孤独――死神ニトッテソレハ苦デハナイ。
人間ニトッテノ苦痛、憎悪、憤怒ト言ッタ感情ハ我ニトッテハ無意味ダ。
死神ハ他人ノ不幸ヲ嘲笑イ、喰ラウ存在ト
憎悪ヤ欲望ニ塗レタ魂ヲ好ンデ喰ラウガ、上級魔族達ノヨウニ絶望ヲ酒ノ肴ニ穢レ堕チタ人間ノ血肉ヲ喰ラウ悪趣味ハ持チ併セテ居ナイ。
「メイ、オ前ハ特異点ダナ」
眼前ニ眠ル彼女ヲ双眸デ見ツメル。出逢ッタ頃、人間ト同ジ食事ヲスル彼女ハ滑稽ニ見エタガ、彼女ト採ル食事トイウ行為モ悪クナイト、最近ハ思エルヨウニナッテ来タ。
「メイ、何ガアッテモ、オ前ヲ守ル」
我ハアノ日誓ッタノダ。
数百年前ノアノ日、契約者ヲ失ッタアノ日カラ……。
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「人間とは不思議な生き物だ。それが使命とはいえ、何故他を守るために個を犠牲に出来るのだ」
「それは、あの子に限っての事よ。私にも不可能だわ」
我は守護者として人間という種族にして超克者となった女の一人と、台地に出来た大きな窪みを見つめている。
我は天秤座の守護者、トルマリン。横に佇む彼女の名はガーネット、牡羊座の守護者だ。
「
「私も今生きている事が不思議でならないわ」
創星魔法、星核擊力・
「最早何も残っていないな」
「ええ、他の生き残った守護者と契約者も帰っちゃったし、今此処には私とトルマリン、貴方しか居ないようね」
ブラウンヘアーを靡かせ純白のローブに身を包み、巨大な
「ん、あれは?」
「まさか! 生きてるの?」
灰色の大地に横たわる少女。凄惨な光景。銀河を投影したかのように美しかった銀髪はボロボロに綻び、全身より流れ出した赤い染みはドス黒く変色している。極めつけは下半身。闇に呑まれたかのように消滅した下半身が何処にも見当たらない。
「サクラ! サクラ・ペリドッド!」
「サクラちゃん……」
彼女を抱き抱え、上半身を起こす。ガーネットは悲哀の表情で自らの口元を押さえている。何度か呼び掛けると、僅かに片眼を開けたサクラの口元が動く。
「トルマリン、どう……かな? 私、護れたのかな?」
「嗚呼、サクラ。お前はこの
そう言うと、彼女は静かに微笑んだ。事実、彼女の功績により、
「もう私……駄目みたい。トルマリン……無力だった私に力を与えてくれて……ありがとう」
「お前は無力ではない。お前は指命を全うしたのだ」
彼女の閉じた瞳より一粒の雫が流れ落ちる。
「トルマリン、もう時間がないわ」
ガーネットが終焉の
「ねぇ、ひとつだけ……我が儘いいかな?」
「なんだ?」
掠れた声で彼女は言う。
「もし、私が生まれ変わったら、王宮メイドさんみたいな服を着せて欲しいなって」
「そんな事か」
お前らしいなと我は思う。星の命は巡る。もしかしたら彼女の魂は女神の力により新たな生を受け、輪廻より解き放たれるかもしれないのだ。
「大事な事だよぅ。全身黒の衣装だったから、次はもっと可愛い衣装がいいの」
「わかった。約束しよう」
「それと、次、契約する子が居たなら……護ってあげてね。犠牲は私だけて充分」
「嗚呼、勿論だ」
「……今までありがとう」
「……」
我はそっと彼女の口を自らの口で閉じる。我の胸へと身体を預けた彼女が力を失くしたと同時に白銀の天秤は消失する。彼女の身体も黒い靄に包まれそのまま星へと還っていく。
「還っていったわね……」
「そうだな」
どうやら驕っていたのは我だったようだ。死神として守護者の力を得た我はこの世界の調停を保つなど、赤子の手を捻るより容易いと決め込んでいた。
その結果は加護を与えた者一人護る事すら出来ない唯の死神。むしろ我らは彼女に護られたのだ。人間の超克者となった彼女の手によって。
「この犠牲は悲劇として語り継がれる。でも真実を知る者は生き残った守護者と契約者のみ」
「嗚〃ソウダナ」
終焉ヲ見届ケタ我ハ黒猫姿トナル。我ハ死ヲ哀シムトイウ感情ヲ持チ合ワセテハイナイ。ダガ、守護者トシテ、オ前トノ約束ハ果タソウ。
「しばらく
「我モ暫ク闇ニ潜ルヨ」
「そう、暫くお別れね、トルマリン。またいつか逢いましょう」
「サラバダ」
コウシテ契約者ヲ失ッタ二人ノ守護者ハ、再ビ次ノ舞台ヘト歩キ出スノダ。
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「お前の魂へ誓おう。お前の生まれ変わりであるメイを護ると」
「ん……んん……」
青年の姿となり、我は彼女の額へそっとキスをする。
我は死神であり調停者。魂を喰らい、闇に紛れ、契約者と共に世界を渡る。