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11 栗林芽衣③ 水瓶座の加護

 放たれた巨大な水塊。私は漆黒の鎌を振り下ろし水塊を分断するが、水塊の威力が留まる事はなく私は被弾してしまう。


「メイ!」

「トルマリンちゃん、貴方は自分の心配をした方がいいわよぉ~~?」


 トルマリンが私の下へ駆け寄ろうとした矢先、水瓶座の守護者――アメジストが行く手を阻み、流れる銀色の奔流がうねりを伴い彼を襲う! 奔流は銀色の水蛇姿となり、数匹の大蛇が死神の血肉を喰らわんとする! が、肉片は飛び散る事なく、死神に喰らいつく大蛇に蒼い閃光が迸る!


「嘗めて貰っては困るよ、アメジスト」

「あら~~、水銀蛇メルクヒュドラがこれじゃあ唯の電気鰻ねぇ~~」


 漆黒の靄を喰らったかのように空を切る水銀蛇メルクヒュドラの猛牙。全身に電流を浴びた水銀の大蛇は痙攣したまま地面を跳ねる。トルマリンがそのまま雷撃を掌から放つと水銀蛇は白き靄となり、そのまま霧散した。


「終わりだな」

「あら~~これで終わりじゃないわよぉ~~」


 死神は拳の雷套らいとうを打ち鳴らし、水溜まりの上に立つ修道女はうっとりとした笑みを浮かべた。



「なんだよ、漆黒の魔女って、守護者が居ないと大した事ないんだな」

「ダメ……避け切れない!」


 水瓶座の加護――クレイ。彼が両手の五指から放つ水弾は月光を浴び、まるでビー球のように煌めく。一直線に向かう水の弾丸は、留まる事を知らない。私の身体を抉る弾丸。やがて、被弾した私の身体から血が飛び散る。


「……え? あんた……どういう事だ?」

「見て……しまったわね……」


 追い込んでいるにも関わらず、突然狼狽え始めるクレイ。狼狽えるのも無理はない。だって、私の血は……赤くないのだから・・・・・・・・


「おいおい……あんたって、人間じゃないのか?」

「あら、あそこに居る水瓶座の守護者さんに聞いていなかったの?」


 トルマリンとアメジストとか言う女も交戦している。急がねば……。ライトグリーンの双眸を光らせた私は、流れる紫色・・の血をそのままに月下の来訪者へ嗤いかける。


「そうか……漆黒の魔女は文字通り魔女だったって訳か。僕は差し詰め魔女狩りをする執行人って訳だ」

「――水戟創造すいげきそうぞう……」


 私の呟いた言葉を彼が聞き逃す筈がない。彼の口から一切彼の能力について口にしては居ないのだから。


「今なんて言った? なんだ、僕の事、死神から聞いていたのかい?」

「私は審判をするために、相手の全てを知る必要があるの。あなたに与えられし加護の力は水戟創造。どうりで魔法詠唱が要らない筈よ。星屑スターマナを集め、貴方自身が受け継いだ加護の力と呼応させ、水戟を創り出しているのだから!」


 彼は掌から巨大な水塊を連続で放つ! 星屑を一から練り上げ、魔法詠唱していては、こんな連撃を放つ事は不可能。間違いなく加護の力故為せる技。しかし、私は手に持つ鎌を持ち換え、柄の中央部分を両手で握る。そのまま回転させた漆黒の鎌は、回避不能の水戟を……全て消滅させた!


「なっ!? 何をしたんだ?」

「あなたの技は既に解析済・・・よ。もう私にあなたの水戟は効かないわ」


 諦める事なく放たれる全ての水戟を・・・・・・鎌で打ち消し、私は一歩一歩近づいていく。


「くそっ、くそっ!」

「私に牙を剥けたのよ? 貴方の魂が裁くに値するか、見極めてあげる」


 刹那冷たく鋭い空気が空間を支配し、月下の来訪者はそのまま動けなくなる。私の背後、白銀の天秤が月光を受け、妖しく煌めいた。


「創星の加護の下、審判者はの者へ継ぐ。汝の罪は正義か悪か?」




 私が、クレイ・アクエリアスを追い込んでいたまさにそのトキ、守護者同士の戦いも終局を迎えようとしていた。高速移動により彼女の心の臓目掛け、雷套を突き立てるも、アメジストの実体は水流となり、水溜まりへと消える。再び現れる彼女へ攻撃を仕掛けるも、空を切るトルマリンの攻撃。


「実体を消す力はお互い様のようだな」

「そろそろ頃合かしらね?」


 トルマリンが居た地面が水流となりて、彼の足許を絡めとる。そのまま下半身を巨大な蛇のような姿に変え、彼を縛ろうとする修道女。しかし、既に死神は彼女の体躯に自身の腕を突き通していた。緑色の血が水流へ溶け出した絵具のように流れ出す。


「終わりだよ、アメジス……ぐぼぁっ!」

「どうやら時間がないみたいだから、急がせてもらうわね」


 刹那トルマリンが紫色の液体を口から噴出する。再び修道女姿に戻ったアメジストが死神を突き飛ばすと、彼はそのまま地面へ崩れ落ちる。


「……何を……そうか。さっきの水銀蛇のか」

「水銀は毒なんて常識でしょう~? 水銀蛇の体液は、気化すると猛毒になる。最も、私の血に含まれる致死毒もたっぷり追加しておいたわ? このままちょっと待っててねぇ~~トルマリンちゃん」


 そういうと、水瓶座の守護者――アメジストは私がクレイを見下ろしている場へ移動する。


「終焉の天秤――生で見るのは初めてね」

「守護者さん、もう終焉よ? 彼の罪は終焉の天秤によって裁かれる」


 私とクレイを取り囲むように展開された魔法陣が、アメジストの侵入を防ぐ。


「なぁーアメジスト、彼女の正体が悪魔・・だって知っていたのかい?」

「ごめんなさいね、知っていたわよ? でも教える必要はないかと思って」


 片膝をつけたままクレイは自身の守護者へと語る。どうやら私が悪魔という事実をアメジストは知っていたらしい。あの様子だと、恐らく私が何者・・・・であるかも……。


「ねぇー、漆黒の魔女さん、取引しない? 戦いをけしかけた事は謝るわ。只、私の契約者と貴女の守護者の命、此処は天秤にかけてくれないかしら?」

「トルマリンが? まさか?」


 彼女の言葉により、初めて気づく。あの最強と謳われる死神が地に伏しているのだ。双眸により彼を蝕むモノが何か解析する。


「そう……その瞳。事象を解析する能力を持っているのね。彼を蝕んでいる毒は悪魔にも効く致死毒よ。彼の命はあと三分持たないわ。貴女の天秤ならよく分かる筈。私の血によって創られた血清でなければ彼の命は助からない」


 私はアメジストを睨みつける。先程までの戦いに浸る愉悦の表情から一転、彼女は真剣な眼差しだ。どうやら私達を殺す事が本来の目的ではなかったらしい。


「いいわ。互いのパートナーの命なら、天秤は水平となる。此処は条件を呑みましょう」


 クレイの心臓を掴んでいた大気は天秤の消失と共に消滅し、彼はそのまま地面へ両手をつく。私はすぐにアメジストから血清を受け取り、トルマリンの傍へ駆け寄り、瀕死の彼を解毒したのであった。


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