僕と牡羊座の加護、ハルキとが激しくぶつかり合う中、妖艶な空気を醸し出し佇む守護者達も、悠然した様子で対話をしていた。
「あら~~、いいのぉ~~? お互いこのまま戦うのは不味いと思うわよぉ~~」
「そうね。でもハルキの性格からして、このまま引き下がるとは思えないのよね」
互いに
「そう~~、じゃあうちのクレイが
「貴女こそ、目に見えない粒子状の毒を身体から散布しつつ謝罪の言葉を述べる事は詭弁と言わないのかしら?」
安眠を誘う甘美な香りを吸引するも平気な様子のアメジストと、粒子状の見えない毒を浴びるも全く動じないガーネット。その場に並の人間が居たのなら、甘い芳香を受け眠りに落ちた後、毒に蝕まれ死を迎えるだろう。
「貴女程度の香り、上級魔族である私には効かないわよぉ~、ガーネット?」
「あら、それはこっちの台詞よ。私、毒には耐性があるの知ってるでしょ、アメジスト?」
互いの能力を知り尽くしているかのように
続け様に放つ水による弾丸を躱し、鋭い槍先を僕の体躯へ向ける彼。上体反らしで回避しつつ、そのまま地面に手をつき、彼の足許へ細い水柱を創り出す。そのまま後方へ旋回しつつ、閃光のように細く研ぎ澄ませた水をレーザー上に放ち、水は彼の頬を掠める。
「
「水戟創造――
戦場を駆ける水弾による僕の花と炎が奏でる彼の槍撃がぶつかり合った瞬間、事は起きる。冷たい水と灼熱の炎が衝突した瞬間、爆発が起きたのだ!
「ねぇハルキ、これで気が済んだ? あの子とハルキが本気で戦ったら、二人共木っ端微塵に吹き飛ぶわよ?」
「もう~~、クレイ~~? 聡明に見えてたまに抜けてるところがあるわねぇ~~。水と炎がぶつかったら水蒸気爆発が起きるなんて常識でしょう?」
彼と僕、互いの服がボロボロだ。それでも立って居られるのは、彼も僕も創星の加護を受けた契約者だからだろう。
「もしかしてガーネット、分かってて戦わせたの?」
「そうでもしないとハルキは納得しないでしょう?」
まるでそうなる事が始めから分かっていたかのような女性陣の様子に合点がいかず、
「アメジスト、水蒸気爆発程度で僕は殺られないさ」
「その前にぃ~~飼育場が消滅するからやめなさぁ~~い」
そう言われて僕も気づく。爆発が原因で、放牧の際に家畜が食べる牧草が全て消滅してしまっていた。これは……司祭へ弁明をしないといけないな……。
「さて、と。そろそろ説明してくれるかしらアメジスト?」
「ごめんなさいねぇ~~ガーネット。でもそろそろ分かる筈よぉ~~?」
アメジストがそう言うと、教会から走って来るシスター姿の女性がやって来る。シスターセピアだ。
「クレイさーーん、ジス先輩~~。大変です! 怪我をした冒険者達が、たくさん運び込まれて来てます!」
「なんですって、すぐ行くわぁ~~! 先に戻っていて~~」
驚いた様子でセピアへ声をかけた後、ハルキとガーネットへ向き直るアメジスト。
「
「ど、どういう事!?」
「何が起きているって言うんだ!」
突然の出来事に状況が飲み込めないハルキとガーネットを後目に、アメジストが行動を起こす。僕もそれに続く。
「……君達が思っている以上に、事態は深刻って事だよ」
教会の礼拝堂へ併設された
「創星魔法、神聖力・ラピスキュア」
女神への祈りの力が産み出した聖属性の回復魔法を眼前に横たわる騎士へ施す修道女姿のアメジスト。彼女の紫髪は既にベールの中へ収まっている。掌から放たれる淡い光に包まれ、騎士の四肢へ出来た傷がみるみる塞がっていく。
「シスター様、天使だ……」
騎士は安心したのか、恍惚な表情のまま意識を失う。女神への信仰心があれば、悪魔でも回復魔法は使えるらしい。悪魔の使う魔法が神聖力だなんて滑稽なものである。
「おい、一体何があったんだ!」
「ええ……泊まっていた宿屋で爆発が起きたんです……」
ハルキが回復筒をエルフの女性へ与え、状況を把握しようとしている。『冒険者ギルド近くにある宿屋で爆発事故が起きた』これが真相だ。真相を知ったハルキの表情がみるみる変わっていく。爆発が起きた箇所は客室の一室と食堂。巻き込まれた冒険者達の内、回復が追いつかない者がこうして教会へと運び込まれたのだ。
「おい、それって……俺が泊まっていた部屋じゃねーーか……」
「ハルキ! パフェを連れて来たわ!」
そこへ牡羊座の守護者、ガーネットが王女様を連れて合流する。
「ガーネット、パフェちゃ~~ん。こっちよぉ~~。この子達を回復させてあげてぇ~~」
「アメジスト。そう、そういう事ね。パフェ、貴女の力であの子達、何とかなる?」
「創星の女神様。今一度、私に力をお貸し下さい。彼の者達へ祝福をお与え下さい。
女神から与えられし奇蹟の力――僕もこの世界へ来て初めて目にする光景だった。王女の掌へ収縮した光はやがて横たわる冒険者へ渡る。淡い純白の光が冒険者達を包み込み、みるみる失われた四肢が再生を初め、爛れた顔や傷ついた身体が元の姿へ戻っていく。その場に居た司祭もシスターも、冒険者達もその奇蹟に息を呑み、やがて、感嘆の声をあげた。
「か、神の奇跡だ……」
「女神様が降臨なされたんだ!」
「うおおおおおおおおおお!」
運び込まれた冒険者達はこうして一命を取り留める。そして、アメジストはガーネットとハルキへこう告げるのだった。
「理解したぁ? あの子へ女神様から与えられた
トルクメニア国の第一王女――パテギア・トルクメニアンは半年前行われた成星の儀で願星を得た。欠損をも修復する程の回復量。それは並の神聖力を超えていた。彼女の力を恐れ、暗殺しようと目論む者、或いは彼女の力を自分達の者にしようと企む者が居てもおかしくないという訳だ。
「……そう、私もハルキも甘かったみたいね。助けてくれて感謝するわ、アメジスト」
「済まないクレイ。君達を誤解していたようだ」
僕へ手を差し出すハルキ。蒼色の髪をかきあげ、僕は笑顔で彼と握手した。
「分かってくれたならいいんだよ、ハルキ君。これからよろしくね」
僕と彼が和解の握手を交わす中、守護者の二人はまだ、互いの心を探るかのように冷笑を交錯させていたのだった。