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Ⅲ 二人の王女様 06 ハルキ・アーレス 最強執事?登場①

「どこまでも広がる蒼穹。悠久の時を経て、私は還って来たのだ」

「はいはい、ハルキ。一度あの子に〝消えて〟って言われた時とは真逆のテンションね……」


 白銀鷲はどこまでも広がる蒼穹を背景に、大きな翼を煌めかせ、国境を越えていく。トルクメニア国の雄大な自然が見えてくると、俺の背中へ身を寄せるパテギア王女が瞳を輝かせたまま身を乗り出して来る。


「わぁーー、凄いです。私のお城があんなちっぽけに。世界ってこんなに広いんですね!」


 空を飛行する経験なんて早々ない。俺が居た世界では当たり前の飛行機も、極創星世界ラピス・ワールドには存在しない訳で……。星獣スターツや鳥獣にでも乗る事がない限り、空から大地を見下ろす機会はないだろう。


「さ、ハルキ。このまま城へ降り立つと騎士団に捕捉され、撃墜される恐れがあるから、街外れへと着陸するわね」

「ガーネット……さらっと怖い事言うね。まぁ、確かに魔物の襲来と思われてもおかしくないよな……」


 白銀鷲は城より離れた場所へゆっくりと降下していく。パフェこと、パテギア王女様が、『私が一緒なんですから、大丈夫ですよ~』と自身が変装している事を忘れた天然発言をしている。


 人気のない街外れに降り立ち、一路トルクメニア城へと向かう……つもりだったのだが、俺達は今、使われていない王家が持つ土地の中にある古びた民家の前に立っていた。


「いつも私がお城を抜け出す時はこの家の隠し部屋より城へ通じる転移魔法陣を使っているんです。元は緊急時に王族が逃走する際使用していたものらしいのですが、今は忘れられてしまっているみたいですね」


 緊急時って一体……と思う俺。民家の中は使われていないにも関わらず朽ちていない。むしろ綺麗なままだった。つい先日迄誰かが住んでいたと言われてもおかしくない程に。


「それにしても此処……全然廃墟じゃないわね。誰か定期的に掃除でもしているのかしら?」

「どうでしょう? もしかしたらスミスが何か知っているかもしれませんね」


 そう言いつつパフェはロッジ風の家奥、古びた本棚が並ぶ部屋へ。分厚い本を抜き、隠されたボタンを押すと、本棚が横へスライドし、隠し階段が出現した。


「こういう仕掛け……ゲームじゃなく現実にあるんだな……」


 向こうの世界で遊んだゲームのような仕掛けに驚く俺。階段を降りると火属性魔法による灯りが自動でともる。そして、四方壁に囲まれた小さな地下の部屋には巨大な転移魔法陣が描かれていた。


「さ、行きますよ皆さん」


 パフェが目を閉じ祈りのポーズを取ると、魔法陣とパフェの掌が淡い光を放ち始める。視界が白き光に包まれたかと思うと、元の殺風景な部屋が視界に映る。


「着きました」

「え? 何も変わってないよ?」


「いえ、同じように見えますが、お城の地下ですよ? さ、兵士に見つからないようそっと行きましょう」

「行きましょう、ハルキ」

「嗚呼」


 階段を上ると、先程なかった扉があった。鍵を開け、扉の先へ進む。


「こ、これは……」

「王家の誰かの部屋ね」


 扉を開けるとそこは確かに別世界だった。天蓋がある立派なベットと水晶クリスタルのローテーブル、クローゼットにはドレスや燕尾服のような高級そうな服が飾ってある。


「王家のとある女執事が使っている部屋です。彼女はスミス同様、私のお世話係をしてくれています。私の部屋はこっちです」


 見回りをしている兵士の目を掻い潜り、広いお城内部を進む。迷路のように幾重にも分かれた廊下を進み、やがて目的地へと辿り着いた。見上げる程の扉をノックすると、中から渋い男性の声が聞こえて来た。


「はい。王女は今不在ですぞ」

「スミス。私よ私」


 王女が扉越しに小声で囁く。


「おや、わたしわたし詐欺なら間に合ってますぞ?」

「わたしじゃないわ。デザートのパフェを届けに来たの。開けて頂戴」


 パフェがそう告げると、ゆっくりと扉が開いた。今のやり取りが合言葉代わりなのだろうか? もっと他になかったのか。と一瞬思ったが、細かいところは気にしないでおく。周囲に誰も居ない事を確認し、パフェと俺、ガーネットが中へと入る。


「パテギア王女様! よくぞ御無事で! このスミス、此度は大変心配しましたぞ!」

「心配かけたわねスミス。でも、彼。〝なんでも屋もハルキ〟とその仲間達が守って下さったの。今もこうして此処迄送り届けて下さったのよ」


 パテギア王女様がそう告げると、スミスと呼ばれた初老の男はモノクルの金縁を指で触れ、こちらをゆっくりとした所作で観察する。白髪短髪で容姿端麗。落ち着いた物腰であるが、全く隙がない。元騎士団長のスーパーお爺ちゃんだってガーネットが言っていた事を思い出した。


 やがて双眸を細め、笑みを浮かべた初老の男は、こちらへ向かって恭しく一礼する。


それがしは女王陛下より、王女様の御世話係を賜っておりますスミス・クロノスと申します。此度は暗殺者の手より王女様を守り、アルシューン公国へ滞在中も護衛して下さいまして、ありがとうございました。パテギア王女様はこの国の希望。姫の世話係スミスが国の者へ代わり、御礼申し上げます」


「いえいえ、俺は当然の事をしたまでですから!」

「困った人が居る時に助けるのが〝なんでも屋〟の仕事ですしね」


 ガーネットが俺の横でウインクをする。


「スミスさん、いつも王女様からの依頼。ありがとうございました。こうして俺も貴方にお逢い出来て光栄です」

「おぉ、ハルキ殿でしたな。正義の使者による粛清の噂は王家にまで届いておりますぞ? フォッフォッフォ」


 俺はスミスさんと握手を交わす。この後、パフェは元のお姫様の格好へと着替える。部屋へ備え付けのウォークインクローゼットと試着室。王女様の部屋は流石規格外の広さだった。


「ウォークインクローゼットと試着室が用意されているあたり、さすが王女様の部屋ね」


 王女様の着替えを手伝ったガーネットの感想である。

 そして、ガーネットに続き、変装を解いたパテギア王女様が姿を現した。


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