そして、話は現在。運命の日へと戻る。あの路地裏でメイと対話をした後、俺は街で観光をしていたガーネット、パテギア王女様と合流する事となった。
「ハロー、ハルキ! メイちゃんと感動の再会は果たせたかし……?」
最後まで言い終わる前にガーネットはどうやら察したらしい。それもその筈、焦点の定まらない俺の視点は虚空を流れる雲のように漂い、生気を吸われたかのような体躯は
「ハ、ハルキ様! 具合が悪いのですか? 大丈夫ですか?」
「嗚呼、パテ……パフェ。ダイジョウブダヨ、ヘーキヘーキ」
感情の籠っていない棒読みの言葉と乾いた笑みで返事をする俺。もしかしたら本当に顔色も悪くなっているのかもしれない。
「ハルキ、とりあえず宿屋に戻って話を聞きましょうか……」
ガーネットに促されるまま、両手宙ぶらりん状態のまま、俺は王女様と宿泊している宿屋へと移動する事となった。
********
「なーんだ! ハルキ。それくらいどうって事ないわよ。ほら、今日は飲め飲め!」
「それくらいって言うなよ……やっと逢えた相手に一蹴された身にもなってくれよ……」
宿屋の地下に併設してあった冒険者の集まる酒場にて、肩を叩いて俺を慰める
「でも、その幼馴染さん酷すぎます! こんな素敵なハルキ様と感動の再会を果たしたというのに、『消えて』だなんてハルキ様が可哀想。私だったらその場で喜んで了承し、ハルキ様に一生ついていきますわ」
「ありがとう、パフェ。パフェは優しいね」
この包み隠さず俺ひと筋をアピールする王女様はいかがなものか。
「ハルキ様。私の此処はいつでも空いてますからねっ!」
「あらー。パフェちゃん。私の此処もいつでも空いているわよ?」
パフェが私の横は空いてますアピールをすると、透かさずガーネットが俺の手を取り、そのまま太腿を滑らせるものだから、慌てて俺は椅子をずらして距離を置く。
「パフェ、ありがとう。ガーネットは揶揄わないでくれよ」
「まぁ、冗談はさておき、ハルキは気持ち伝えてないんだし、諦めてないんでしょ?」
半分残ったエールを飲み干し、俺はテーブルを見つめ呟く。
「嗚呼、もちろん。まだ気持ちを何も伝えてないし、俺の気持ちは変わらないよ」
「そうね。突然あの子の過去を知る貴方が現れた事で動揺したんでしょう、きっと。お姉さんはいつでもハルキの味方だぞ」
常に誘惑を仕掛けて来る彼女ではあるが、ガーネットは俺に力を与え、此処まで連れて来てくれた恩人だ。彼女には感謝している。
「ありがとう、君が居なければ、俺の人生はあそこで終わっていたかもしれない」
「もう、大袈裟なんだから。さぁ、今日はとことん飲むわよ!」
彼女がおかわりのエールを注文すると、横に居た王女様も一緒に果実酒を注文した。
「ハルキ様、私も一緒に飲みます!」
「ちょっと待って。パフェはまだ未成年じゃ……?」
変装をした格好で、伊達眼鏡をくいっとあげた彼女はこう告げる。
「何をおっしゃいますか。私は半年前〝成星の儀〟を終え、大人の仲間入りを果たしました。女神様から
そのヨーグルトは何処で覚えたんだという疑問が一瞬過ったが、どうやら少し幼く見えた彼女は
「よーし、じゃあパフェちゃん。
「はい、お姉様! 何処までもついていきます!」
両手を取り合うガーネットとパフェ。どうやら女の友情が芽生えたようだ。
その夜更け……。
「嗚呼……飲み過ぎた……頭痛い……」
夜中目が覚めると俺は、部屋に併設された洗面所で顔を洗う。ガーネットとパフェはお酒を飲んでぐっすり眠っているようだ。
俺はどうやら自分の事しか考えて居なかったらしい。芽衣と再会した事で気分が高揚してしまっていたようだ。芽衣は過去を捨ててこの世界へやって来た存在。そんな中、過去を知る人物が今更現れたところで、郷愁の念に駆られる訳がない。きっと、あの言葉は、過去を斬り捨てるため出た言葉。彼女はまだ心を閉ざしている。ならば、少しずつ打ち解けるしかない。
顔を洗った俺は両手で思い切り頬を叩く。
「しっかりしろ、ハルキ。こんな事するためにこの世界へ来たんじゃないだろ!」
自分を奮い立たせ、気持ちを整理する。今日は流石に三人共飲み過ぎだ。俺も大人しく寝て、明日に備えよう。バスローブのような衣装で眠るガーネットと、桃色シルクのネグリジェに身を包んだパテギア王女が眠る部屋へと戻る。そして、王女が眠っている身体の下、白銀色の奔流が渦を成し、王女の身体が沈んでいく瞬間へ遭遇した!
「なっ、ま、待て!」
眠ったままの王女はそのまま水流へ飲まれると同時に渦は何事もなかったかのように消えていく。少し目を離した隙に……大失態だ!
「ガーネット、起きろ! 大変だ、王女が!」
「んん? なにぃ? 王女とズッコンバッコンしたの……? やるわね……ハルキ……むにゃむにゃ」
だめだこいつ、早くなんとかしないと……。
立て掛けた槍のみを手に取り、宿の窓を開ける。王女の命は狙われている……何処に攫われたのか分からないと不味い!
「夜中でも、
突然脳裏に届く声。窓の外横、二階の屋根上にその
「貴様! 王女を何処へやった!」
「さぁ、何処だろうね? その質問に答える道理はないよ」
屋根から屋根に飛び移る青年を追い掛ける俺。大きな建物の屋根へと着地した際、槍より起こした火球を放つと、あろう事か、彼は振り向き様掌より放った何かで相殺する!
「……水?」
「君と今争うつもりはない。今は自身の無力さを悔やむといいよ、ハルキ・アーレス君!」
刹那、蒼き髪を靡かせ、青年は足許に出現した白銀色の水流に沈んでいく。俺の火焔は空気のみを焼き、そのまま奴の姿はその場から消失したのである。