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Ⅷ 黒竜顕現 28 メイ・ペリドッド 死神の眷属①

「……どうして冒険者が挑む迷宮の最下層にそんな魔物が!」

「そんな事、言ってる暇は無さそうだよ!」


 ――……!


 刹那黒竜が咆哮し、再び紅蓮の炎を巨大な顎門より吐く。私とブレアは素早く結界を展開し、炎から身を護る……が!


「くはっ!」

「ブレア!」


 既に巨大な尻尾が結界を展開していた私とブレアの眼前へと迫る。躱しきれなかったブレアの肉体が吹き飛び、壁へと激突してしまう。ブレアはサンストーンの姿から元の女執事姿へと戻ってしまった。


「僕色に染まれ! ――水戟創造!」


 クレイが岩をも砕く水弾を黒竜の体駆へ向け放つも、水弾は竜の硬い鱗に阻まれ、弾かれる!


『シンニュウシャヨ……ホロビルガイイ』


 (この竜、こちらの言葉が分かるのね)


 巨大な竜が腕を振り下ろし、クレイが素早く後方へ飛び上がる! 竜の腕を躱したかに見えた彼の身体には鋭い爪痕がついており、赤い血が戦場へと舞ってしまう!


「クレイさん!」

「駄目よ、斬擊を紙一重で躱しても、竜爪りゅうそうを覆う邪素に喰われてしまうわ!」


 カルアが驚声をあげる中、私はライトグリーンの双眸を光らせ、黒竜の攻撃をつぶさに解析する。


『ナンジ……ヤミノモノカ……』

「ええそうよ、黒竜さん。お互い闇の者同士、仲良くしましょう」


 漆黒の鎌の柄を回転させ、私は巨大な黒竜を前に呼吸を整え、対峙する。


「カルア、私の背後に居なさい」

「メイさん、でもどうするんですか?」


『ナニモカモ……ホロビルガイイ……』

「こうするのよ!」


 刹那、黒竜の顎門より紅蓮の豪火が私へ向け放たれるが、私は漆黒の鎌を回転させ、全てを灰燼にする最凶の豪火を受け止める。紅蓮の豪火を漆黒の鎌が打ち消す事で、私を起点とし、受け止めきれなかった豪火は放射状に流れていく。


『ニクイ……ニクイ……ナニモカモ!』


 獲物を仕留めきれなかった事に怒っているのか? 黒竜が猛っている。腕を振るい、その巨体に見合わないスピードで私を一撃で引き裂こうとする竜爪! カルアと私は散開し回避するが、続け様に黒竜は巨大な漆黒の翼をはためかせた! 


 (不味いわ!)


 黒竜が翼をはためかせた瞬間巻き起こる風は邪素ダークマナを含んでいた。日常では決して浴びる事のない邪素の量。私が受け止めなければ皆の肉体が破壊されてしまう。解析前・・・の攻撃を漆黒の鎌へ集め、受け止めるが、吸収し切れなかった風が背後へと流れ、巻き起こる暴風に肉体が吹き飛ばされそうになるのを必死に堪える。


「……皆、無事!?」


 ブレアが再びサンストーン姿となり、身体を引き裂かれたクレイの背後に廻り、クレイが浄化の力を携えた水柱で風を分散、残った邪素をカルアが魔法結界で食い止めている。


「私達は平気です!」

「それよりそいつどうにかしないとヤバイよ、メイちゃん!」


 クレイの言う通りだった。漆黒の鎌でブラックドラゴンの腕を斬り捨てようとするが、全く傷一つ付ける事すら出来ない。さて、どうするべきか。再び振り下ろされる腕を躱しつつ、思案する私。邪素を纏った風が有効と見たドラゴンが至近距離から風を巻き起こし、漆黒の鎌を回転させつつも私は後方へと吹き飛ばされてしまう!


「メイさん! ……ひっ……大変!」


 カルアが後方へ飛ばされた私を受け止めてくれたのだが、私の姿を見て悲鳴をあげていた。


 見ると私の両腕が火傷をしたかのように爛れ、皮膚が剥がれ落ちていた。これだけ高濃度な邪素を真正面から全て受け止める事は魔族・・の私でも危険という訳ね。


「これ以上は危険です! あの邪素の塊のような風をなんとかすればいいんですよね?」

「カルア貴女、精霊召喚出来ないんでしょ? 無理しないで」


 私の前にこれまで魔法結界を張る事しか出来なかったカルアが立っている。


「出来ないとは言ってません。この場に召喚出来る精霊が少ないだけです! 闇の精霊よ、出番です! ――アビスバク!」


 四足歩行の黒光りする身体。鼻を少し伸ばした生物は、欠伸をするかのように大口を開け、私達と黒竜の前へと顕現した。黒竜は再び漆黒の翼より邪素の暴風を巻き起こすが、アビスバクの大口に暴風が吸い込まれ……!


『んもぉおおおん! ごちそうさまぁあああん!』


 場に似つかわしくない声が響き、何事もなかったかのように場が一瞬静まり返る。


「アビスバクは邪素を食べるんです! メイさん、邪素はうちが引き受けます! 後はお願いします」


 成程、そう言う事ね。いい判断よ、カルア。


「分かったわ! ブレア、まだイケる?」

「勿論です!」


 場に散らばるありったけの星屑スターマナを集め、サンストーンの援助力により、練り上げる魔力の量を倍加させていく。私達の動きを危険と判断した黒竜が腕を振るうが、その腕は巨大な水塊によって阻まれる! 身体の傷を右手で押さえたまま、左手でクレイが放った水弾だった。


「おっと、メイちゃんの邪魔は僕がさせないよ!」


 クレイのお陰で準備が整ったわ。私はブレアを背後に漆黒の鎌を天上へと掲げ、黒竜へ向かって叫んだ!


「滅びるのはあなたよ! 創星魔法、極大氷結力・カロンドストリーム!」


 迷宮内、天井に突如巻き起こる水色と白を織り交ぜたかのような魔力の渦。凝縮した魔力の雲より、氷の刃が無尽蔵に降り注ぐ。黒竜の体躯を穿つ、冷たく鋭い刃。ペテルギウスと並ぶ極大創星魔法により、ブラックドラゴンの皮膚へ初めて傷がつき、翠色の体液が飛散した!


『ニクイ! ……ニクイ! ガァアアアアアア!』


 激しく猛り咆哮する黒竜。放たれる邪素はカルアが迷宮へ放ったアビスバクが喰らう。氷の刃が収まった時、翠色の液体を流したまま黒竜は、全てを忌み嫌うかのような鋭い眼光で私達を睨みつける。


「分かったわ。貴方が何をそんなに憎むのか、私が視てあげる。創星の加護の下、審判者はの者へ継ぐ。汝の罪は正義か悪か?」


 そして、私が言葉を紡ぐと共に、黒竜を取り囲む迷宮内の空気が一変した。


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