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「おや、消える前に帰ってきちゃったか、格好悪いなぁ」
もう口元ほどしか残っていない青白い光の粒子が話しかけてくる。
「自分が命を断ったあとは見ないようにしたんだ。自分の決断に後悔したくないからね。でも君は見たんだろ?」
首を縦にふって肯定の意志を伝えた。
「あの枝から三つの光が別の並行世界へ向かうのを見かけたよ……。
光る粒子はこちらを向いて溜息をついた。
残念そうな表情をしている気がする。
「自分の存在が消えるっていうことは知識でしか知らなかったんだ。だから、彼女たちの記憶から徐々に僕という存在が消えていってしまって、思ったよりも見づらかったかもしれないね、ごめんよ」
肯定とも否定ともとれない顔をすると、人だったと思われる粒子は複雑な顔をしているように感じた。
「線、面、立体、時間、並行世界――キミはこの世界樹という五次元空間に、どうやら二次元的な方法で訪れているみたいだね。道理で文字でしかキミの表情を読めないわけだ」
「最初にも言ったけど、この五次元空間には時間という概念はあって無いようなものだ。だからキミは彼女たちの過去が見れたし、彼女たちとは違う時間感覚を体験したはずだ」
「このあと、僕の身体と精神は世界樹の栄養となってあの世界を拓くだろう。そして、かつて神が人という存在に落ちて数多の月日を重ねたように、人という存在には幾千、幾万、幾億という果てしない月日の先に輪廻が待っている」
「それはキミにとっては一日かもしれないし、一年かもしれないし、あるいは幾億年を待っても訪れないかもしれない。それでも、僕はキミとまた会えることを願っているよ」
その粒子は爽やかに笑うと、まるで最初からいなかったかのように消えていった……。
先ほどまで見ていた枯れた枝の先には、一枚の葉が芽生えていた。
サイアイ -End-