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β 閑章Ⅲ 32 閑話 カーネリアン《白猫と黒猫》

『ナゼダ……ナゼキカヌ……』


 全てを灰燼にするレベルの炎だもんね。そりゃあドラゴンも驚いて当然さっ。それに、あたいらの何倍もの大きさの竜爪りゅうそうを胡散臭そうな道化師が、鬼のように変化した腕で受け止めている訳で、普通有り得ない光景だよね。


「怒りを鎮めよ、黒竜。今後のお前の態度によっては我の眷属としてやってもいい」

『嘗メルナァアア!』


 刹那全てを灰燼と化す炎の吐息ブレスが道化師の身体を覆い尽くす。道化師の背後に居たあたいは自身を護るように結界を展開する。炎が消えた時、死神は服の煤を軽く払い、何事もなかったかのように竜の前へ立つ。


「いい力だ。その力、此処で消しておくには勿体ない」

『……! ホロビヨ!』


 迷宮内を覆い尽くす邪素ダークマナ。人間ならば実体を保てないレベル。猛烈な邪素の風塵に吹き飛ばされる事なく、道化師は黒竜へと迫る。


「往生際が悪いのは嫌われるよ、黒竜ちゃん・・・。あんたのその垂れ流している邪素、外界で生きる者が困ってるのさ。あたいらはあんたが平穏に暮らせるお手伝いをしようって言ってんの! ちゃんと話を聞きなさい」


 あたいが手を翳すと、黒竜の身体は翠色の光る風によって創られた檻に拘束される。自身を縛られる経験などない黒竜は猛り狂うが、身体を動かす事を許されない。


『オ……オ前ラ……何者ダ……』


 狼狽する黒竜へ道化師とあたいはこう告げるのだった。


「天秤座の守護者――トルマリン。死神だ」

「乙女座の守護者――カーネリアン。精霊女王・・・・よ」



********


「ヒサシブリダナ、猫娘」

「やぁセクハラ黒猫。数百年振りかな?」


 この国は広いね。アルシューン公国、王都アルシューネ。メインストリートから外れた路地裏であたいは黒猫へ声をかける。


「ナンノヨウケンダ? オ前ノ仕事ハヒキコモリ女王ノ世話ジャナカッタノカ?」

「あんまり言うと女王が怒るよ? まぁ、黒猫が丸焼きになろうと微塵切りになろうと、あたいの知ったこっちゃないけどさっ」


 数百年振りの再会だけど、こいつは昔と変わってないね。冷淡な口調、行動理念は己の信念のみ。そういう意味ではあたいとちょっと似たところはあるんだけどさ。


「ヨウガナイノナラ去レ。我ハ忙シイノダ」

「ちょっと、待ちなって。今度あんたの新しいパートナー、そこの迷宮へ挑むんでしょ? あんた一人で片づける気だろうけど、あたいが協力してやってもいいよって言ってるんだよ?」


 あたいは白猫姿から、妖精桃エルフィナピーチのような果実を強調させた白いボンテージスーツ姿へ変化する。こいつはエロ猫だから、この姿できっと欲情して協力してくれる筈……。


「猫娘、戯レ事ハ国ニ還ッテヤルトイイ」

「えええええっ!? あんたあたいの身体好きだったじゃない!? 早くエロ道化師になりなよ? 珍しくあたいが果実をサービスしてやってるんだから!」


 二つ実った桃を強調させつつ黒猫へ迫るも、黒猫は路地裏に積まれた樽の上へと飛び上がる。


「オ前ノ魂胆ハ分カッテイル。迷宮ノ悪意ヲ止メル代ワリニオ前ノ国ニ向カッテイルオパールヲ一緒ニ止メロトイウ話ダロウ」

「なんだーー。全部分かってるんじゃーーん。流石トルマリンちゃーーん!」


 さっとトルマリンの身体を掴もうとすると、あたいの両腕は空を切り、あたいの背後に道化師姿の守護者が顕現していた。


「ここ最近、奴の動きは監視している。迷宮の異常に奴が絡んでいるかどうかはどうでもいい。だが……」

「もしオパール・・・・が黒竜ちゃんを利用したのなら……?」


 道化師の心理を読み、あたいが先に言葉を述べる。道化師がゆっくり息を吐く。


「まぁ、ちょっと挨拶してやってもいいか」

「さっすがーー。トルマリン様ーー話が早くて助かるよーー」


 あたいは道化師へ果実を押し当てるようにして身体を摺り寄せ、ゴマをする。元々面倒くさがりだから、本当はこういう役回りしたくないんだよね。これも全部妖精桃のため (国のためじゃないんかい!?) なんだから仕方ないよねっ。


「女王には何と言われたんだ? どうせ何かで買収されたんだろう?」

「そういう全てを見透かすような喋り方……嫌われるから止めた方がいいよ?」


 擦り寄るあたいの果実から擦り抜ける道化師。あら鋭いね、トルマリンちゃん。


「お前は恥じらいというものがない。最早お前の千年近く育って熟れすぎた果実には興味はないぞ?」

「……エロ道化師……消し炭になるか、微塵切りになるか、氷の彫刻になるか……どれがいい?」


 あたいは掌へ炎、風、氷の魔力を続け様に籠める。道化師は興味無さそうに、背を向け、先を急ごうとする。


「お前と争うつもりはない。我が興味あるのはだけだ」

「はは~ん。成程ね、あの子の林檎よりも大きな果実にあの衣装。そういう事……あんたの興味は若い女の子って訳か、この変態道化師がっ!」


 刹那、背を向いていた筈の道化師は、いつの間にかあたいの背後に廻り、後ろから手を回す。あたいの果実を両手で持ち上げ、重量を確かめる。


「やはりな。少し重力へ逆らえなくなったんじゃないか? 果実が垂れて来ているぞ?」

「……そうなんだよねぇ~~千年も維持するのってやっぱり大変だからさ~~……ってこのエロ道化師ーー!」


 あたいの拳が道化師の顎へクリーンヒット。道化師は遥か上空へ飛んで行き、極創星世界ラピス・ワールドの星になりましたとさ、めでたし、めでたし。


「勝手に我を星にするではない。触れられて喜ぶ発情猫」

「なっ、喜んでなんかないしっ! このエロ道化師がっ!」


 こいつは昔から変わってないな。数百年前突如あたいの前から姿を消した癖に、全く反省していないし。


「黒竜が奴の手に堕ちたなら、黒竜を逃がすための準備が居る。手伝え」

「はいはい、セクハラ道化師さん。よろしくお願いしますね」


 この後あたいとトルマリンは、街の路地裏から国の外れにある平原へと移動する。黒竜の邪素が漏れないよう巨大なドーム状の結界を展開。後は迷宮攻略へ挑むカルア達の頃合を見て、カルアの座標・・・・・・へ転移すれば問題ない筈さね。


 あの黒竜ちゃんとも久方ぶりの再会になるかもしれないね。


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