「ねぇーパフェーー次はパフェが死神役ね」
「はーい、分かりました! じゃあ今度は皆さん逃げて下さいねー」
「わーい、逃げろ~~」
「そう簡単に私は捕まらなくてよ!」
「バウバウ、バウバウ!」
「楽しい……」
教会の庭で遊ぶ子供達に紛れ、王女様改め冒険者姿のパフェが一緒に遊んでいる。彼女は誘拐されていたところを俺とアメジストが偶然見つけ、助けた事になっている。司祭やシスター達には、また彼女が誰かに狙われる可能性があるため、教会で匿っていると説明した。
「すっかり子供達と仲良くなって居ますね」
「そうね。助けた直後はどうなるかと思ったわ」
「そうだね、セピア。パフェさんが元気そうで僕も安心したよ」
事情を知らないシスターセピアと会話をするアメジストと僕。すると教会の上空を何かが旋回し、上空より男女が飛び降りて来た。素早く王女の腕を掴み、引き寄せる燃えるような赤髪の青年と艶やかな長い
「助けに来たよ、パフェ」
「ハ、ハルキ様!」
頬を夕焼け色に染める王女様。しかし、直後、子供達の悲鳴によってその場に居た者は戦慄する!
「きゃーーーー、人攫いよーーーー」
「なっ、俺は人攫いじゃねーーよ!」
慌てふためく子供達に、明らかに動揺する青年。横に佇む女性だけが落ち着いた様子でこちらを静観している。ブラウンヘアーを靡かせ、民族衣装のような格好をした彼女が見つめる視線の先は……成程アメジストか。
「セピア、子供達を避難させて。此処は僕とアメジストで何とかする」
「みんな早くこっちへ!」
「クレイーーーー助けてーー」
「バルルルルーー、バウバウバウ!」
「助けて……」
セピアが素早く教会の中へ子供達を避難させる。中には司祭や他のシスターも居るが、僕が此処に居る時点で外へ出て来る事はないだろう。
「ハルキ様、ありがとうございます。でも私は何もされてないんです。そこに居るアメジストさんに助けられて……」
「え? 助けられて?」
パフェにそう言われた青年は、訝し気にこちらを見つめる。
「いやいや、パフェ。俺の目の前で君はこいつらに攫われたんだぞ!」
「待ってハルキ。続きは当事者に聞きましょう?」
ブラウンヘアーの彼女が掌を翳すと、パフェは刹那意識を失う。成程、あれが〝芳香の魔術師〟の
「さて、と。聞かれたくない事もあるんでしょう? 場所を移しましょうか?」
「そうねぇ~~。教会を焼かれても困るしぃ~~そうするわぁ~~」
二人の守護者が言葉を交わすと、僕達は飼育場がある広い場所へと移動した。放牧用の牧草が広がる平原にて対峙する僕達と彼等。青年は王女様を抱きかかえたまま、こちらを警戒しているようだ。
「で、今は何て名乗っているの? 水瓶座の守護者――上級悪魔のアメジストさん?」
「ふふふ、今はシスタージスよぉ~~? で、今回は随分と若い子を見つけて来たのねぇ~~ガーネット。その子が新たに牡羊座の加護を与えた契約者かしら~~?」
アメジストがガーネットの名を呼ぶ。水瓶座の守護者と牡羊座の守護者。やはり二人は昔から互いを知っているようだ。
「で、どうやってこの場所がわかったんだい?」
「クレイ~~、昨日シャワーを浴びるまで、パフェちゃんの身体にぃ、ガーネットの香りがたくさんついていたのよ~~?」
僕の質問に答えた女性は僕の守護者だった。アメジストに名を呼ばれたガーネットがこちらの視線に気づき、手を振っている。さしずめ香りを追ってここまで来たという訳ね。
「なぁ、こっちの事は既に知ってるんだろう? 調べさせて貰ったぜ、クレイ・アクエリアス。冒険者ランク
「だが、なんだい、ハルキ君?」
笑みを浮かべて王女を抱きかかえたハルキを見つめ返す僕。
「ラピス教会と深く繋がっており、裏で何か良からぬ事を企んでいる噂もある」
「そんなもの噂だろ? 僕は教会へ通って、毎日女神様を崇めているだけだよ、ハルキ君」
両の掌を水平にした後、続けて祈りのポーズをする僕。そんな僕の態度を見て、牡羊座の守護者が動く。
「へぇ、じゃあどうして女神様を崇めている貴方が、アメジストと共に王女様を誘拐したのか、教えてくれないかしら?」
「勘違いしないで欲しいわねぇ~~。私達は王女様を暗殺するつもりは更々ないわよぉ~~? だって、その子、生きているでしょう~~?」
今回王女様を暗殺する目的ではない事は間違いないのだ。まぁ、目的は他にあるんだけどね。
「そう、分かったわ。でも、このままおずおずと帰る訳にはいかないわね。
刹那上空を旋回していた白銀鷲が急降下し、僕とアメジストへ鋭い嘴を向ける! 横へ飛んで躱わし、振り向き様返しに指先から水の弾丸を放つも、翼を広げたまま低空飛行で高速移動する白銀鷲は、青年が抱えていた王女様を背に乗せ、上空へと羽搏いた。
「王女を安全な場所へ連れていきなさい!」
(成程、そう来たか!)
「僕色に染まりな! ――
「少しは戦場で踊ってくれよ?
巨大な水塊を斜め上空の白銀鷲へ向け数弾放つも、槍を突き立てた青年がうねりを伴う火柱を巻き起こし、水塊は火柱へ呑まれ、蒸発し、爆散する!
「ちぃっ、面倒な能力だな、それ!」
「あんたにはこないだの借りがある。俺の炎とあんたの水、どっちが強いか試してみるか?」
指先から放つ水の弾丸を燃え上がる炎の槍で焼き払い、怒りの形相で彼は僕へ迫るのだった。