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20 栗林芽衣 邂逅②

 スピカ警備隊――王家直轄の警備隊であり、国家の治安を護る独立部隊。己の信念で動く清廉された騎士達は一国の軍隊相応の力を有する。中でも隊長レオと副隊長ヴェガは国民に知らない者は居ないとされる程の実力を兼ね備えているという。


「幾らスピカ警備隊隊長とは言え、この扱い、些か無礼とは思わんかね?」

「こちらの質問に答えてから判断していただこうか?」


 傲慢な態度を崩さず騎士達を睥睨するガーラン卿。対する髭面の隊長レオはまさに威風堂々。部下の騎士達へ合図を送り、関係のない店内の客達を外へと避難させる手際の良さだ。気づくと店内の客人はガーラン卿とそのお付であろう従者。そして、私とトルマリンだけとなっていた。


「お嬢さん、此処は早く逃げて下さい」

「お気遣いありがとうございます。私は心配要りませんから」


 若い騎士へそう告げると、懐より取り出した金のプレートを垣間見せる。一瞬色を誤認したかと思った騎士は、脳内で事実を咀嚼し、驚嘆の表情となった後、恭しく一礼した。


「失礼致しました。冒険者レベル――ゴールドランカー様でしたか。此処からの出来事はくれぐれも他言無用でよろしくお願いします」

「ええ、分かったわ」


 ギルドにて、冒険者登録をすると、その実力や貢献度により色分けされる。最初は皆、初心者用のブルーランカーより始まる。下から順にブルーイエローブロンズシルバーゴールド白金プラチナ創星ラピスとされる。色分けされた冒険者プレートは、身分証明書代わりにも利用される代物だ。


 騎士とそんなやり取りをしている中、隊長と侯爵の駆引も続いていた。


「単刀直入に言う。お前をバルログ家、ティラミス姫暗殺未遂の容疑で拘束する」

「突然何を言い出すかと思えば……戯言ならもっと滑稽なものにしてもらいたいものだな」


 表情を崩さず静観する私。成程、警備隊も少しは真面目に仕事をしているようね。ガーラン卿は先般私が審判を下したエスプレッソ侯爵の弟。あの下衆侯爵ゲスプレッソの計画へ加担していても可笑しくはない。


「お前を此処で拘束しなければ、兄の死と共に有耶無耶になったクーデターをまた企てるだろう?」

「先程から無礼であるぞ! 儂を誰だと思っておる。アルシューン公国イースティア領――領主、ドリップ・アルベルト・アルシューン侯爵であるぞ!」


 ガーラン卿の横に居た従者が立ち上がろうとするが、騎士達によって剣を向けられた事で静止される。


「此処にお前がとある人物へ送った書簡がある。これを見ても白を切るつもりかな?」

「なんだ……それは……!?」


 書簡をガーラン卿へ広げてみせるレオ隊長。明らかに先程までと顔色が変わる。


「詳しくは城でじっくり聞くとしよう。よし、連れていくぞ!」 

「お逃げ下さいガーラン卿!」


 刹那、騎士達に剣を向けられていた従者が叫んだかと思えば、地面へ何かを叩きつけた。と同時にあろう事かガーラン卿は窓へ身体をぶつけ、飛散する硝子と共に外へ飛び出したのだ。従者が叩きつけた物体・・が橙色に発光し……そのまま爆発した!


「爆発力の中級創星魔法を封じた魔法具マナファクターね。間に合わなかったわ……」

「……メ……メイさん。助けてくれてありがとうございます」


 私は咄嗟の判断でカウンターの前へ素早く移動、魔法結界マナシールドを展開し、店長とマイを護る態勢を取っていた。


 従者の生首が外へと転がったのだろう。店外より悲鳴があがる。従者の肉体は無惨にも肉塊となって飛散している。傍に居た騎士二人が爆発をまともに受け、倒れてしまっている。


「嬢ちゃん。あんた冒険者か!? 俺は奴を追う。此処を頼めるか?」

「ええ、いいわ。隊長殿の仰せのままに」


 瀕死の騎士二人を抱きかかえたまま背後に居る私へ声をかけるレオ隊長。隊長は騎士達と共に、硝子の飛散した窓から外へと飛び出していく。私は直ぐに店内へ防御結界プロテクトを展開、騎士二人へ回復筒ヒールボトルを使用する。


「す、すまない……」

「天使だ……」


 騎士達はそのまま気を失う。正直回復筒ヒールボトルだけでは心許ないが、人前で私の能力を使う訳にはいかない。回復筒の回復量では傷口を塞ぎ、致命傷の進行を抑える程度。後は教会で治療してもらうしかなさそうだ。


「防御結界は張ったわ。マイちゃんと店長マスターは此処でじっとしていて!」

「わ、わかりました!」


 守護者トルマリンへ目配せをし、入口の扉より外へ出る私。後は黒猫が店番・・をしてくれるため、万が一のトキも心配は要らない。住民達を避難させつつ混乱を収束させていた騎士達へ、隊長がどっちの方向へ向かったかを尋ね、後を追う。幾つか路地を曲がったところで、既にガーラン卿は拘束されていた。


「くっ、お前達……後で覚えておけよ……」

「隊長、遅いっすよーー。おいらが捕まえちまったじゃないっすかーー!」


 ガーラン卿の前に立つ若者はレオではなかった。隣に佇む隊長へ笑いかけるこの若者。白く美しい毛並が美しい白虎ホワイトジャガーの頭。美しい銀のレイピアを腰に携えた虎男は、ラピス警備隊の若き新獣――副隊長のヴェガであった。


「外でお前が見張っていると分かっていたからな。急ぐ必要はなかったという訳さ」

「隊長面倒くさい仕事全部押しつけるっすもんねぇーー。早くこいつ連れていきましょう」


 こうして、ガーラン卿はラピス警備隊へ拘束され、城へ連れていかれる事となった。私が審判せずとも彼は、国家反逆罪の罪へ問われるだろう。後から追いついた私とすれ違い様、レオ隊長は小声で私に告げる。


「嬢ちゃん、さっきは助かった。すまないな、関係ない君を巻き込んでしまって……」

「いいえ、気にしないで下さい。私はたまたま・・・・あの場に居ただけですから」


 ガーラン卿を拘束したまま騎士達の下へ合流していくレオとヴェガ。


 (隊長レオ。あの爆発の傍に居ながらにして|無傷《・・》だった。彼、強いわね)


「隊長~~さっきの美人何者すか? なんすか~~、ナンパっすか~~?」

「そんなんじゃねーよ! 行くぞ!」


 私は任務を終えた彼等の背中を黙って見送るのだった。


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