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08 ハルキ・アーレス 最強執事?登場③

「以上が僕の影としての活動報告となります。普段は王宮にてブレアという名で執事として活動しております」

「ブレアさんが影でトルクメニア国を護る活動をしていただなんて、知りませんでした」


 驚く王女へ中性的な顔立ちのブラックオニキスが恭しく一礼する。彼女の肩にはあの手紙を届けてくれた白く美しい毛並が特徴の鷹、ゴンザレスが乗っている。


「今ではパテギア王女様にも懐いておるが、聖星鷹ホーリアホークは本来ブラックオニキスの眷属となる星獣スターツなんじゃよ」


 成程、このブラックオニキスが鷹の目を使い、国で起きている事象を監視し、王女様を護衛していたという訳か。俺達が隣国へ行っている間も、薬に侵され王女の暗殺を実行しようとした騎士団員をいち早く見つけ、加護者であるスミスへ報告した者は誰であろう彼女だったらしい。


「ブラックオニキスは普段表に出ないから、私もこの子の能力をすっかり忘れていたわ。トルクメニアにはスミスと私、二人しか創星の守護者は居ないの。スミスは執事として王女や王子を護る仕事を担う他、元弟子である現騎士団長と共に、国を護る役目を果たしている。そして……」


 ガーネットが解説をしてくれた。定期的に王女の名で依頼が来ていた理由が分かった。俺の知らぬ間に、元々騎士団で解決出来ないような国家の闇に潜むような出来事をなんでも屋で解決するというルートが完成していたという事になる。という事は俺の守護者ガーネットは最初から分かって依頼を受けていたという訳か……。


「何、その人を疑うような細い目は……本当の事言ったって、ハルキ信じなかったかもしれないでしょ!」

「いやいや……そんな重要な事、教えてくれたっていいやん……」


 双眸を細め、お姉さんガーネットを見つめる俺。肩を竦め、目を逸らす守護者。ガーネットはこの世界で起きている出来事を一体どこまで知っているのだろうか?


「ハルキ・アーレスよ。己の守護者をそう責めなさんな。某もガーネットも、全知全能ではないのじゃよ。今持てる力で出来る事をやっているのみ。世界の調停を保つという事はそう容易な事ではないと言えるのぅ」


 今自分達で出来る事をやるしかない。そうやって創星の加護者と守護者は極創星世界このセカイを生きているのだ。


「王女様は今後、某がしっかり護衛しております故、安心して下され。ハルキ殿。某が動けない場合は……」

「分かりました! 〝なんでも屋〟ハルキ。その任務、いつでも受けましょう!」


 スミス、ブラックオニキスと握手をする俺。すると、それまでブラックオニキスの肩へ乗っていた聖星鷹のゴンザレスが、王女の机上に置いてあった書簡を咥え、こちらへ持って来る。山羊座の守護者ブラックオニキスが書簡を受け取ると、甲高い声で何かを訴えている。


「おや、どうやらこの書簡、ハルキ様宛らしいですよ?」

「え、この書簡がハルキ様の〝なんでも屋〟入口の依頼箱に入っていた? ハルキ様」


 ブラックオニキスとパテギア王女はどうやらゴンザレスの言葉が分かるらしい。


 (って、いや待って。この鷹、依頼箱の中身、器用に抜き取って持って来たのか。今日俺達がここへ来る事を想定して回収していたのならば、この鷹、相当頭が良いと言える……)


 王女から書簡を受け取り、書いてある内容を読み進める俺とガーネット。


『なんでも屋のハルキ様

 いつもお仕事お疲れ様です。あなたと彼女の活躍、陰ながらいつも拝見しています』


「陰ながら拝見……王女様じゃないよね、これ?」

「わ、わたしはご一緒していたじゃないですか? お逢い出来た事で、むしろ陰ながら見守る必要も無くなりましたし」


 頬を赤らめる王女様は置いておいて、ハルキは書簡を読み進める。


『今回お願いがあって依頼書を書いています。実は、私の故郷であるエルフの国〝エレメンティーナ〟が大変なんです。エレメンティーナは豊穣の女神であるエルフの女王〝メーテリア〟様が治めている国なんですが……』


「え? エルフの国だって? じゃあ依頼主ってエルフって事?」

「エレメンティーナ……事態はそこまで深刻って事かしら……」


 ガーネットが考えているという事は、何か思うところがあるという事だ。


『エルフの国周辺の邪素ダークマターの濃度が高まり、森の実りへ影響が出始めているそうです。このままでは世界の大地は枯れ、植物が朽ちてしまいます。ハルキさん……いえ、ハルキ様ならなんとかしてくれるんじゃないかと思い、お手紙を書きました。彼女との旅行から戻り、〝なんでも屋〟再開の折には是非、調査依頼を検討していただくべく……』


 邪素ダークマターとは、〝負の力〟の源となる星屑スターマナに似た目に視えない大気中の構成元素の一つである。強い魔物程、妖気オーラとして纏っている事が多く、大気中の濃度が強いと並の人間は闇に蹂躙され、簡単に押し潰されてしまうらしい。


「それにしてもこの依頼主。俺の事物凄く過大評価してくれているみたいだけど。国を救うって、単独で動くレベルの事ではないと思うんだけど……」

「いや、ハルキ。これはもしかしたら、私達のように単独で動ける者しか難しいかもしれないわ」


 ガーネットの意見にスミスとブラックオニキスまで頷いている。どういう事だろう。


「ハルキ殿。そもそもエルフの国〝エレメンティーナ〟とは、秘密の入口を使わねば、上級魔族の転移すら通じない場所にあるのじゃ。エルフの導きにより、案内をして貰わなければ、入る事すら許されない独立国家。それがエルフの国なのじゃよ」

「どうやら、そのエルフに選ばれたようですね、ハルキ様」


 (俺、エルフに選ばれるような事したかな……) 


 そう思いつつ、手紙の締めとなる部分を読む。


『旅よりの帰還、心よりお待ちしております。依頼を受ける際は隣家へ訪ねて来て下さいね。前向きな検討、宜しくお願いします。

      お隣に住むエルフ  ルルシィより 』


「ル、ルルシィさんだって!?」


 そう、今回の依頼主は、俺のよく知るお隣さんエルフだったのである――――


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