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05 メイ・ペリドッド 当面の問題④

 翌朝ハルキ・アーレスは守護者ガーネット、及び願星ギフト持ちのトルクメニア国第一王女――パテギア王女と共に王都アルシューネを出発する。


 行きは星闘牛スターバッファローに乗って国境を越えて来たらしいのだが、帰りは先日彼等が乗っていた星獣スターツ――白銀鷲シルバーイーグルで帰還するらしい。


「最初から白銀鷲を使えばよかったんじゃないの?」

「メイちゃん、そうもいかないのよ。白銀鷲は目立つし、緊急時にしか使わない事に決めているの」


 ハルキの守護者であるガーネットが補足説明していた。


「じゃあ今回はどう緊急事態な訳?」

「実は私の執事であるスミスから、そろそろ帰還して欲しいとの伝言を受けまして……長期不在が過ぎちゃいました……えへへ」


 王女様は完全に観光気分ね。間違いなく両手に袋いっぱいお土産を抱えて言う台詞ではない。


「メイ、ありがとう。見送りにまで来てくれて俺は嬉しいよ。じゃあまた逢おう!」

「勘違いしないで。たまたまギルドに用事があっただけ。通り道にこの宿屋があって偶然あなた達を見つけただけよ。別に、プリンのお礼を兼ねている訳ではないわ」


 ハルキ、ガーネット、パテギア王女が白銀鷲にまたがる。白銀鷲がニ、三羽搏く事で風が巻き起こる。


「またね、トルマリン。恐らく近い内にまた逢う事になると思うけど、その時はよろしくね」

「我ハ、オ前ニ逢ウツモリハナイゾ、ガーネット」


 黒猫は興味なさそうに毛繕いをする。 


「じゃあね、メイ。俺も向こうで使命は全うするつもりだ。お互い頑張ろう!」

「いや……あなたが頑張りなさいよ。まぁいいわ。好きにしなさい」


「メイさん! 私メイさんに負けませんから!」

「いや、王女様。私は関係ありませんので。気にせずハルキと結ばれて下さい」


 ハルキ、王女様と言葉を交わし、白銀鷲は大空へと羽搏いていった。陽光を反射し、白銀鷲の翼が大空で煌めく。星獣は風となり、須臾の間に小さくなっていく。


「行ッタナ」

「そうね。ようやく私の心も平穏を保てるわ」


 嵐が過ぎた後のように静寂が訪れる。


 (そうだ、冒険者ギルドへ用事があるんだったわ)


 ここ数日クーデターや審判が続いていたため、生活に必要な資金集めを怠っていたのである。

 尚、クーデター阻止後、スピカ警備隊隊長レオより直々に国家報奨金授与の推薦があったのだが、丁重にお断りした。クーデターはスピカ警備隊が阻止した事になっている。それに、私が表へ出てしまうと、審判の魔女と結びつける者が出て来る可能性も否めない。


 私は闇に潜む者。報酬目的で審判をしている訳ではない。私は創星の加護の下、私の使命を全うするのみ。


「メーーイちゃぁあああああん! こんなところで偶然だねぇーー」

「はぁ……貴方……何処にでも現れるわね……」


 平穏・・を保てると思った矢先、私の前へ新たな騒音・・の主が顕現した。


「その表情、僕がただの暇人だと思ってる?」

「あら違うの? クレイ・アクエリアス」


 よく見ると、いつもより艶やかな蒼い髪と貴族のジャケットのような小綺麗な格好が若干乱れているような気がする。


「いやぁー。こっちは朝から大変だったんだよ? ようやくアメジスト達シスター・・・・が大量に怪我人を回復させたところなんだからさ」

「ん? クーデターは阻止された筈、何かあった訳?」


 不敵な笑みを浮かべたクレイが肩を竦ませ、私の耳元で囁く。


「なんだ……審判の魔女でも知らない事、あるんだね?」

「いいから早く教えなさい」


 一歩後退したクレイはラピス教会がある方角を指差す。一瞬黒猫へ視線を向ける。問題は無さそうだ。


「ついて来てくれるかい。移動しながら話すよ」

「いいわ、案内して」


 今日は朝から予定が狂う一日ね。それを言うと昨日もそうだったわね。私とトルマリンはクレイに促され、一路中央セントレア支部のラピス教会へと向かう。



 王都アルシューネ、メインストリートより少し離れた場所にラピス教会中央支部は存在する。両親や家族を失った子やスラムの子を預かる孤児院、広大な土地には畜産場や農地まで創られており、自給自足を実現している。教会の中、礼拝堂横に、魔物との戦闘により傷ついた冒険者達を治療し、休ませる星祷室プレイルームという巨大な部屋が完備されていた。


「こ、これは……酷いわね」


 思わず声を漏らす私。戦闘の後であろう、傷ついた冒険者達が横たわっている。今でも回復魔法を施す司祭らしき人物と修道女シスター達。クレイと私の姿に気づき、クレイの守護者、アメジストが駆け寄って来た。


「あら~~。メイちゃんとトルマリンちゃんじゃな~~い? ごめんなさいねぇ~。ちょっと今は忙しくて構ってられないのよ~~」

「〝ちゃん付け〟は止めて貰えるかしら、シスタージス・・

「〝チャン〟ハ止メロ……オ前ガ呼ンダンジャナイノカ」


 奇しくも同じ突っ込みを入れる黒猫が他の冒険者達に聞こえない程度の小声でアメジストへ声をかけるが、横からクレイが割って入る。


「今回は僕の独断さ。ほとんどが魔物との戦闘で傷ついた冒険者達。でも、昨日から今日にかけてこの人数は異常だったからね」


 つまり彼の言いたい事はこうだ。迷宮探索の依頼クエストへ失敗した冒険者の中に行方不明者も出ている。しかも、街に突如出現した魔物に襲われた者も居る。これは何か起きているって考えるべき……という訳ね。


「そう、貴方の言いたい事は分かったわ。ありがとうクレイ。後は私がやるわ」


 そう告げると足早に星祷室を退室しようとする私。クレイが私の腕を掴む。


「おっと待ってよメイちゃん。さっきの僕の話聞いてた?」

「ええそうね。ご忠告感謝するわ。心配しないで、後は私がやる。私は私で行動するから」


 掴んだ腕を振り解き、私は教会の外へと向かおうとする。


「分かったよメイちゃん。じゃあ僕は僕で迷宮の調査へ向かうよ。現地で会ったらその時はよろしくね」

「ええ、私の邪魔をしなければ危害を加える事はないわ」


 既に新たな闇が潜んでいるようね。こうして私と黒猫は、冒険者ギルドへと向かう。

 新たな悪意との対峙へ向け、ラピス教会の鐘が始まりのトキを告げていた。


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