蝶ネクタイに整った燕尾服、羊頭の執事が大きな円卓へお皿を並べていきます。高い天井には輝くシャンデリア。豪華な金の装飾が施された椅子に座るワタクシ。
いつもの日常、いつもの晩餐。
「ルルーシュ様、晩餐の準備が整いました」
「ご苦労様。戴くわ」
透明感のある透き通った深紅のスープ。リコピーナのような酸味と独特の塩気が口腔内を満たしますの。
「このスープは新鮮で美味しいわね」
「お褒めいただき光栄です。
褒められた事で会釈をする執事。続けて、いい焼き色の付いた脂身の乗った肉へとナイフを入れると、切れ目より赤身が現れます。
存分に肉の味を噛み締め、フォークを置いたワタクシはひとこと。
「……
「さ、左様でございますか」
最後に残るは丸いガラスの容器に入った見た目桃のムースのようなデザート。食後のデザートを口に含みつつ、執事と会話を続けるワタクシ。
「どうやら
「申し訳ございません。予定外の厄災による影響を受けたようで、幾つか収穫出来なかった肉もございまして」
あら、ワタクシとした事が、つい魔力が滲み出てしまっていましたわ。ワタクシが醸し出す空気に気圧されたのか、執事の羊顔から汗が噴き出していますわね。今こいつの頸を刎ねても興にすらなりませんから、この程度にしておきましょう。
「そう。それでこのムースも大した味がしない訳ね。下がっていいわよ?」
「はっ、申し訳ございません。次はもっと収穫時の食材をご準備致します」
執事がお辞儀をし、その場を後にします。するとこれまで黙って同じ円卓を挟んでワタクシの真向かいに座っていた
「ねぇねぇ、ルルーシュ! そんな美味しくないもの食べないで、これ食べなよ! 苺のパンケーキ、美味しいよ?」
「ワタクシは甘い物が苦手ですわ。そのデザートは、オパールのようなお子様が食べるものですわ」
口元についた白い綿のようなクリームをペロリと舐め取り、幼女――オパールは口を尖らせます。
「え~~、そんな事ないよぉ~?
「パンケーキ? 一体それのどこが美味しいのか分かりませんわね。醜悪と欲望、憎悪に満ちた
そうひとこと添えて、ワタクシは硝子の器に残った桃色の
「う~ん、ルルーシュの事は好きだけど、お食事の趣味だけは真似出来ないなぁ~。生き血のスープとお肉でしょう~それ~~。僕ぜったいたべるのむり! 食事はパンケーキとチョコレートだけでいいよぉ~」
「貴女とわたくし、食事の嗜好だけは相容れませんわね」
普段接種する嗜好品の素晴らしさについて、オパールへ改めて解説してあげるワタクシ。
「オパール、生き血のスープは香辛料とこの国で採れるリコピーナ、眷属である魔族から抽出した闇属性の魔力まで籠められている。お肉も生き血も欲望に塗れ、闇に堕ちていった人間の
まぁ、本来上級魔族はこの世界に溢れる
「わかったわかった。僕食べたからもう行くね。ごちそうさま~~。あ、そうだ、ルルーシュ。今度人間の国にパンケーキ食べに行くんだけど、一緒に来る?」
「貴女ひとりで行けばいいでしょう?」
ワタクシはここで食事が出来るならそれで満足ですわ。子供のおつかいに付いていく程ワタクシは暇ではないのです。
「でも、最近そのルルーシュがその、『
「……何が言いたいのかしらオパール?」
席を立ったオパールがワタクシの言葉に満面の笑みで振り返る。
「だって、厄災が起きるなら、果実なんてその前に摘み取ればいいじゃん! ジュークにやらせるだけじゃなくて、僕だったらそうするけどなぁ~」
「……フフフ。そうね、たまには
そうね。ジュークは他の従者よりは優秀だけど、たまにはワタクシが自ら遊戯へ赴く事もいいかもしれませんわね。
「やったぁ~~。一人だと不安だったんだぁ~~。あ、でもパンケーキの店は一緒に並んでね」
「貴女、ワ、ワタクシに嫌いな物を食べろと言うの?」
思わず椅子から立ち上がるワタクシ。口の中に甘い味が広がるだけで、ただでさえ蒼いワタクシの肌が余計真っ青になってしまいますわ。
「いいじゃ~ん、上級魔族様には死角がない事を証明してみせてよぉ~~?」
「死角なんてありませんわよ! オパール」
こうしてこの日の晩餐は静かに幕を閉じる。ワタクシの名はルルーシュ・プルート、魔族が住む国――ルーインフォールト国にて守護者オパールと興を愉しむ上級魔族ですわ。