「あはは~。ねぇねぇ、ルルーシュ! ジューク殺られちゃったみたいだよ~~!」
「ええ、そのようね。所詮ジュークもその程度だったという事ね」
祭典で賑わう都から少し離れた蒼穹の下、円卓には刺繍の入ったクロスが敷かれ、いつもより簡素な椅子に座ったワタクシは卓上のステーキへナイフとフォークを入れ、一口含みます。羊頭の執事がティーポットよりカップへ注ぐお茶は、ルーインフォールト産の
「ルルーシュ様、即席の晩餐で申し訳ございません」
「今回は結構よ。嗜好の逸品を準備出来なかったジュークの責任。野望に満ちた冒険者のこの肉も、低俗品よりは多少マシですわ」
「僕はパンケーキ食べれたからとっても満足だよ!」
喧騒から離れた場所を選んだんですが、残念ながらたまたま通りかかった町娘が私達を見つけてしまったようね。それにしても蒼穹の下、ワタクシが食事を嗜む姿に見惚れてしまっているのかしら? 茫然と立ち尽くしていますわね。
「……え? こんなところで食事?」
直後、なぜか町娘の身体が汚泥状となり、衣服と共に溶けていきます。あら、感動のあまり、身も心も文字通り
「畏れながらルルーシュ様。多少魔力と
「あら? ワタクシとした事が失礼したわ」
ワタクシは素直に自然と滲み出ていた魔力と妖気を押さえますの。執事は恭しく一礼した後、吐瀉物のような溜まりを回収していきます。
「もう~。ルルーシュ! そんなに怒ると皺が増えちゃうよ~? ほら、
「……貴女が守護者でなければ今すぐ氷の彫刻にしているところでしたわよ」
ワタクシの
「あ、そうそうルルーシュ。ジュークの
「ワタクシに玩具を増やす趣味はなくってよ?」
オパールは自身の玩具を増やす趣味がありますの。結果、勝手に増えてしまう玩具に興味はありませんが、嗜好品が揃った晩餐が開かれる事には是ですわね。
「そっかぁ~残念。でも、
「……聞かせて貰いましょうか、オパール」
豊穣の女神は、云わば正の位置。思えばワタクシの余興と晩餐の邪魔をし、空間転移を防ぐあの国は以前から忌々しき存在でしたわ。それにしてもワタクシの守護者はワタクシを愉しませるための余興をいつも拵えてくれる。流石、千年以上生きる幼女 (ロリババ……省略)だけありますわね。
「アルシューンって、例の迷宮があるでしょ? 暇だったから、僕ちょっと
「興味深いわね」
オパールはパンケーキを一気に頬張り、次なる余興の話を続ける。ワタクシは残りの肉とスープを食べ終えます。そう、確かにオパールの話が事実なら、興味深い現象が起きる可能性がありますわね。
「……でも邪魔が入りそうだからさぁ、ジュークんとこで働いていたあの子を玩具にしようと思ったんだよ」
「貴女の意図は分かりましたわ。後はあの
――
白昼の晩餐は終焉を迎え、漆黒の渦を出現させた羊頭の執事がテーブルと椅子を片付ける。そして、ワタクシとオパールはその夜、〝マイ・アークライト・ヴェガ〟という娘を新たな玩具として国へ持ち帰ったのですわ。
「ん……此処は……」
「あ、目が覚めた~~? おはよう~~マイちゃん!」
一面赤銅色の大地、世界の欲望を染め上げたかのように橙色に燃える空。大地へ突き刺さった一本の巨大な磔柱に、産まれたままの姿で拘束された仔猫が一人、目を覚ます。
「わ……私をどうする気……!? くっ……動けないっ!?」
恐怖と畏怖。双眸へ雫を溜めた仔猫は動けない身体を必死に動かそうとする小娘。ワタクシは貴婦人のような姿から、
「心配は要らないわ。貴女はワタクシという孤高の存在に選ばれたの。さぁ、ワタクシを崇め、讃えなさい」
「誰が……お前なんか……ひっ、嫌っ!?」
ワタクシが蠍の尻尾の先端で、胸を軽く
「怖いのに興奮してるのかなぁ? ねぇねぇ~、欲望へ素直になりなよ! きっと楽になるよぉ~?」
「た……助けて……クレイ様……」
その名前を聞いた瞬間、オパールの紅と蒼の真ん丸なオッドアイが妖しく煌めきます。
「そっかぁ。僕わかっちゃったよ。じゃあ、その〝願い〟このオパールが叶えてあげるよー」
「ねぇ、君のお名前は?」
「え……あ……ああ……私……マイ……マイ・アークライト・ヴェガ……」
瞳は光を失い、虚ろな表情のまま仔猫は自身の名を呟きます。
「君の願いは何かな?」
「クレイ様……私の……彦星様と身も心も……一緒になりたい……」
仔猫の口元が緩み、心無しか薄っすら笑みが浮かんでいますわね。
「そっかぁ、じゃあ、産まれたままの姿で、欲望を曝け出しちゃえ! ――
刹那、全身がビクンと撥ね、磔状態のまま仔猫の頭が激しく振動しますの。白目を剥いた仔猫は口腔から鼻孔から、全身から液体を垂れ流していきます。
「あがががが……あががあがが……止めてぇええええ……ワダジがぁあああ、ワタジじゃ無くなっちゃうぅううう!」
「さぁ、玩具の完成だよぉ!」
「やめてぇーーぁあああああああああ!」
双眸から雫を零した瞬間、彼女の姿は黒い靄に包まれたかと思うと、紅く妖しく光る瞳に妖艶な笑みを浮かべ、磔柱から解放された仔猫が自身の身体を見つめ、呆然と立ち尽くしています。
白く色を無くした髪、
「ルルーシュさまぁ……私はマイ・
「そう……よろしくねマイ」
これから面白い事になりそうね。
さぁ、ワタクシはこの子を使って、次なる余興を愉しむ事にしましょうか。