「困った……」
今ハルキ・アーレス……つまり俺はとある問題に直面している。
強靭な魔物に腸を喰らい尽くされそうになっている訳でも、命の危機に直面している訳でもない。
むしろ行程は順調だった。今俺達は、トルクメニア国北に位置する
「ハルキさぁ~~ん、ガーネットさぁ~~ん、ごめんなさ~~い」
エルフの悲痛な声が森に木霊している。俺はなるべく視線を合わせないようにしつつ槍先に炎を籠め、横に居た俺の
「はぁ……もう、これで何度目ですか……」
一体どうやったらあんな状態になるんだろう……。今眼前で
「ルルシィさん、今助けますからっ!
炎を纏った槍を回転させつつ、魔物化した薔薇の魔物へ向け
「大丈夫ですか、ルルシィさん」
「ありがとうございます、ハルキさん……」
そんな潤ませた
「はいはい、そこ。まだ終わってないわよ! 殺されたいの?」
ガーネットが語気を強め、牽制する。炎に蔦を焼かれながらも吠える薔薇の化物。ルルシィさんをガーネットの傍へ置き、俺は仕切り直して一旦納めていた槍を再び手に取る。
「少しは戦場で踊ってくれよ?
テンタクルローズの核へ槍を突き出し、炎の力を爆発させる! 火焔弾となり、分裂した植物は、周囲に生き残っていたグリーンスライム迄、全てを焼き、溶かしていく。止めを刺した事を確認し、俺は加護の力を解き、槍を納める。
「よし、今度こそ終わったよガーネッ……」
いやまだ終わっていない……此処に最恐のお姉さんが眉を引き攣らせたまま、満面の笑顔で腕を組み、こちらを見つめている。そう、天然なのか何なのか、ルルシィさんがメロン爆撃を繰り出す度に、俺は守護者のお姉さんから命を狙われるという問題に直面しているのだ。
「ハルキくぅ~~ん? まさかルルシィさんの下着なんか、見つめていないわよねぇ~~?」
「まさかガーネット。そんな事ある訳ないじゃないか……ははは……」
ガーネットに言われてようやく気付いたのか、ルルシィさんが慌てて二つ果実を隠している。これはあれだ。お姉さんというキャラが被ってしまった事による女の嫉妬というやつだ。思い出はいつの日も雨だ。
『彼女がエルフの国へ繋がる秘密の入口の鍵でなければ絶対連れて行ってなかったわ』
後のガーネットさんの発言である。
「ここがエルフの国へ続く秘密の入口になります」
森を抜けた先、そこには見上げる程の巨大な岩壁。所々植物の蔦が生えているくらいでこれといって変わった所はない。
「返事がない、ただの壁のようね」
「ガーネットさん、どうしてそのネタを知ってるんですか?」
「ハルキを探して何年もあちらの世界を渡った成果ね」
「はいはい、それはどうも」
腕を絡めようとしたお姉さんをすり抜け、岩肌を見上げる。これは簡単に登れるような崖でもないな。
「ハルキさん、大丈夫ですよ? この崖を登る訳ではありませんので」
どうやら俺の行動から意図を汲んだのか、ルルシィさんが安心するよう促してくれた。そういえばエルフの魔法なのか、いつの間にかルルシィさんのところどころ溶けた衣装が修復されている。よかった。これで目のやり場に困らなくて済む。決して残念などと思ってはいないのである。
ルルシィさんが、双眸を閉じ、祈りのポーズで何やら念じ始める。聴いた事のない言葉が紡がれ、言の葉は魔法ように光を帯びる。エルフの旋律に呼応するかのように、巨大な岩肌へ光る部分が出現し、やがて優しい黄緑色の光と共に扉を象っていった。
「この扉がエルフの国――エレメンティーナへ続く扉となります。扉を維持し、閉じなければならないため、私の案内は此処までとなります」
「え? そうなんですか?」
てっきりルルシィさんもエルフの国まで着いてくるものだと思っていた。思わず反応した俺の横でガーネットさんが小さくガッツポーズをしたように見えた。
「あら、ルルシィさん残念だわ。一人で帰るのは危険だから、白銀鷲に送らせましょうか?」
「いえ、ガーネットさん。大丈夫です。実はエルフだけが通れる秘密の回廊があるのです。私はそこを通って自宅へ戻ります」
秘密の入口に秘密の回廊か。エルフには色々な秘密があるんですね。彼女のメロンにも色々な秘密が詰まっているのかもしれない。
「エルフの女王には私から連絡しております故、国の危機に関しては女王へ尋ねて下さい。ハルキさん、ガーネットさん、よろしくお願いします」
「ルルシィさん、ありがとうございました。任せて下さい。エレメンティーナ、俺が救ってみせますよ!」
「私とハルキが一緒なら大丈夫よ。それじゃあ行って来るわね」
光の扉は岩肌の向こう側へと開き、真っ白な光の中へ俺達は進んでいく。エルフの国、どんなところなんだろう? 不安よりも期待を膨らませつつ、俺とガーネットは次の舞台へと飛び込んでいくのだった。