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13 クレイ・アクエリアス 迷宮攻略④

「馬鹿な、どうしてメイが二人存在しているんだ!?」

「あのゴスロリ衣装の美人さん……知り合いですかい旦那?」


 思わず叫んだ僕の様子にキルギスが反応する。


「嗚呼、メイは僕の知り合いだけど、双子なんて事実はない。何が起きているんだろうね?」

「ああああ! 私の誘い断っておいてちゃっかりパーティ作ってるじゃないですか! でもあれ……双子じゃなければ何なんですか?」


 フリーズバレッド、インカフレイムにサンダートリノ。まるで鏡合わせに同じ魔法を続け様に放つ二人のメイ。そして仕留め切れないエビルオークを犬耳族コボルト人狼族ウルフィナだろうか? 小柄なモフモフした塊が二人、俊敏な動きで魔物の懐へ飛び込み、鋭い爪で腸を引き裂き、鋭利な牙で脚を引き千切っていく。


「前回あっしのパーティでも苦戦した魔物の群れを一掃していくでやんす……あのパーティ……強いでやんすね」


 辛酸を舐めるかのように、可憐な動きで敵を翻弄するメイ達を凝視するキルギス。それほど彼女達の動きは精練されていた。気づくと十数体のエビルオークは、ただの動かぬ巨大な肉塊と化していた。戦闘の終了を見計らって、メイの下へ駆け寄る僕。


「やぁーメイちゃん! 中位種を一掃するなんて、流石だね……ってうわっと!」


 近づく僕へ向け、二人のメイちゃんが息を合わせるかのようにインカローズの火球を放って来たため、上体反らしで回避する。


 (成程、見れば見る程そっくりだけど、中身はやはり別物か)


「邪魔をしないなら危害を加えないと言った筈よ?」

「これ以上の介入は死を招くわよ?」

「だから邪魔はしていないだろう? 素直に称賛しているだけだよ、メイちゃんと、メイちゃんの偽物さん・・・・


 細めた双眸をそのままに二名のメイが僕を凝視する。が、明らかに僕は、一人のメイを指差し、偽物を見破る。


「私が偽物という根拠は?」

「ふっ、メイちゃんと僕の付き合いだよ? 偽物が分からない訳な……」


 柄だけとなり、魔法の杖のように見せた鎌を向けられる事で僕は観念して話し始める。他のメンバーへ聞こえないよう小声で。


「メイちゃんは普段、加護の力抑えてるだろう? 加護者なら加護者の持つ特有の妖気オーラ位わかるさ。本物にあって偽物にない。それが答えだ」


 僕がそう告げると、偽物と呼ばれたメイがフっと笑みを零す。


「こうもあっさり見破られるとは、私もまだまだですね」

「クレイさーーん。先に行かないで下さいよぉ~~。お取込み中すいませーーん。ギルドのエントランスでお会いした方ですよね……ってうわっと!」


 僕の背後から、エルフのカルアが耳をピョコピョコさせつつ追い掛けて来たのだが、偽物のメイが淡い漆黒の光に包まれたかと思うと、艶やかなショートボブの黒髪、蝶ネクタイに燕尾服姿へと変化したため、カルアが後ろへ飛び上がりつつ驚く。


「クレイ、この子はブレア・・・って言うの。能力は、見ての通りよ?」

「執事のブレアです。以後お見知りおきを」


 ブレアと紹介された子が、恭しく一礼する。ん? 見た目男の子にも見えるのだが、若干声が高めだし、胸も少し膨らんでいるような……。


「へ、変身能力でやんすか? 初めてみたでやんす!」

「あら~~ん♡よく見ると可愛い子じゃな~~い?」


 キルギスとナナコが合流し、執事のブレアへ近づくと、可愛いと呼ばれた事に反応したのか、顔を赤らめる。


「か……可愛い……!? 僕には無縁の言葉ですから……」

「へ? へぇええええええ!? も、もももしかして、女執事さんですか!? カッコイイです、素敵です、可愛いです! 私、エルフのカルアって言います! タイプです! よろしくお願いします!」


 突然カルアが彼女の両手に自身の両手を重ね、ぶんぶんと上下運動させる度、ブレアの顔から蒸気が噴出していた。


「え……あ……あの……僕……いや……女同士ですから……」

「女だからこそです! 貴女のような男前な女性タイプです。勿論メイさんもタイプですから、ご心配なくです!」


 ブレアの両手を握ったまま、カルアの視線はメイちゃんをロックオンしていた。


「クレイ……どうしてこんな子と仲間を組んだ訳?」

「いや、それは君が僕と組むのを断ったからだろ?」


 暫く互いに視線を交錯させた後、今回はメイが溜息を吐いて折れてくれた。


「そういえば、黒猫はどうしたのメイちゃん?」

「あなたもでしょ、クレイ。互いにパートナー不在・・・・・・・のようじゃない?」


 黒猫は誰かに呼ばれたようで、今回別行動だそう。メイちゃんはあの後、某獅子座のカフェ友妖狐に頼んで迷宮攻略のための仲間パーティを紹介して貰ったらしい。ブレアは隣国で執事をしているらしく、メイちゃんのカフェ友が多忙なため、助っ人として召集した子なんだそう。


 メイちゃん残りの仲間である雄の犬耳族コボルトポックルと雌の人狼族ウルフィナシルバニア。この二名もスピカ警備隊のモフモフに紹介されたシルバーランクの冒険者なんだそう。即席でよくここまで強力な仲間パーティを集めたものだと素直に感心する。この布陣なら確かに黒猫の介入は必要なさそうだ。


「第六階層以降も互いの戦闘へ干渉はしない、いいわね?」

「はいはい、ピンチになっても知らないからね、メイちゃん」


 あくまで別々のパーティという位置付けを彼女は貫きたいらしい。


「いいじゃないですか、旦那。報酬も早い物勝ちで分かりやすいですぜ」

「そうだけどさ……まぁ、仕方ないか」


 僕の横で悪名高そうな顔を曝け出しつつ嗤うキルギスを尻目に、メイちゃんパーティと僕のパーティは第六階層以降へと進む。この後、残酷な運命が待ち受けているとも知らずに……。


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