「はぁ!? 好きな
ワシは小僧との定期連絡で思わず大きな声が出てしまった。
幸い、拠点としている家はそれなりの広さがあるのと、近所の家まで距離がある好立地であるため、周りの家にまで声が届くことは無かろう。
『あー、いや、そういうわけじゃないんだけどね……』
「あーもー、駄目じゃ駄目じゃ、電話じゃ
『はい……わかりました……』
珍しく小僧が
部屋に青白い光の円が出来ると、そこから小僧が現れた。
「来ました……」
小僧はしょぼくれて、
「で? どういうことだか、最初から改めて説明してもらおうかのう」
ワシが小僧を蹴ってから椅子に座ると、小僧はフローリングに正座をして話し始めた。
「いや、なんというか……。アパートの隣に住んでいる
「なんじゃ、人間関係は割り切っておるお主にしては珍しいのう」
「うーん、僕としても意外だなと思っててね。色んな並行世界を巡って、様々な出会いをしてきたけど、ここまで一人の人間に気持ちが
本人自身も驚いているようだったが、正直なところ顔には出しておらぬがワシも結構驚いておる。
ワシも小僧も世界を渡る者として、人間関係は常に深めないように接しておる。例え気に入ったものがおったとしても、心は許さないのが我々の
それは己のためでもあるし、相手のためでもある。ワシらは必ず別の並行世界へ行くことになる。二度と会うことが叶わぬ間柄じゃからな。
「それで、お主はどうしたいんじゃ」
「うーん……彼女のことが好きかどうかと言われたらもちろん好きだよ、恐らく今までに出会った誰よりも。ただ、もちろん彼女とこれ以上は仲を深めるつもりはない。そうだね、結論は最初から決まっていたんだから、正直なところ誰かに話したかっただけ――なのかもしれないね……」
小僧は少し落ち込んだ様子じゃった。なんだかんだで飄々《ひょうひょう》とした態度を取っている
「その
正直、ワシはほんの少しじゃったが
ワシが小僧と出会う前のことは知らぬが、少なくともワシと旅を始めてから小僧が特定の娘に入れ込むということは今まで一度も無かった。
だからこそ、今回のことがどれほど異常事態であるかということか、本人には思ったより自覚がないのじゃろう。
ワシはあくまで小僧の手伝いとして世界を渡っておるが、小僧がもしこの世界に留まることにしたらワシはどうなってしまうのか……?
ワシが小僧にとっての一番と思ってはおらぬし、ワシも小僧が一番とは思っておらん。
ワシらはただ気が合って旅をするだけの仲間に過ぎぬ――はずじゃ……。
じゃが、ワシだけがまた一人になってしまうという、唐突に訪れる孤独感。千年前まで当たり前だった日々を恐れてしまう……。
「そうだね、僕としても結論は出ていたんだ。近々こちらに移ることにするよ」
「そうじゃな、きっちり清算しておいた方がよいぞ。中途半端な別れは尾を引くからのう」
「あぁ、数日もらえないかな。荷物だけでも先行してこちらに移しておくよ」
レイラフォードがイギリスにいると判明してから、かなり広めの拠点を確保しておいたから、小僧の荷物が増えたところで大して支障はないだろう。荷物の搬入も小僧一人でやらせれば良いしな。
「こちらに来たら、お前さんも一度レイラフォードと交友関係を持っておくと良いな。ワシが既に数ヶ月付き合って良好な交友関係を結んでおるしのう」
「僕のおかげでね」
「やかましい、この流れで言えたことか」
小僧は少し気が抜けたのか
「うーん……。しかし、ワシもこの流れで言うのが少し難儀なのじゃが、今アジア方面に飛ばしておる八本の矢印のうち、お前さんが来る直前に日本でルーラシードの反応があったんじゃ」
低速で飛ばしている矢印は対象の近くを通った瞬間に反応を感じ取る事が出来る。今回の速度では『日本のどこかにいるだろう』という程度の結果じゃった。
そのため次は更に速度を犠牲にし、高精度探索を行って絞り込む必要がある。
「今はそのまま日本に絞って尾っぽを飛ばしているのかい?」
「あぁ、じゃが高精度探索だとどうしても時間がかかるから、まだ当分は反応待ちの状況じゃろうな」
「僕が日本から去るタイミングってのは、確かに調査としては良くないかもしれないけど、見つかったらヨーコが日本に行ってもいいし、僕も今の居所から遠ければ僕が行くのもやぶさかではないし」
「お主に何もなければ今日の定期連絡で伝えようと思っておったのじゃがな。まぁ、事情が事情じゃ、仕方あるまい」
「迷惑をかけてしまってすまないね」
「今更なにを言う、慣れっこじゃわい」
ワシも少し気が抜けたようで微笑んでしまっておった。
「さて、
「お、お手柔らかに……」
ワシは己がニヤニヤしていることがわかるくらい楽しんでおった。
この世界の調査を開始してから二年余り。普段の調査ではかなり早い進捗じゃったから、ワシも気が抜けておったのかもしれん。