人目のつかない裏路地へ移動した私と彼は、更に私の能力を使って人払いをした。
周囲百メートル以内には文字通り人っ子一人いない状態となった。
どうも、これから行う行為は誰かに目撃されてはならないらしい。
「さぁ、行こうか。ユキナちゃん」
彼は笑いながらそう言うと、裏路地の真ん中で眼を
彼の身体から青白い光が出てきたと思ったら、次の瞬間には青白い
「……!? こ、これは!?」
「ユキナちゃんが能力を手に入れたように、僕は『どこでも好きな場所に移動できる能力』を持っているんだ。まぁ、詳しくは追々話すとして、まずは日本へ――君が本来いるべき場所へ向かおう」
私は言われるがまま光の輪に足を踏み入れると、夕方だった空は一気に真夜中の星空に変わっていた。
目の前には私の自宅――ボロいアパートが確かにあった。
間違いなく日本だ。信じられない……。
アパートへ足を進めると、彼がかつて住んでいた隣の部屋は
「少し前までいたはずなのに、ここに来るのが何年も前のように感じるよ……」
「少しは慣れたと思っていたんですけどね……。でもやっぱりこうしてあなたと再会してやっぱり
私たちは部屋に入り、机越しに向き合って座った。彼は壁を背にもたれて座っている。やはり、相当身体に無理が来ているのだろう。
「ユキナちゃんは長旅で疲れていないかい……? 本当はしっかり休んでから話をしたいと思ったんだけど――僕が結構辛くてね、このまますぐ話をさせてもらってもいいかな……?」
彼は呼吸をするのも苦しそうになり、明らかに
しかし、それは彼が望まないことであり、彼の願いは私の願いでもある。仮に
「少し――いや、結構長い話になるかもしれない、それに
「わかりました。私はあなたの言うことなら例え嘘だとしても信じます。だから、あなたを信じる私を信じて話してください……!」
「ありがとう、その言葉が何よりうれしいよ……。そうだ、話をする前に念のためヨーコに連絡を取ってもらえないかい? あいつの意見も聞きたいんだけど……もし駄目なら仕方ないけど」
ヨーコの携帯電話に連絡をしてみたが全く反応がなく、あれからどうなったかは不明だった。
私の能力を使えばもう少し知れるかもしれないけど、そこまでする必要はないとのことだった。
どうして急に私を殺そうとしたのか、そもそも最初から殺すつもりで呼んだのか、彼女の行動には謎な部分が多いままだ。
「身内の不始末――という言い方はユキナちゃんにはいい気がしないかもしれないけど、ヨーコは理由もなく人を殺そうとするような人間ではない。きっと彼女の中で僕を『直す』上で最良の手段が君を殺すことだったのだろう。さっきも言ったけど許してやってほしい……」
理由は本当にわからないけど、彼女と長年共に歩んで来た彼が言うんだから間違いないだろう。
しかし、仮に彼が言うから許したとしても、最適解として私の命を狙ってきていることに変わりはないのだから、警戒するに越したことはないだろう。
「レイラちゃんについては、これ以上僕に関わるのは危険だ、僕にとっても、彼女にとっても……。彼女には申し訳ないけど連絡を取ることすら危険だ、心を持っていかれかねない。運悪く僕みたいなルーラシードが相手のレイラフォードになってしまったんだ、全く我ながら身勝手な話だと思うよ……」
レイラ=フォードか……。
レイラについては、憎くはあるが彼から事情を聞くまでは行動を起こすことは控えようと思っている。彼女に
「それとユキナちゃんが手に入れたその能力の名は『サイコリライトシステム』と呼ばれているものだよ」
サイコ……なんとかかんとか……?
「どうも『精神的な力で世界を書き換える機構』という意味で、人の想いの力で世界を物理的に書き換える――僕の場合だと世界に五次元的な穴を開けていることになるのかな? ユキナちゃんの場合は世界を精神的に書き換える――つまり人を操ることができるわけだ」
「な、なるほど……」
わかったようなわからないような……。
とにかく要は『超能力』ということだということはわかった。
「能力はその範囲や効果を知ることが大事だ。試しに簡単な内容で可能な限り広い範囲で能力を使ってみよう。うーん、そうだな――せっかくだから平和的な内容がいいね『少しだけ人に優しい気持ちになる』という内容で最大範囲で能力を使ってみようか」
「は、はい……!」
私は頭に想いを描きながら願うと、一瞬だけ世界中に赤い光が流れていく感覚が脳内に入ってきた。それは間違いなく世界中の人々に私の力が届いた感覚であり、この力の対象範囲が少なくとも『
流石に私でもわかる。これは恐ろしい能力だ。
「――参ったな、本来ならこんなに強い能力を持っている人を見たら、恐ろしいからすぐに始末しているところだけど……。ヨーコもそれが原因だったのか? いや、まだあの段階ではユキナちゃんは能力には目覚めていなかっただろうし……」
始末するとか恐ろしいワードが聞こえてきた。
「
彼は私の理解を超えた話をし始めた。まるでそれは漫画やアニメの中の世界の話だった。
「せっかくの能力だ、名前でもつけてあげたら?」
確かに、どんなものでも名前を付けると
◇ ◇ ◇
私の力は、どうやら
ただ、世界征服というのは面白そうではあるが、同時に
唯一安心したことは、私の能力は彼には通用しないというところだ。
私は意識的だろうが無意識だろうが、私は彼に命令をしたくはない。
どうやら、この能力には命令することができる
他の誰かが閾値を超えているだのなんだのなんてのはどうでもいい、彼さえ効かなければそれでいい。
命令をする、指示をする、お願いを聞く。私は普段誰からどんなことを言われているのだろうか。バイト先の店長、大学の教授、そして【ルーラシード】から、様々な人から様々なことを言われている。
金銭的な関係による命令、地位的な関係による指示、そして
色々な関係を考えていたが、その中で私が一番積極的に受け入れて聞くのは彼のお願いである。
私は
だから、私は自分に都合よく解釈をした。
私の力の対象となった人は私の事が好きになり、
私は全ての人を
だから、この能力の名は『
そして、この名前は、私にとっても重要な意味を持つ。
私が彼のお願いを聞いてしまう
全ての人に私は
『
世界中の人が私を
物凄くポエムな名付け方だけど、非常に私らしくて
「ちなみに【ルーラシード】の能力名はなんて言うんですか?」
「ふふっ、ナイショ」