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28 クレイ・アクエリアス② 誘導尋問

「怖い思いをさせてごめんよ。君に危害を加えるつもりはないんだ」

「こんな……縛っておいて、信じられると思っているのですか?」


 僕は笑顔で彼女の手枷だけ外す。予想外の行動に一瞬唖然とした表情となる彼女。


「済まなかったね。逃げられては困るからね。パンとミルクを持って来た。此処に置いておくから食べるといい」

「結構です、それより此処から早く出して下さい!」


 手脚が小刻みに震えているが、気丈な態度を見せる少女。そんな少女へアメジストが近づき、口移しに何かを飲ませる!


「んっ……んぐっ……かはっ!? な、何をするんですか!?」

「駄目よぉ~~? ちゃんとご飯食べないとぉ~~」


 両膝をつき、咳き込む彼女。アメジストは妖しく目を細め、そんな彼女を見つめる。


「心配しなくてもいいさ。僕はクレイ。そして、彼女はアメジスト。君の味方だ。信じて欲しい。トルクメニア国第一王女、パテギア王女様」

「え? どうし……私は冒険者のパフェですわ!」


 あくまでも彼女は冒険者を演じるつもりらしい。そんな彼女の眼鏡を取り、かつらをそっと取り去ると、彼女の美しい金髪が露わになった。顎をくいっと寄せ、王女へ顔を近づける僕。


「君はこの美しい姿がお似合いだよ、王女様。僕に忠誠を誓ってくれるなら、僕が傍に居てあげるよ?」

「誰が貴方みたいな低俗な男に忠誠を誓うものですか!?」


 僕の腕を払い、僕を睥睨へいげいする王女。そんな様子を見て、アメジストが彼女へと声を掛ける。


「ねぇ~~、貴方にとっての王子様は誰~~?」

「そんなのハルキ様・・・・に決まってます!」


 アメジストの質問に即答する彼女。


「へぇ~~? でもそのハルキって男には彼女みたく傍に居るお姉様が居るんじゃない?」

「ガ、ガーネットさんはそんなんじゃありません! 仕事のパートナーみたいなものです!」


 触れて欲しくない事実だったのか、急に語気を強める王女。ここからアメジストの誘導尋問が始まる。


「へぇーー、パテギア王女様はぁ~~邪魔に思ってないの?」

「邪魔だなんて……私はガーネットさんも素敵なお姉様だと思っています」


 今彼女は気づいていない・・・・・・・が、王女様と呼ばれて否定をしていない。


「で、どうしてこの国へ来たの? クーデターの首謀者のお手伝い?」

「ク、クーデター!? 何の話ですか!?」


 これで王女様がクーデターの首謀者と繋がっていてこの国へ来た線は消えた。彼女の質問は続く。


「あら~、知らないのねぇ~~。宝石箱入り王女様プリンセスインラピスは貴女が思っている以上に有名なのよ? まぁ、いいわ。提案があるの? 私達に協力してくれない? 協力してくれるなら、そのハルキって男との距離がきっと縮まるわよ?」

「え? 本当ですか?」


 王女様の瞳が煌めきを放つ。そこへ最早疑いの眼差しは欠片もなかった。


「ええ、勿論。ただ、そのためにはまず、貴女の身体に纏わりつく香り・・を綺麗にしないとね」

「香り? 私、もしかして臭いますか?」


 突然不安そうな表情となる彼女。アメジストが彼女の耳元で何かを囁く。瞬間仄赤く染まる王女様の頬。アメジストが彼女の足枷を外すと、王女は自らアメジストの両手を握った。


「契約成立ね。じゃあ宿泊出来る施設があるから連れていくわね。特別な魔力を施したシャワー室があるから、早くその香りを浄化して頂戴ね」

「アメジストさん、ありがとうございます! 私……あんな下衆な・・・香り塗れだったなんて、私知りませんでした。よろしくお願いします!」


 アメジストへお辞儀をする彼女は、足枷を取っても逃げる様子を全く見せない。素敵なお姉様と言っていた女性を下衆呼ばわりする王女様は、先程までとは全くの別人に見えてならなかった。


「あのさ、僕完全放置状態なんだけど……」


 僕が声を掛けると、途端に怯える表情となる彼女。まるで初めて存在に気づいたかのような驚きようだ。


「ひっ、そんな瞳で私を視ないで……」

「大丈夫よ、彼は私のパートナーであるクレイ。ハルキ君へ気に入って貰うためには、クレイの浄化が必要なのよ」


 アメジストがそう告げると、怯えた表情から一転、笑顔の王女が僕へ一礼した。


「そ、そうだったんですね。クレイさん、よろしくお願いしますね」


 一体アメジストは彼女に何をしたんだ? そう思いつつ王女と僕は握手をしたのである。





 その夜……。


「あぁん~~クレイ様~~私もう~~~♡」

「嗚呼、僕色に染まるといいさ!」


 とある一室。薄暗い照明の中、僕の上で踊る女が一人。二人の身体はそのまま折り重なる。暫く余韻に浸る僕と女。愉悦に浸る表情で彼女は僕へ語り掛ける。


「ねぇ~~。クレイ様ぁ~~♡ その王女へ流し込まれた、私に使ってないわよね?」

「そんな姑息な手段使ってないよ。そんな毒がなくとも、君は僕色に染まっているだろう?」


 軽く口づけを交わすと、彼女はそのまま微笑む。そう、今俺の前に居る女は王女様ではない・・・・・・・


「勿論。私の全てはクレイ様のもの♡ だから密談をしていた商人達や貴族。メイや王女様の情報も教えたんでしょう?」

「君には感謝しているよ」


 再び身体を寄せ合う彼女。昼間とは違う大人の妖艶な表情で肢体を密着させ、僕を誘って来る。


「ねぇねぇ、次はあの混沌胡椒使って続きしない♡ いつもよりもっと気持ち良くなれるかもよ?」

「それ使ったが最後、君もあの上級魔族の操り人形・・・・になりたいのかい?」


 口づけをせがむ彼女を交わし、身体を起こす僕。


「えぇーーそれは嫌だなぁ……。私あいつ・・・好みじゃないもの。で、王女様もクレイ色に染めちゃったの?」

「いや、彼女は僕特製の水を使ったシャワーで浄化してあげただけだよ。彼女は言うならばアメジスト色さ」


 昼間アメジストがパテギア王女様へ流し込んだ毒。あれは知らぬ間に血液を循環し脳へ入り込み、精製者アメジスト言いなり・・・・になってしまう毒だ。混沌胡椒のように幻惑や混乱、快楽を引き起こす作用はないが、彼女アメジストの言った言葉を何でも信用してしまうため、強力な催眠毒と言える。昼間の王女様を思い返していると、僕の眼前に暗茶色ダークブラウンの丸い瞳が現れる。


「ねぇ、それ……夜のシャワーとか言って特濃ミルクで浄化してないわよね?」

「なんだい、そういう君は浄化して欲しいのかい、マイ・・?」


 暗茶色ダークブラウンのボブを揺らし、メイド服を脱ぎ捨てたウエイトレス――マイは僕と再び夜の円舞曲ワルツを踊るのだった。

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