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14 橘悠希② 野党との戦闘

「君、大丈夫かい?」

「は……はい。大丈夫です。助けて下さってありがとうございます。でもパートナーさん、大丈夫ですか?」


 席に残された女の子へお水を差し出す俺。眼鏡で素顔を隠しているが、歳十四、五の女の子だろうか? 肩までかかる黒髪にレザージャケットのおとなしめな印象。どうして、こんな女の子が一人で酒場にという疑問が一瞬頭をよぎったが、今はこの子を介抱して、ガーネットの支援へ行く事が先決だ。


「嗚呼、此処で待っててもらえるかな? 俺はちょっくらあいつらを懲らしめて来るよ」

「い……いえ。パートナーさんが心配なので、私も行きま……あ、あれ?」


 椅子から立ち上がろうとする女の子がお酒に酔ったのかよろけてしまったため、慌てて身体を支えてあげる。


「ほら、お酒が回ってるんだよ、きっと。此処でちょっと待ってて。宿屋まで送る。また戻って来るからさ」

「はい……申し訳……ないです……ありがとう……ございます」


 お酒が回って来たのだろう。眼鏡の奥に見える眼が虚ろになって来ている。女の子の様子が心配だったが、ガーネットも心配だったため、一旦酒場の外へ出る。恐らく人気のない場所と言っていた。そんなに遠くへ行ってない筈だ。


「おやぁ~~、姉ちゃん。さっきまでの威勢はどうしたのかな?」

「キシャシャシャ。このまま此処でいい事しようぜぃ?」

「へっへっへっ。おいら達を気持ちよくさせるでやんす」


 (ば、馬鹿なっ!?)


 有り得ない声が聞こえたため、俺は声がした路地裏へと急ぐ。戦闘能力は低いとは言え、ガーネットは創星の守護者だ。確かにあいつらは冒険者のように見えたが、一般レベルの冒険者程度でガーネットに敵う筈がないのだ。男達に囲まれた彼女は、美しい茶色の髪を掴まれた状態にも拘わらず、抵抗もせず両膝を立てた状態で上半身の服のボタンを外し、桃色の下着に包まれた果実が露わになっていた。


「お前等! ガーネットから手を離せ!」


 槍を構え、俺はゲス共を睨みつける。


「おっ、姉ちゃんの彼氏かな? 姉ちゃんは望んで俺達と遊んでくれてるんだ。彼氏はそこで黙ってみてて貰えるかな?」

「キシャシャァア! さぁ、まずは俺から頼むぜ姉ちゃん」

「へっへっへっ。怪しい真似したらどうなるか分かってるよな、兄ちゃん」


 騎士風の男はガーネットの髪を掴んだままニヤリと嗤う。狼野郎が鋭い爪を見せてアピールしている。モヒカン野郎に至っては彼女の顔へ汚ない下半身を近づけている。ガーネットがトロンとした表情になっている。


「ガーネット! 目を覚ませ!」


 俺の声にガーネットがこちらを向いた。どうした? 何があった?


「あぁ~。ハルキだぁ~~。こっち来てーー。ねぇ~~、一緒に気持ちいい事しよっ♡」


 煽情的な表情で俺を誘うガーネット。その瞬間、俺の怒りが沸点へと達する。


「貴様ら、ガーネットに何をしたーーーー!」

「おいおい兄ちゃん。穏やかじゃねー……って熱っ!?」


 刹那、騎士風の男の手甲から火の手があがり、男が思わずガーネットの髪を握っていた手を離す。そのままモヒカン男と狼男へ向けて腰に携えた短剣を投げつける。狼男が前へ飛び出し、爪で短剣を弾くが、その隙に距離を詰め、炎を宿した槍で後方へと薙ぎ払う。


「創星魔法、炎熱力――インカローズ!」

「キシャァア? 熱ぃ! 熱ぃよぅ!」


 続け様に奇声をあげるモヒカン野郎を火球で吹き飛ばし、ガーネットと騎士風の男の間に立ち、槍に宿りし炎を解放する! 


「牡羊座の加護――火星焔槍マーズスピア!」

「貴様、加護持ちか!? くそっ、嘗めるな!」


 男の剣戟を払う度に、炎が巻き上がる。背後で虚ろな表情をしたガーネットがその様子を見ている。炎に気圧され、男が次第に後退していく。


「俺の高速剣技を見よ! 四連斬りクアトロバスター!」

「少しは戦場で踊ってくれよ? 火星焔槍マーズスピア――焔舞旋回槍マーズスクランブル!」


 騎士は俺の身体を捉えようと連続で放った剣戟と炎を纏った俺の槍撃そうげきとがぶつかり合う。


 技能スキルと呼べる男が放った剣戟は、魔力を使用しない。己の鍛錬によって習得出来る技だ。

 四連斬りクアトロバスターによる目にも止まらぬ四連撃は、低位種ローグレードなら一掃、中位種ミドルグレードの魔物相手でも充分ダメージを与える事が出来る技能だ。


 しかし、俺の槍撃はそれを軽く上回る。槍を回転させつつ剣戟全てを打ち払い、炎を纏った槍撃は騎士の鎧諸共斬り払い、熱により滾る赤い鮮血と共に、炎の渦に包まれた騎士はそのまま倒れてしまうのだった。


「……くそっ、なんて野郎だ……」

「あんたら冒険者だろ? 意外と呆気なかったな」


 そのままガーネットを引き連れて帰ろうとしたその時、事は起きる。


「キシャシャシャ! そこまでだ!」

「はぅ……お兄さぁ~ん……」


 声がした方を振り向くと、火球で吹き飛ばしたモヒカンと、何故か先程助けた女の子が立っていた。


「君、どうして此処に!? 女の子を離せ!」

「離せと言われて離す悪党なんて居ないぜ、兄ちゃん」


 どうして逃げようとしない!? むしろモヒカン野郎に寄り掛かっている女の子の様子が不気味に見えた。


「お兄さぁ~~ん。お兄さんもぉ~~私をぉ~~、気持ちよくしてくれるんですかぁ~~?」


 女の子の双眸は焦点が定まっておらず、口元を緩ませ、蠱惑的な表情で俺を見つめるのであった。


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