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21 栗林芽衣 邂逅③

 ガーラン卿が拘束された明朝――

 私はトルマリンと共に、とある屋敷の前に来ていた。


 否、正確にはとある屋敷の跡地・・だ。ガーラン卿が王より領地所有を賜っていたアルシューン公国イースティア領。領内の少し離れた場所、広大な土地に悠然と佇む立派な屋敷があった。しかし、今眼前には灰燼と化した真っ新まっさらな大地。ガーラン卿の屋敷は一夜にして消滅し、住んでいた者達も忽然と姿を消してしまったのだ。


「一体どういう事なの?」

「ヒトアシ遅カッタヨウダナ」


 ガーラン卿が捕まった事はまだ公表されてはいない。私がもし、警備隊の立場なら、クーデターに繋がる証拠を家宅捜索する。そう考えた私は、警備隊よりも早く、一路イースティア領へと出向いていたのだ。


「これ……ペテルギウス並の魔法ね」

「ソウダナ……ダガオカシイト思ワナイカ!?」


 屋敷のあった地の上へ立ち、状況を分析していく。そう、明らかにおかしかった。極大爆発力・ペテルギウスなら、この程度の土地一つ消し飛ばすなど容易い。しかし、もしそうであるなら、天上に昇る火柱と、天地を揺るがす轟音と鳴動が街まで届いたであろう。


「そうね、トルマリン。どうして誰も気づいていないのか」

「嗚〃、ソレニ……」


 黒猫は黒き地面を進みつつ私へ告げる。街の住民が爆発に気づいたなら、誰も気づかないなんて事はない。


「それに?」

「人間ノ残滓・・ガナイ」


 薄々は感じていた。この地に来てすぐ感じた違和感。骨や血肉だけでなく、人間を構成している魔力の残滓すら残っていないのだ。魔力に長けている者は、周囲の星屑スターマナや魔力を感知出来る。人間だけでない。魔力を持つ者なら例え亡くなったとしても、数日程度ならそこに居たという形跡が残るのだ。


「先を越されたわね。でもはっきりしたわ。これはきっと……」

「魔族ノ仕業シワザダロウ」


 私はライトグリーンの双眸を光らせ、周囲を観察する。この場に解析出来る生命反応はない。誰か生き残っていたなら、そこから魔族へ繋がる証拠を読み取る事が出来たのだが、今回は徒労に終わりそうだ。そう思いつつ、周囲を見渡していると、私の双眸に反応があった。


「誰かが近づいているわ! トルマリン隠れるわよ!」


 素早く敷地の外へ移動し、外套を纏い、森の奥へと潜む。鬣が美しい白き馬に乗った騎士と、もう一人。屋敷の門塀があった場所にて馬を降りた彼は、自身の髭に触れつつ嘆息を漏らす。


「おいおいおい! 何も残ってねーーじゃないか!?」

「ひと足遅かったみたいっすねぇ~~隊長」


 スピカ警備隊のレオ隊長とヴェガ副隊長。恐らく目的は私達と同じだろう。


「あいつはどうやら隠蔽・・の能力下に置かれてるみたいだ。背後に潜む誰かが手を回しているな」

「でもこれなんなんすか!? 屋敷ごと跡形もないっすよ!?」


 ヴェガが驚きつつ黒く焼けた土地を大袈裟に駆け回る。何故か彼は楽しそうだ。


「まぁいい。でもこれではっきりしたぜ。この規模の爆発魔法を使っておきながら、街の住民は誰も・・気づいていない。これは強力な結界の内部・・で爆発させたんだろう」

「えぇええ!? それって隊長クラスの実力じゃないっすか!?」


 ヴェガもこれには叫嘆する。そう、結界の内部で極大爆発力級の魔法を放ち、さらに残滓が残らないように隠蔽する。これを一人でやってのけたのなら、冒険者なら白金プラチナ以上、魔物や上級魔族なら上級種ラストグレイド以上という事になる。


 (そう、あの隊長は白金って訳ね)


「今回の事件、ただグレイグ家がバルログ家を貶めるために企てたクーデターとは訳が違うようだな。何かややこしい事にならなけりゃあいいんだが……」

「でも、魔女でしたっけ? エスプレッソを初め、クーデターの首謀者って抹殺されたんでしょう?」


 ヴェガは私が行った審判の話題をレオに振る。レオは暫く唸っていたが、屋敷のあった場所を真っ直ぐ見据え、副隊長へ応える。


「いや、何処の誰かも分からない魔女に任せておく訳には行かないだろう? それに現に屋敷が一つ吹き飛んでるんだ。まだ事件は終わっちゃいないと考えるべきさ」

「そうっすねーー! 隊長何処までもついていきます!」


 隊長と副隊長は馬を駆り、その場を後にする。一瞬隊長が、私の潜んでいた森へ視線を向けた気がしたが、恐らく気のせいであろう。誰も居なくなった地で、私はトルマリンへ解析結果を告げる。


「終わったわよトルマリン。誰かまでは分からなかったけど、やはり上級魔族・・・・の仕業ね」

「ホゥ、ドウヤッタンダ?」


 黒猫が不思議そうに小首を傾げる。


「屋敷に住んでいた住民達の残滓は一切残っていない。解析範囲を拡げ、少し前まで遡って解析出来ないか試してみたの。結果、屋敷の外、上級魔族が使う転移魔法の残滓を見つけた。人間にアレ・・は使えないでしょう?」

「ソウダナ。我ノヨウナ死神、邪神、上級魔族クライダナ」


 色々と面白いモノも見つけたんだけど、その話は後にしましょう。


「そうと分かれば話は早いわ。今日の夜、犯人が誰か直接聞きに行きましょう」

「了。デハ、セントレア地区ヘ戻ルぞ」


 もう一箇所見つけた残滓・・を確認しつつ、私はトルマリンの転移魔法にてセントレア地区へと戻るのであった。


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