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17 メイ・ペリドッド 異形の正体②

「「創星魔法、電解力・サンダートリノ!」」


 杖を模した柄の部分だけとなった漆黒の鎌。背中合わせに漆黒の杖・・・・を前に突き出し、電解力を放ち、アルシューン迷宮第六階層――森林エリアを縦横無尽に駆け回る中位種の魔物――ブラッドパンサーの動きを止める。


「同じ獣でも、此処は仕留めるしかないであります!」

「覚悟っ、シルバニアファングだよっ!」


 魔導師として登録している私は死神の力及び加護の力を行使しない。そのため魔法結界と魔法攻撃が基本となるのだが、極大魔法のような一撃で対象を仕留めるような魔法は消費する魔力も多く、集める星屑スターマナも膨大なため、時間がかかる。


 そのため、ブラックオニキスが持つ、記憶した対象の影を投影する・・・・・・能力は希少かつ有能であった。私の姿を真似る事で魔力、威力、有効範囲と全てが倍となる。私とブラックオニキスが織り成す魔法攻撃による遠距離からの迎撃を基本とし、モフモフコンビが近距離で迫り仕留める。これが私達パーティの基本戦術となった。


 先程第五階層でクレイの率いるパーティと合流した私達だが、彼等は私達から少し離れたところで巨大な植物と戦っているようだった。どうやら私との約束を彼は守るつもりらしい。


「「ラスト、仕留めるわよ、創星魔法、氷結力・フリーズバレット!」」


 残ったブラッドファングの黒光りした体毛を氷の刃が穿ち、迫り来る魔物を一掃する。依頼クエストの討伐数カウントがあるため、牙と獣皮の一部を剥ぎ取った後、モフモフコンビが背負うリュックのような袋に入れる。私の解析能力を使い、森に仕込まれた罠を回避し、下の階層へと進んでいく。


 こうして、第七階層雪原エリア、第八階層火山エリア、第九階層湿地エリアを抜け、問題の第十階層へと到着する。天井の高い鍾乳洞を彷彿とさせる洞窟。天然の星屑を溜め込み、蒼白く光る星鍾石せいしょうせきが天井、壁面、至るところに群生し、洞穴内を明るく照らしてくれている。


「冒険者達が行方不明となっているのなら、第十階層最奥のギルドパネル到達前に何かがある筈よ」

「状況に併せて僕の能力を順応させます」


 基本ギルドパネルは魔物を寄せ付けない結界が張られており、地上へ続く脱出用の転移魔法陣迄配備されているのだ。パネルの前には高位種の魔物が用意・・されている事が多いのだが、用意された魔物程度ではランク以上の相手ではない筈だ。女執事姿となったブレアが周囲を警戒し、モフモフコンビのポックルとシルバニアは嗅覚を働かせている。


「メーーイちゃぁああああん! 早いね。流石だね」

「貴方、皆警戒しているところなんだから……本当空気読めないわね」


 これでは魔物が居たなら一発で気づかれてしまう。マイペースは相変わらずね。

 クレイ達パーティがようやく湿地エリアの高位種、ミノタウルスやヒートリザードを倒して来たのだろう。私達へ追いついて来た。かすり傷はあるものの、どうやら彼等も全員無事のようね。


「メイさんにブレアさん、凄いですね。あれだけの魔物の群れ、一気に蹴散らして先へ進むだなんて……」

「本当よねぇ~~♡お姉さん、惚れちゃいそうだわ~」

「あっしの盗賊技術が霞むでやんす」


 クレイのパーティメンバーは、どうやら私達の巧みな戦闘術に魅了されたらしい。馴れ合いは好みではないけれど、でも今回ばかりは私一人では難しかったかもしれないわね。


「ブレアやポックル、シルバニアの精錬された動きあってこそよ」


 素直な気持ちを私が口にすると、ブレアは恭しく一礼し、ポックルははにかんで笑みを浮かべる。その横で灰色アッシュグレーのシルバニアは飛び跳ねて喜んでいた。


「いえ、僕は使命を全うしただけです」

「そんな褒められると照れるであります」

「あきちっ! あきち頑張ったもんねっ!」


 そんな微笑ましいひと時もそう長くは続かない。前方から異常なまでの邪素ダークマナと悪意を感じたからだ。肌に纏わりつくような禍々しく重たい空気。その場に居た全員の表情が瞬時に強張った。


「メイちゃん、何か来るよ」

「ええ、分かっているわ」


 洞穴の先、黒く重たい空気が充満する中、大男らしき影が見える。全身褐色肌の大男がルビーのように双眸を紅く光らせ、こちらを見据えている。


「お、親分! 無事だったでやんすか!」

「駄目だキルギス! そいつ様子が可笑しい!」


 クレイが率いるパーティメンバーの一人、確か盗賊のキルギスと言った筈。彼がクレイの制止を無視し、大男が佇む場へと駆けていく。


「キルギス……来タカ……」

「親分っ、親分っ! 無事でよかったでやんす! 皆大丈夫でやんす、あっしの親分でやんす」


 私とブレアは警戒を緩めない。クレイも然りだ。モフモフコンビも殺気を感じるんだろう。最早そこに居る者は彼が言う親分ではないのかもしれない。


「キルギスさんそうなんですか? もうびっくりしましたよー?」

「あらーー、でも危険そうな香りがプンプンするわよー?」

「待て、お前達、近づいちゃ駄目だ!」


 クレイがカルアとナナコ、二人の腕を掴む。キルギスが不服そうな顔でクレイ達の下へ駆け寄る。


「もう、大丈夫でやんすよっ! 親分はシャイでやんすから。しょうがないでやんすね。……じゃああっしが代わりに親分の願いを叶える・・・・・・でやんす」

「えっ?」


 キルギスがそう告げた時には既に、彼の黒衣に忍ばせた短剣が、兎耳族バニーナナコの左胸を貫いていた。


「ナナコ! 離れろカルア! 水戟創造すいげきそうぞう!」


 クレイが水の弾丸をキルギスへ向けて放つと、水弾は黒フードのみを貫き、賊は後方へと跳んだ後だった。


「ナナコ、しっかりしろっ!」

「ちょっと失敗しちゃったわ……」


 クレイがナナコの身体を起こす。溢れ出す鮮血に抱える掌がみるみる真っ赤に染まっていく。回復筒ヒールボトルをかけてあげても傷が塞がる気配がない。


「その子、回復させます! メイ様、賊を頼みます!」

「分かったわ」


 緊急事態にブラックオニキスが動く! 燕尾服が黒い靄に包まれたかと思うと、戦闘に似つかわしくない若草色のプリンセスドレス姿へと変化する。これはあのハルキと一緒に居たトルクメニアン第一王女――パテギア王女の姿だ。


「クレイさん、キルギスを!」

「済まない、ナナコを頼む」


 クレイはキルギスと応戦していたカルアへ合流していく。邪素という瘴気しょうきてられたのか、キルギスの瞳も紅く光り、禍々しい妖気オーラを放っている。


「ぐはっ!」

「きゃあああああ!」


 刹那、親分と呼ばれていた大男の両腕が肥大化し、伸びる! 大男と交戦していたポックルとシルバニアの肉体は捉えられ、壁に激しく激突してしまう!


「ポックル、シルバニア!」


 素早く氷の刃で大男の肥大化した腕を貫くと、収縮した腕が大男の体躯に納まる。頭からは二本の角、二倍の大きさになった四肢、鋭く尖った爪。導き出される結論は……。


「……魔物化・・・しているわね」

「ぐががごご……お前達喰う……満たす……」


 私は周囲の状況を解析しつつ、呼吸を整え大男と対峙する。ポックルとシルバニアの傷も深い。早く治癒してあげなければ……。


願星ギフト――女神の祝福ディーヴァブレス


 影写力によりパテギア王女となったブレアが、ナナコの貫かれた左胸の傷を塞いでいく。私がブレアへ視線を向けると、ナナコを回復させつつ、彼女は強く頷いてくれた。そう、トルマリンが彼女を信頼していた理由が分かったわ。


「キェエエエエエ! 死ぬでやんす死ぬでやんす死ぬでやんす!」

「甘いね、殺人鬼!」


 血走った瞳をギョロギョロさせ、キルギスが何もない空間より漆黒の短剣を出現させ、クレイ達へ向け放つ! クレイは宙より出現させた水戟をぶつけ、襲いかかる無数の短剣を弾いていく。


「クレイさん、全て吹き飛ばします! 風の精霊よ、力を貸して! 風精霊――シルフィ!」


 キルギスとカルアの間に幻想的な翠色の渦が顕現し、漆黒の短剣が渦によって巻き上がる。翠色の光に包まれた、透明の翅を携えた風精霊は、妖精のような姿で戦場へふわりとふわりと舞い降りた。


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