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21 ハルキ・アーレス 豊穣の女神②

 そこはまるで、幻想的な極創星世界ラピス・ワールドの桃源郷を体現したかのような世界だった。


 四季折々の色彩を集めたかのように咲き乱れる花畑。黄金に輝く麦畑は優しく撫でる風に豊穣の鐘を鳴らす。チューリップのような花弁から、星屑スターマナを可視化したかのような煌めきをポンプのように上下運動で導き出す花。光を反射する星屑のシャボンは綿毛のように風に乗り、空を渡る。


「これがエルフの国……凄いな……」

「まるで別世界ね。私も初めて訪れたわ」


 丸いコテージのような石壁の家、大樹を繰り抜いた中に出来た家にて、耳の尖った美しいエルフ達が生活をしている。森と大地の実りと共に生活する長寿の亜人。髪の色も様々、チューブトップのような格好で歩く女性エルフ、弓を背負った男性エルフの姿も見受けられる。


 俺達の姿が珍しいのか、こちらに気づいたエルフ達がひそひそ話をしている。これは、さすがに気まずいな……そう思っていると、前方から弓を背負った長身白髪碧眼という三拍子揃ったイケメンエルフがやって来た。


「ハルキ・アーレス様とガーネット様ですね。案内役を仰せつかっております、グリエルです。女王がお待ちです。こちらへどうぞ」

「ありがとうございます、ハルキです。よろしくお願いします」

「ハルキに負けず劣らずのイケメンね。ガーネットよ。よろしくお願いね」


 恭しく一礼するエルフと握手をした後、エルフの国――エレメンティーナを案内されつつ、中央に聳え立つ巨大な大樹へ向かう。どうやらこの大樹が、世界の豊穣を司る創星樹と呼ばれる大樹らしく、エレメンティーナの女王が住む神殿も兼ねているらしい。


「そう言えばグリエルさん、カルアとカーネリアンは何処かしら? せっかくだから挨拶しておきたいんだけど?」

「おや、カルア様とカーネリアン様はハルキ様と同じ、創星の加護を持つ契約者を探す任務の真っ最中ですよ? むしろ、カルア様に頼まれて来たのではなかったのですね」

「あの子……また道に迷ってるんじゃないでしょうね……あの子いつも事件に巻き込まれる節があるのよねぇ」


 どうやらガーネットが尋ねる予定だった乙女座の加護者と守護者は不在らしい。むしろルルシィさんのお陰で俺とガーネットが此処に居る訳で……そのカルアという子、骨折り損になっていなければいいけどな……。


「さぁ、着きましたよ。此処が極創星世界の豊穣を司る創星樹、女王メーテリア様が治めるフォルトゥナの神殿です」


 重力という概念を無視した宙へ浮かぶ水晶クリスタルの回廊。幾重にも分かれた巨大な大樹の幹に沿って、水晶の舞台、部屋フロアが用意されている。天上より降り注ぐ光をいっぱいに浴びた新緑の葉は碧々あおあおと生い茂り、木漏れ日を乱反射した水晶が煌めきを放つ。この世界へ来て一年。まだまだ俺が知らない景色はたくさんあるのかもしれない。


「この景色を見ていると、エレメンティーナを脅かすような事態になっているなんて、俄かに信じられないわね」


 ガーネットが言う通り、この国は美しい。森に清流が流れ、華は咲き、大地は実りの喜びを伝えている。謁見の間へと続く水晶クリスタルの螺旋階段を昇る中、ガーネットの発する疑問へグリエルが応える。


「この創星樹の加護と、女王メーテリア様の御力があるからこそ、我々は支障なく生活が出来ています。ですが、このままでは結界が持たない。詳しくはメーテリア様より直接お話があります」

「こ、これは……」

「綺麗な世界ね」


 聳え立つ大樹の中腹、螺旋階段を昇った先に顕現する透明な水晶の舞台。舞台からはエレメンティーナの美しい大地を見渡せるようになっており、大樹の隙間より木漏れ日が反射し、俺達を出迎えてくれる。


 新緑の蔦に覆われた玉座の前、月桂樹の冠を被ったエルフの女王。腰まで伸びた黄金色の髪。淡い翠の羽衣に、新緑の葉で隠された豊穣の果実。金銀妖瞳ヘテロクロミアを携え、悠然と玉座に鎮座する豊穣の女神は、全てを見透かすかのように優しく微笑んだ。


「ようこそおいで下さいました。わたくしは此処エレメンティーナの女王であり、極創星世界ラピス・ワールドの豊穣を司る女神、メーテリアです」

「お招きいただきありがとうございます。俺はハルキ・アーレス、牡羊座の加護者です」

「牡羊座の守護者、ガーネットです。お初にお目にかかります、お会い出来て光栄です」


 いつも軽いノリのお姉さんも今回ばかりは俺の隣で女王へ傅いている。女王の醸し出す雰囲気が自然とそうさせたのだ。


「そんなに畏まらずともよろしくてよ。話はルルシィより聞いております。ハルキ・アーレス。トルクメニア国で、なんでも屋を営む一方、正義の使者として、悪を裁いている――その名声は国中へ轟いていると」


 うーん、そこまで轟いていないような気もするが……。パテギア王女様と言い、ルルシィさんと言い、俺の周りの女性陣は話を盛るのが好きらしいね。


「ハルキは私が認めた加護者です。女王様、今回の一件、私とハルキでなんとかしてみせましょう」


 (ガーネットさん、そんな簡単に引き受けて大丈夫なの?)


 俺が胸を張って話を進めようとするお姉さんを横目で見やる。


「ルルシィは国の事が心配で、あなた方を推薦してくれたようです。彼女に感謝せねばなりませんね。本来であれば、加護者を連れて来る事は乙女座の加護――カルア・ヘルメスと守護者カーネリアンの任務でした故」

「女王様、カルアとカーネリアンは今どちらへ?」


「今はアルシューン公国の加護者と合流し、潜む悪意の調査をしているようです」

「え? アルシューン公国だって!?」


 アルシューン公国で有力な加護者……どう考えても彼女・・じゃないのか? まさか入れ違いで乙女座の加護者がアルシューンへ向かっていたとは……。


「ええ、実は今回、我が国を覆っている結界の一部に異変が生じているのですが、アルシューン公国へ潜む悪意と関係があるようなんです」


 エレメンティーナ国とアルシューン公国。離れた二つの国で同時に起きている異変。という事は、メイもアルシューンの異変に巻き込まれているのだろうか……。想い人へ思いを馳せながら、俺はメーテリア女王から、事のあらましを聞く事となる。


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