放たれた巨大な水塊。私は漆黒の鎌を振り下ろし水塊を分断するが、水塊の威力が留まる事はなく私は被弾してしまう。
「メイ!」
「トルマリンちゃん、貴方は自分の心配をした方がいいわよぉ~~?」
トルマリンが私の下へ駆け寄ろうとした矢先、水瓶座の守護者――アメジストが行く手を阻み、流れる銀色の奔流がうねりを伴い彼を襲う! 奔流は銀色の水蛇姿となり、数匹の大蛇が死神の血肉を喰らわんとする! が、肉片は飛び散る事なく、死神に喰らいつく大蛇に蒼い閃光が迸る!
「嘗めて貰っては困るよ、アメジスト」
「あら~~、
漆黒の靄を喰らったかのように空を切る
「終わりだな」
「あら~~これで終わりじゃないわよぉ~~」
死神は拳の
「なんだよ、漆黒の魔女って、守護者が居ないと大した事ないんだな」
「ダメ……避け切れない!」
水瓶座の加護――クレイ。彼が両手の五指から放つ水弾は月光を浴び、まるでビー球のように煌めく。一直線に向かう水の弾丸は、留まる事を知らない。私の身体を抉る弾丸。やがて、被弾した私の身体から血が飛び散る。
「……え? あんた……どういう事だ?」
「見て……しまったわね……」
追い込んでいるにも関わらず、突然狼狽え始めるクレイ。狼狽えるのも無理はない。だって、私の血は……
「おいおい……あんたって、人間じゃないのか?」
「あら、あそこに居る水瓶座の守護者さんに聞いていなかったの?」
トルマリンとアメジストとか言う女も交戦している。急がねば……。ライトグリーンの双眸を光らせた私は、流れる
「そうか……漆黒の魔女は文字通り魔女だったって訳か。僕は差し詰め魔女狩りをする執行人って訳だ」
「――
私の呟いた言葉を彼が聞き逃す筈がない。彼の口から一切彼の能力について口にしては居ないのだから。
「今なんて言った? なんだ、僕の事、死神から聞いていたのかい?」
「私は審判をするために、相手の全てを知る必要があるの。あなたに与えられし加護の力は水戟創造。どうりで魔法詠唱が要らない筈よ。
彼は掌から巨大な水塊を連続で放つ! 星屑を一から練り上げ、魔法詠唱していては、こんな連撃を放つ事は不可能。間違いなく加護の力故為せる技。しかし、私は手に持つ鎌を持ち換え、柄の中央部分を両手で握る。そのまま回転させた漆黒の鎌は、回避不能の水戟を……全て消滅させた!
「なっ!? 何をしたんだ?」
「あなたの技は既に
諦める事なく放たれる
「くそっ、くそっ!」
「私に牙を剥けたのよ? 貴方の魂が裁くに値するか、見極めてあげる」
刹那冷たく鋭い空気が空間を支配し、月下の来訪者はそのまま動けなくなる。私の背後、白銀の天秤が月光を受け、妖しく煌めいた。
「創星の加護の下、審判者は
私が、クレイ・アクエリアスを追い込んでいたまさにその
「実体を消す力はお互い様のようだな」
「そろそろ頃合かしらね?」
トルマリンが居た地面が水流となりて、彼の足許を絡めとる。そのまま下半身を巨大な蛇のような姿に変え、彼を縛ろうとする修道女。しかし、既に死神は彼女の体躯に自身の腕を突き通していた。緑色の血が水流へ溶け出した絵具のように流れ出す。
「終わりだよ、アメジス……ぐぼぁっ!」
「どうやら時間がないみたいだから、急がせてもらうわね」
刹那トルマリンが紫色の液体を口から噴出する。再び修道女姿に戻ったアメジストが死神を突き飛ばすと、彼はそのまま地面へ崩れ落ちる。
「……何を……そうか。さっきの水銀蛇の
「水銀は毒なんて常識でしょう~? 水銀蛇の体液は、気化すると猛毒になる。最も、私の血に含まれる致死毒もたっぷり追加しておいたわ? このままちょっと待っててねぇ~~トルマリンちゃん」
そういうと、水瓶座の守護者――アメジストは私がクレイを見下ろしている場へ移動する。
「終焉の天秤――生で見るのは初めてね」
「守護者さん、もう終焉よ? 彼の罪は終焉の天秤によって裁かれる」
私とクレイを取り囲むように展開された魔法陣が、アメジストの侵入を防ぐ。
「なぁーアメジスト、彼女の正体が
「ごめんなさいね、知っていたわよ? でも教える必要はないかと思って」
片膝をつけたままクレイは自身の守護者へと語る。どうやら私が悪魔という事実をアメジストは知っていたらしい。あの様子だと、恐らく
「ねぇー、漆黒の魔女さん、取引しない? 戦いを
「トルマリンが? まさか?」
彼女の言葉により、初めて気づく。あの最強と謳われる死神が地に伏しているのだ。双眸により彼を蝕むモノが何か解析する。
「そう……その瞳。事象を解析する能力を持っているのね。彼を蝕んでいる毒は悪魔にも効く致死毒よ。彼の命はあと三分持たないわ。貴女の天秤ならよく分かる筈。私の血によって創られた血清でなければ彼の命は助からない」
私はアメジストを睨みつける。先程までの戦いに浸る愉悦の表情から一転、彼女は真剣な眼差しだ。どうやら私達を殺す事が本来の目的ではなかったらしい。
「いいわ。互いのパートナーの命なら、天秤は水平となる。此処は条件を呑みましょう」
クレイの心臓を掴んでいた大気は天秤の消失と共に消滅し、彼はそのまま地面へ両手をつく。私はすぐにアメジストから血清を受け取り、トルマリンの傍へ駆け寄り、瀕死の彼を解毒したのであった。