続け様に放たれる火球へ自身の槍に籠めた炎を乗せ、ワイバーンへと返すが、恐らく炎に耐性があるのだろう、喰らった炎によるダメージを諸共せず、ワイバーンは巨大な尻尾を振り回し、反撃に出ようとする。
「
旋回する尻尾と振り下ろされる腕を掻い潜り、グリエルが白銀に輝く矢を放つ。矢はワイバーンの巨躯に突き刺さり、緑色の液体が溢れる。火球を俺が食い止め、グリエルが隙をつき、反撃する。絶妙なコンビネーション。しかし、躱し切れなかったワイバーンの爪撃がエルフの腕を掠め、彼は後方へ吹き飛ばされてしまう。
「グリエルさん!」
「このくらいどうって事ないさ。しかし、これでは致命傷を与えられない。どうすれば……」
弓を構えるグリエルが片腕を押さえている。ワイバーンの攻撃を惹きつけつつ俺は槍先を回転させる。
「
双翼竜が放つ火球を槍を回転させつつ受け止め、そのままワイバーンの巨躯へ槍撃を加える。竜の鱗を焼き切る感覚。これで少しはダメージを……!
「ハルキっ!」
「くっ!」
眼前には既にワイバーンの尻尾があり、俺の身体も後方へ飛ばされてしまう。槍と腕で防御したため、大したダメージはないが、俺の槍撃を受けても尚、反撃して来た双翼竜の姿に思わず苦笑する。
「なかなかやるじゃん、あのワイバーン」
「グリエルさん、アイシクルアローを放ちなさい!」
そう叫んだのは俺の
「ハルキ、あの火球をお願い!」
「よしっ、来い、ワイバーン!」
挑発に乗るワイバーンが巨大な火球を放つ。学習していないのかとも考えたが、恐らく炎を返されても自身に耐性があるため平気だと考えているのだろう。しかし、俺は火球を槍で受け止めると、そのまま炎の渦を引き起こしつつ受け流し、上空へと槍先を向ける。火球は火柱となり、蒼穹を焼いていく。
「今です、グリエルさん。創星魔法、援助力・グラジオラスオドル!」
「創星魔法、氷結力・アイシクルアロー!」
刹那、戦場を駆け抜ける甘い香り。エルフが籠めた魔力により、矢は冷気を纏ったまま白く輝き、一直線に双翼竜へと向かって行く。ワイバーンの胴体へ突き刺さった瞬間、漆黒の体躯と翼がみるみる凍りついていき、咆哮する魔物の動きが止まる。もう一体のワイバーンにも同様に氷の矢が放たれ、二体の竜は活動を停止した。
「悪しき魔物よ、砕けろ!
魔物の巨躯へ輝く矢が突き刺さった瞬間、エルフの魔力に包まれたワイバーンは光と共に霧散した。
「よし……倒したぞっ!」
「流石です、グリエルさん」
「イケメンエルフは違うわね」
ガーネットの香りにより強化されたグリエルの矢は、中級氷結力から上級氷結力へ、通常の
「グリエル様ーー。また靄が……!?」
気づくとまた上空へ邪素による靄が出現していた。靄はまた魔物の姿を象っていき……。
「ちょっと待てよ……これ無限ループじゃないの……」
俺は深く溜息をつくのであった……。
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「ねぇ、ガーネット。最初からこうすればよかったんじゃないの?」
「ハルキ、これは途中から思いついたの。でもこのやり方、限界があるわよ。働き方改革を求められる昨今、二十四時間勤務は時代錯誤ね」
今、結界は安定している。度重なるワイバーンとの戦闘に疲弊していたものの、エルフ達の回復によって俺やグリエルの傷も塞いでもらっている。そして、今俺の守護者であるガーネットは、お姉さんの妖艶な甘い香りを神殿警備隊へ振り撒き歩いている。
「お姉様、一生ついていきます!」
「うぉおおおお! 元気が出たぁああああ!」
「君、僕とこの後、豊穣の大地をデートしないかい?」
次々にお姉さんへ声をかけるエルフ達。そう、いつの間にかグラジオラスオドルによる甘い香りが戦場を癒しの空間へと変えていたのだ。俺は彼女の香りに普段から慣れているため平気だが、リラックス効果が期待出来る香りも、ここまで来ると甘い香りに脳内を蹂躙されてしまいそうになる。
「あぁ、このときめきは何だ。胸に咲き誇るこの華を全て君へ捧げてしまいたい」
嗚呼、また一人のイケメンエルフが犠牲に……。え? どうしてこうなったかって? 度重なるワイバーンとの戦闘を終焉させるため、俺達が選んだ作戦がこれだったからだ。結界を強化させるエルフ達を
「ああああああああああ!」
「ジョニー! 大変だ。ジョニーが、ジョニーがぁ!」
香りによる少しの強化ならまだしも、
尚、女性エルフはこの先陣には居ない。神殿警備隊に居ないという訳ではないらしく、危険な場所へ彼女達を配備する訳にはいかないと、男性陣が女王へ懇願したらしい。ではもし、ここに女性が居たらどうなっていたのか? それはそれで百合の花が咲き乱れて大変な事になっていたのかもしれない。
「ハルキ、もう
嘆きの声をあげるガーネット。魔力補充のために山のような
「ガーネット様、我々エルフは基本お肉を食べません。きのこと野菜のスープで我慢して下さい」
「え~~そんなぁ~~」
ガーネットの悲痛な叫びが、エレメンティーナの大気へ木霊するのであった。