『ナゼダ……ナゼキカヌ……』
全てを灰燼にするレベルの炎だもんね。そりゃあドラゴンも驚いて当然さっ。それに、あたいらの何倍もの大きさの
「怒りを鎮めよ、黒竜。今後のお前の態度によっては我の眷属としてやってもいい」
『嘗メルナァアア!』
刹那全てを灰燼と化す炎の
「いい力だ。その力、此処で消しておくには勿体ない」
『……! ホロビヨ!』
迷宮内を覆い尽くす
「往生際が悪いのは嫌われるよ、黒竜
あたいが手を翳すと、黒竜の身体は翠色の光る風によって創られた檻に拘束される。自身を縛られる経験などない黒竜は猛り狂うが、身体を動かす事を許されない。
『オ……オ前ラ……何者ダ……』
狼狽する黒竜へ道化師とあたいはこう告げるのだった。
「天秤座の守護者――トルマリン。死神だ」
「乙女座の守護者――カーネリアン。
********
「ヒサシブリダナ、猫娘」
「やぁセクハラ黒猫。数百年振りかな?」
この国は広いね。アルシューン公国、王都アルシューネ。メインストリートから外れた路地裏であたいは黒猫へ声をかける。
「ナンノヨウケンダ? オ前ノ仕事ハヒキコモリ女王ノ世話ジャナカッタノカ?」
「あんまり言うと女王が怒るよ? まぁ、黒猫が丸焼きになろうと微塵切りになろうと、あたいの知ったこっちゃないけどさっ」
数百年振りの再会だけど、こいつは昔と変わってないね。冷淡な口調、行動理念は己の信念のみ。そういう意味ではあたいとちょっと似たところはあるんだけどさ。
「ヨウガナイノナラ去レ。我ハ忙シイノダ」
「ちょっと、待ちなって。今度あんたの新しいパートナー、そこの迷宮へ挑むんでしょ? あんた一人で片づける気だろうけど、あたいが協力してやってもいいよって言ってるんだよ?」
あたいは白猫姿から、
「猫娘、戯レ事ハ国ニ還ッテヤルトイイ」
「えええええっ!? あんたあたいの身体好きだったじゃない!? 早くエロ道化師になりなよ? 珍しくあたいが果実をサービスしてやってるんだから!」
二つ実った桃を強調させつつ黒猫へ迫るも、黒猫は路地裏に積まれた樽の上へと飛び上がる。
「オ前ノ魂胆ハ分カッテイル。迷宮ノ悪意ヲ止メル代ワリニオ前ノ国ニ向カッテイルオパールヲ一緒ニ止メロトイウ話ダロウ」
「なんだーー。全部分かってるんじゃーーん。流石トルマリンちゃーーん!」
さっとトルマリンの身体を掴もうとすると、あたいの両腕は空を切り、あたいの背後に道化師姿の守護者が顕現していた。
「ここ最近、奴の動きは監視している。迷宮の異常に奴が絡んでいるかどうかはどうでもいい。だが……」
「もし
道化師の心理を読み、あたいが先に言葉を述べる。道化師がゆっくり息を吐く。
「まぁ、ちょっと挨拶してやってもいいか」
「さっすがーー。トルマリン様ーー話が早くて助かるよーー」
あたいは道化師へ果実を押し当てるようにして身体を摺り寄せ、ゴマをする。元々面倒くさがりだから、本当はこういう役回りしたくないんだよね。これも全部妖精桃のため (国のためじゃないんかい!?) なんだから仕方ないよねっ。
「女王には何と言われたんだ? どうせ何かで買収されたんだろう?」
「そういう全てを見透かすような喋り方……嫌われるから止めた方がいいよ?」
擦り寄るあたいの果実から擦り抜ける道化師。あら鋭いね、トルマリンちゃん。
「お前は恥じらいというものがない。最早お前の千年近く育って熟れすぎた果実には興味はないぞ?」
「……エロ道化師……消し炭になるか、微塵切りになるか、氷の彫刻になるか……どれがいい?」
あたいは掌へ炎、風、氷の魔力を続け様に籠める。道化師は興味無さそうに、背を向け、先を急ごうとする。
「お前と争うつもりはない。我が興味あるのは
「はは~ん。成程ね、あの子の林檎よりも大きな果実にあの衣装。そういう事……あんたの興味は若い女の子って訳か、この変態道化師がっ!」
刹那、背を向いていた筈の道化師は、いつの間にかあたいの背後に廻り、後ろから手を回す。あたいの果実を両手で持ち上げ、重量を確かめる。
「やはりな。少し重力へ逆らえなくなったんじゃないか? 果実が垂れて来ているぞ?」
「……そうなんだよねぇ~~千年も維持するのってやっぱり大変だからさ~~……ってこのエロ道化師ーー!」
あたいの拳が道化師の顎へクリーンヒット。道化師は遥か上空へ飛んで行き、
「勝手に我を星にするではない。触れられて喜ぶ発情猫」
「なっ、喜んでなんかないしっ! このエロ道化師がっ!」
こいつは昔から変わってないな。数百年前突如あたいの前から姿を消した癖に、全く反省していないし。
「黒竜が奴の手に堕ちたなら、黒竜を逃がすための準備が居る。手伝え」
「はいはい、セクハラ道化師さん。よろしくお願いしますね」
この後あたいとトルマリンは、街の路地裏から国の外れにある平原へと移動する。黒竜の邪素が漏れないよう巨大なドーム状の結界を展開。後は迷宮攻略へ挑むカルア達の頃合を見て、
あの黒竜ちゃんとも久方ぶりの再会になるかもしれないね。