女王の力は強大だが、オパールはそれ以上だ。行くぞ、メイ」

「ええ。最初からそのつもりよ、トルマリン」


 カーネリアンが転移用魔法陣を展開し、天空の舞台へと移動する。広い水晶の舞台にて、二つの勢力がぶつかり合う様子が視てとれた。冷たく大気を一瞬にして凍えさせる悪意と、そんな相手に眼前と立ち向かう正義の炎。あれは……!


「ハルキ!? あなた、どうして……!?」


 (どうしてハルキが此処に? 女王が呼んだ?)


 瑠璃色の肌をした妖艶な女悪魔と正義の炎を槍に灯した赤き髪の青年。なぜ、彼がこの国へ? 様々な憶測が頭を過るが、いま考えている余裕はなさそうだ。そして、私は気づく。ハルキと闘う女性こそが、アルシューン公国を脅かしていた悪意の元凶――蠍座の加護、ルルーシュであると。


「トルマリン、あんたはルルーシュを止めるさね。あの坊ちゃん一人じゃ危険よ! あたいは女王を護るよ!」

「嗚呼、カーネリアン。こっちが片付いたらそちらへ行く」


 舞台の前方と後方、エルフの国を脅かす悪意が二手に分かれている。女王の玉座が位置する舞台前方にて、豊穣の女神様らしき者が邪素を纏った幼女・・と対峙している。この幼女は恐らくルルーシュの守護者、オパールなのであろう。


 白猫カーネリアン黒猫トルマリンが行動を開始しようとする。

 私はライトグリーンの双眸を光らせ、ルルーシュの能力を解析……!?


「なっ!? ハルキ!」


 私は双眸を丸くする。この時ルルーシュの妖艶かつ冷徹な脅威がハルキの眼前に迫っていたのだ。


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