目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
終章 どこかから聞こえてきた声

………………

…………

……


「おや、消える前に帰ってきちゃったか、格好悪いなぁ」


 もう口元ほどしか残っていない青白い光の粒子が話しかけてくる。


「自分が命を断ったあとは見ないようにしたんだ。自分の決断に後悔したくないからね。でも君は見たんだろ?」


 首を縦にふって肯定の意志を伝えた。


「あの枝から三つの光が別の並行世界へ向かうのを見かけたよ……。純愛じゅんアイ深愛しんアイ友愛ゆうアイ――自惚れでなければ彼女たちには何かしら残してきたつもりだったけど、やっぱり人というのは自分の思い通りに動かせるわけがないね」


 光る粒子はこちらを向いて溜息をついた。


 残念そうな表情をしている気がする。


「自分の存在が消えるっていうことは知識でしか知らなかったんだ。だから、彼女たちの記憶から徐々に僕という存在が消えていってしまって、思ったよりも見づらかったかもしれないね、ごめんよ」


 肯定とも否定ともとれない顔をすると、人だったと思われる粒子は複雑な顔をしているように感じた。


「線、面、立体、時間、並行世界――キミはこの世界樹という五次元空間に、どうやら二次元的な方法で訪れているみたいだね。道理で文字でしかキミの表情を読めないわけだ」


「最初にも言ったけど、この五次元空間には時間という概念はあって無いようなものだ。だからキミは彼女たちの過去が見れたし、彼女たちとは違う時間感覚を体験したはずだ」


「このあと、僕の身体と精神は世界樹の栄養となってあの世界を拓くだろう。そして、かつて神が人という存在に落ちて数多の月日を重ねたように、人という存在には幾千、幾万、幾億という果てしない月日の先に輪廻が待っている」


「それはキミにとっては一日かもしれないし、一年かもしれないし、あるいは幾億年を待っても訪れないかもしれない。それでも、僕はキミとまた会えることを願っているよ」


 その粒子は爽やかに笑うと、まるで最初からいなかったかのように消えていった……。


 先ほどまで見ていた枯れた枝の先には、一枚の葉が芽生えていた。


サイアイ -End-

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?