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12 クレイ・アクエリアス 迷宮攻略③

 翌日僕達パーティは迷宮探索へ出発した。見上げる程の迷宮の巨大な入口。冒険者を待ち受けるべく開いた巨大な顎門あぎとが、僕達を見下ろしている。


「ここがアルシューン名物の巨大迷宮なんですね」

「そうだよカルア。でも心無しかいつもより邪素ダークマターが濃い気もするな」


 アルシューン公国西部に位置する巨大迷宮ダンジョン。僕もこの世界に来たばかりの頃はよく序盤の階層で鍛錬をしたものだ。偶発的に出来たとされるこの迷宮は、王都アルシューネの冒険者ギルドが管理しており、冒険者の間でも魔物を狩る人気スポットとされている。


「何だか不穏な空気が漂ってますねぇ。こういうの苦手です……」

「大丈夫よぉ~~ん♡クレイ様が魔物なんてぇ~~♡やっつけてくれるわぁ~~ん」


 そう言いつつ腕を絡めてくるナナコに苦笑する僕。


「うぅ……不穏な空気よりもあなたみたいなタイプの方が苦手かもです……」

「あら~~言うわねぇ~~ぴょんこちゃん」


「ぴょっ!? ぴょんこちゃん!?」

「その触角みたいな髪がぴょこぴょこして可愛いからぴょんこちゃんよ?」


 カルアの尖った耳がピンと立つ代わりに、鴬色のツインテールは萎れた花のようにへなへなっと頽れていた。


「普通にカルアでいいですから……それにナナコさんのが兎耳でぴょんこな気がするんですが……」

「まぁまぁ、ナナコもカルアを揶揄からかわないで。さぁ、他の冒険者パーティも到着しているかもしれないし、中へ入ろう」


 ナナコとカルアを促し、僕達パーティはいよいよ迷宮の中へと入る。


 全十二階層からなる迷宮は、最下層より溢れる邪素ダークマターが素に出現した魔物が巣食うため、上層は邪素が薄く、初級種ラブグレイド低位種ローグレイドランクの魔物しか出現しない。つまり、深追いしなければ自身の冒険者ランクに併せた魔物を討伐する事が出来る。冒険者にとって格好の狩場と言える場所。


「序盤はいつもの迷宮攻略と変わらないでやんす。問題は後半でやんす」

「異常が起きて以降、迷宮に挑んだあんたの経験は貴重だ。参考にさせて貰うよ」

「皆さん。な、何か来ますよ!」


 第一階層は比較的天井も高く、火創星魔法による灯りも設置された洞窟となっている。正面より、初級種ラブグレイドの棍棒を持ったゴブリン二体とエビルスパイダー二匹。邪素により産まれし迷宮内のゴブリンは、外の世界で群れを成して集団生活をしている個体よりも知能が低い。眼前に現れた獲物を狩るべく棍棒を振り回し、僕達へ襲いかかるが……。


「あまりに遅くて欠伸が出るよ」

「この位、準備運動にもならないでやんす」


 僕が五指よりビー球のような水戟を放つと、水のつぶてがゴブリンの頭と肉体を貫き、緑色の体液が飛散する。同時に黒フードのキルギスがもう一体のゴブリンが振り下ろした棍棒を素早く躱し、懐に隠してあった二本の短剣でゴブリンの両手を斬り落とす。最後に頭部へ短剣を突き立て、自身がやられた事を認識する前に、ゴブリン二体は倒される結果となる。


「いやぁ~~ん♡この糸~~粘々ネバネバするぅ~~ん♡」

「ちょっとナナコさん! 何捕まってるんですか。火の精霊よ、うちに力を! 火精霊――ルビー・スピリット!」


 カルアが瞳の色と同じ、夕陽のように煌めく宝石を先端に嵌め込んだ杖を掲げ、粘りの糸でナナコを縛ろうとしていたエビルスパイダーへ向けると、丸い光球のような塊が宙を舞い、エビルスパイダーの周囲を旋回する。突如蜘蛛の魔物は炎に包まれ、消し炭となって消滅した。


「大丈夫ですか、ナナコさん」

「あら~ん♡助けてくれたの? ぴょんこちゃん♡ありがと~~」


 熱により糸が解け、解放されたナナコがカルアへ飛びつき、朱いバニースーツに強調された果実を押しつけている。


「や、やめてくださいーーた、たしゅけてぇえ~~」


 そのまま追いかけっこを始めるナナコとカルア。


「あれは……羨ましいでやんすね……」

「あの子は常にあのテンションだからねぇ……」


 常に発情期状態のナナコを見つつ、苦笑する僕。尚、カルアの横を先程召喚したルビー・スピリットという火属性の精霊らしき火の球が併走しており、この後数体出現したゴブリンは全て僕とキルギスが攻撃する前にゴブリンの丸焼きにされていた。下位精霊であの威力か……。精霊使い、凄いな。


 第二階層は同じく洞窟フロア、第三、第四階層は遺跡のような石造りの外壁に囲まれたフロア。初級種に加え、インカローズを使うゴブリンメイジ、巨大化した耳を回転させ飛行する鼠型の魔物――ミミトビマウス、粘液で対象を溶かすグリーンスライム等、低位種の魔物が出現する。


「いや~ん♡私の服溶かしちゃい……」

「ルビー・スピリット!」


 ナナコの服を溶かす前にカルアがグリーンスライムを燃やし尽くしていた。この後カルアへナナコが飛びついた事は言うまでもない。


「いや~ん、服が溶けたでやんすー!」


 キルギスの黒いマントの一部が溶けたらしいが、とりあえず放っておいて問題無さそうだ。


 そして、第五階層、下へ降りる階段の前には安全地帯セーフスポットが存在する階層。遠くまで周囲に障害物が全くない広いフロア。魔物の咆哮と共に、何かがぶつかり合う衝撃音がフロア中央より響いている。


「気をつけるでやんす。この階層から中位種ミドルグレイドの魔物がわんさか出たでやんす!」

「見て下さい……誰かが魔物と戦ってます!」


 全身紫色の鍛え抜かれた体躯、腕には槍を構え、禍々しい邪素の瘴気を蓄え魔物化した豚人族オーク――中位種のエビルオーク。一個体はミノタウルスよりも弱いが、群れを成す事で並の冒険者パーティだと返り討ちに合う危険性が増す。十数体のエビルオークは、冒険者らしき者達を取り囲み、槍を構え、まさに襲い掛かろうとしていた。


「あらー? 助けた方がいいのかしらーん?」


 ナナコがそう呟いた矢先、数体のエビルオークが後方へ吹き飛ばされる! ゴスロリ衣装の上半身、魔女っ娘スカートを身につけた女性が掌から氷の刃を出現させていた。


「「創星魔法、氷結力・フリーズバレット!」」


「いや、ナナコ。その必要は無さそうだよ。……やっぱりメイちゃん来ていた……えっ!?」


 数体のエビルオークが吹き飛ばされた事で冒険者パーティの様子を確認した僕は、思わず驚嘆する。そこには、僕のよく知る天秤座の加護者――メイ・ペリドッドが背中合わせに二人・・存在していたのである。


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