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29 クレイ・アクエリアス③ 火vs水

「ねぇーパフェーー次はパフェが死神役ね」

「はーい、分かりました! じゃあ今度は皆さん逃げて下さいねー」


 姫林檎ピーチアップルの木に顔を伏せ、数字を数え始める王女様パフェ


「わーい、逃げろ~~」

「そう簡単に私は捕まらなくてよ!」

「バウバウ、バウバウ!」

「楽しい……」


 教会の庭で遊ぶ子供達に紛れ、王女様改め冒険者姿のパフェが一緒に遊んでいる。彼女は誘拐されていたところを俺とアメジストが偶然見つけ、助けた事になっている。司祭やシスター達には、また彼女が誰かに狙われる可能性があるため、教会で匿っていると説明した。


「すっかり子供達と仲良くなって居ますね」

「そうね。助けた直後はどうなるかと思ったわ」

「そうだね、セピア。パフェさんが元気そうで僕も安心したよ」


 事情を知らないシスターセピアと会話をするアメジストと僕。すると教会の上空を何かが旋回し、上空より男女が飛び降りて来た。素早く王女の腕を掴み、引き寄せる燃えるような赤髪の青年と艶やかな長い茶髪ブラウンヘアーを靡かせる女性。アメジストに劣らぬお姉さんタイプの女性はこちらを見て笑っている。


「助けに来たよ、パフェ」

「ハ、ハルキ様!」


 頬を夕焼け色に染める王女様。しかし、直後、子供達の悲鳴によってその場に居た者は戦慄する!


「きゃーーーー、人攫いよーーーー」

「なっ、俺は人攫いじゃねーーよ!」


 慌てふためく子供達に、明らかに動揺する青年。横に佇む女性だけが落ち着いた様子でこちらを静観している。ブラウンヘアーを靡かせ、民族衣装のような格好をした彼女が見つめる視線の先は……成程アメジストか。


「セピア、子供達を避難させて。此処は僕とアメジストで何とかする」

「みんな早くこっちへ!」

「クレイーーーー助けてーー」

「バルルルルーー、バウバウバウ!」 

「助けて……」


 セピアが素早く教会の中へ子供達を避難させる。中には司祭や他のシスターも居るが、僕が此処に居る時点で外へ出て来る事はないだろう。


「ハルキ様、ありがとうございます。でも私は何もされてないんです。そこに居るアメジストさんに助けられて……」

「え? 助けられて?」


 パフェにそう言われた青年は、訝し気にこちらを見つめる。


「いやいや、パフェ。俺の目の前で君はこいつらに攫われたんだぞ!」

「待ってハルキ。続きは当事者に聞きましょう?」


 ブラウンヘアーの彼女が掌を翳すと、パフェは刹那意識を失う。成程、あれが〝芳香の魔術師〟の能力チカラという訳か。


「さて、と。聞かれたくない事もあるんでしょう? 場所を移しましょうか?」

「そうねぇ~~。教会を焼かれても困るしぃ~~そうするわぁ~~」


 二人の守護者が言葉を交わすと、僕達は飼育場がある広い場所へと移動した。放牧用の牧草が広がる平原にて対峙する僕達と彼等。青年は王女様を抱きかかえたまま、こちらを警戒しているようだ。


「で、今は何て名乗っているの? 水瓶座の守護者――上級悪魔のアメジストさん?」

「ふふふ、今はシスタージスよぉ~~? で、今回は随分と若い子を見つけて来たのねぇ~~ガーネット。その子が新たに牡羊座の加護を与えた契約者かしら~~?」


 アメジストがガーネットの名を呼ぶ。水瓶座の守護者と牡羊座の守護者。やはり二人は昔から互いを知っているようだ。


「で、どうやってこの場所がわかったんだい?」

「クレイ~~、昨日シャワーを浴びるまで、パフェちゃんの身体にぃ、ガーネットの香りがたくさんついていたのよ~~?」


 僕の質問に答えた女性は僕の守護者だった。アメジストに名を呼ばれたガーネットがこちらの視線に気づき、手を振っている。さしずめ香りを追ってここまで来たという訳ね。


「なぁ、こっちの事は既に知ってるんだろう? 調べさせて貰ったぜ、クレイ・アクエリアス。冒険者ランクシルバーランク。水を使った攻撃で敵を翻弄する冒険者。表向きは目立った功績を持っている訳ではない。だが……」

「だが、なんだい、ハルキ君?」


 笑みを浮かべて王女を抱きかかえたハルキを見つめ返す僕。


「ラピス教会と深く繋がっており、裏で何か良からぬ事を企んでいる噂もある」

「そんなもの噂だろ? 僕は教会へ通って、毎日女神様を崇めているだけだよ、ハルキ君」


 両の掌を水平にした後、続けて祈りのポーズをする僕。そんな僕の態度を見て、牡羊座の守護者が動く。


「へぇ、じゃあどうして女神様を崇めている貴方が、アメジストと共に王女様を誘拐したのか、教えてくれないかしら?」

「勘違いしないで欲しいわねぇ~~。私達は王女様を暗殺するつもりは更々ないわよぉ~~? だって、その子、生きているでしょう~~?」


 今回王女様を暗殺する目的ではない事は間違いないのだ。まぁ、目的は他にあるんだけどね。


「そう、分かったわ。でも、このままおずおずと帰る訳にはいかないわね。白銀鷲シルバーイーグル!」


 刹那上空を旋回していた白銀鷲が急降下し、僕とアメジストへ鋭い嘴を向ける! 横へ飛んで躱わし、振り向き様返しに指先から水の弾丸を放つも、翼を広げたまま低空飛行で高速移動する白銀鷲は、青年が抱えていた王女様を背に乗せ、上空へと羽搏いた。


「王女を安全な場所へ連れていきなさい!」


 (成程、そう来たか!)


「僕色に染まりな! ――水戟創造すいげきそうぞう!」

「少しは戦場で踊ってくれよ? 火星焔槍マーズスピア――火焔流マーズストーム!」


 巨大な水塊を斜め上空の白銀鷲へ向け数弾放つも、槍を突き立てた青年がうねりを伴う火柱を巻き起こし、水塊は火柱へ呑まれ、蒸発し、爆散する!


「ちぃっ、面倒な能力だな、それ!」

「あんたにはこないだの借りがある。俺の炎とあんたの水、どっちが強いか試してみるか?」


 指先から放つ水の弾丸を燃え上がる炎の槍で焼き払い、怒りの形相で彼は僕へ迫るのだった。


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