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40 泥棒猫リターンズ

「ヴァイオレッタ!? 無事なのか!? お前……ジルバート……その後ろは……フレイアっ!? どうなってる!?」

「クラウン、私を信じて。さっき、ワタクシとジルバートはフレイアに襲われたの! 彼は悪魔の力に操られていた。まずは外のスミスに部屋へ誰も入って来ないよう伝えて。ワタクシとジルバートが中に居るのは一旦せて」

「なんだって!? わかった。ちょっと待ってろ」


 ジルバートがすぐに王子の部屋を覆う防御結界へ重ねて魔法障壁を創る。王宮に潜んでいるかもしれない黒幕へワタクシ達が帰って来た事を悟らせないためだ。まずはワタクシ達が今居る立場を把握しないといけない。


 フレイアと対峙したあと、ワタクシとジルバートは空間転移でクラウン王子の部屋へと移動したのだ。気を失っているフレイアも一緒だ。


 クラウンに信じてもらうため、聖女の話や、ワタクシの中のモブメイドの話をするとややこしくなるため、一旦、ワタクシが狙われていて、ジルバートはヴァイオレッタ暗殺の罪を擦り付けるために殺されかけたという事、ジルバートは帝国の王子で、自国がかつて扱っていた悪魔とこの国の誰かが契約している事実を知り、調査をしていたのだと説明した。


「それならもっと早く……まぁ、賊扱いだったジルバートと、こうして話す機会もなかったから仕方あるまい。で、これからどうするんだ? ヴァイオレッタは行方不明。ジルバート、お前の事は指名手配犯として騎士団員が探しているぞ?」

「そうね、まずは信頼たる仲間を集める必要があるわ。あと、さっき悪魔の力を浄化する術をワタクシは身につけて来たの。此処に居るフレイアみたいに操られている者を元に戻していったなら、事態は好転するかもしれない」


 フレイアがあんな状態だったという事は、恐らく騎士団員は全員あちらの手駒だと思っていい。問題は相手がどこまで裏で糸を引いているか。


「ヴァイオレッタ、クラウン。あの悪魔――メフィスト・・・・・が契約している人物は一人だけなんだ。その者の契約期間が終わり、魂を喰らうまでは他にく事はない。フレイアや騎士団員は悪魔から得た力で契約している人物が操っているという事になる」

「つまりその契約主を倒せば、皆元に戻るという事になる訳ね。もしかしたらマーガレット王女やミュゼファイン王国も大変な事になっているのかも」


「マーガレット王女もだって!? マーガレットは国のために友好関係を築いていこうとして俺に近づいていただけだぞ?」

「ええ。でも、マーガレットはただの泥棒猫よ。きっと、黒幕は、あの子のそんな性格に目をつけたんだわ」


 そのとき、外が何やら騒がしくなっている様子に気づく。どうやら誰かが最強執事のスミスと話しているようだ。


『申し訳ございません。急を要する事でしたので、ヴァイオレッタ様がご不在でしたらクラウン王子のお耳に入れておきたく……』

『いえ、クラウン王子は今火急の用を済ませております。ミランダ・・・・様、客間にてお待ちください。王子には伝えておきますので』


 え? ミランダ? どうしてミランダが!? 王子へアイコンタクトで合図をし、ミランダを中へ招き入れるよう伝える。一旦外へ出るクラウン王子。暫くして中へと入るミランダ。念のため、一旦部屋の奥へ身を隠すワタクシとジルバート。


「クラウン王子、申し訳ございません。今すぐ一緒にアイゼン王子の部屋へ行って貰えませんか?」

「アイゼンだと? そういえば最近アイゼンと仲良くしてくれているみたいじゃないか? 兄としても嬉しい限りだよ」


「え、あ、ありがとうございます。実は今日もアイゼン王子と街へ行く予定だったのですが、急な用事が出来たとの事で、ですが、今日はお部屋から外へ出ていないらしく、女の勘がですね、王子の部屋へ行けと私へ伝えて来るんです!」

「それなら、ミランダ一人で行けばいいだろう?」


「それが、入口の騎士がどいてくれないんです。しかも、何やら王宮のメイドさん? が少し前に中に入ったという情報もありまして……」

「なん……だと!?」


 その状況に既視感を覚えるワタクシ。いや、今王子も同じことを思ったであろう。あ、王子がチラリと隠れているワタクシの方へ視線を。ジルバートには転移魔法で一旦ワタクシの自室へ隠れているよう伝える。これは急がないと、あの可愛らしいアイゼン王子が面食い蛇女泥棒猫の餌食となってしまう。そんな状況、女子代表として、何としても食い止めなければならない。


「ミランダ、ワタクシも一緒に現場へ急行します」

「え? ヴァイオレッタ様!?」


 クラウン王子とワタクシの部屋がある回廊とは、別の場所にあるため、なるべく誰にも遭遇しないよう、気をつけつつ現場へ急行する。ジルバートには、一旦ワタクシの部屋で気を失っているフレイアを見張りをして貰っている。


 まずはクラウン王子がアイゼン王子の部屋の前へ。見張りをしている騎士にフレイア騎士団長が訓練場で呼んでいると適当に伝え、どいて貰うことに成功する。誰も居なくなったところでワタクシとミランダが合流。アイゼン王子の部屋の扉を思い切り開ける。


「アイゼン! クラウンだ。入るぞ!」


 部屋の中に誰も居ない。いや、奥の寝室から何やら声がする。クラウンとミランダと顔を見合わせ頷き、奥の部屋へゆっくり近づいていく。


「ねぇ? 王子様ぁあ~♡ もう諦めて私のものになって? だいじょーぶ、初めてなら優しくリードしてあげるから」

「やめ……やめて……マーガレット……」


 駄目よヴァイオレッタ。きっと彼女は悪魔の力によって内なる欲望を増幅か何かされて、暴走しているんだわ。いやいや、それにしても、クラウン王子が駄目ならアイゼン王子って考えがないわー。あ、いけない。ヴァイオレッタの口調にモブメイドが混じってしまったわ。さぁ、この泥棒猫どうしましょう? 上半身の服のボタンを外され、王子は手脚を縛られている状態。馬乗りになったマーガレットは既に変装を解いており、黒髪のかつらとメイド服はベッドの横に脱ぎ捨ててあった。待って、どこが可憐で清楚な王女様よ。桃色の下着を身につけた、ただの蛇女じゃない。


「おい! マーガレット! どういうつもりだ!」

「え? あ、嘘!? クラウン王子!?」


 馬乗りになっていた王女は、驚き、シーツを包み、下着姿を隠した状態でベッドから飛び降りる。何やら彼女の首元には、紫色の宝石のついた首飾りが妖しく光っている。宝石の光に呼応するかのように、橙色の瞳の色が一瞬、赤く光った気がした。


「た……たすけて……兄さん……」


 今にも泣き出しそうなアイゼン王子はまるで捨てられた子犬のようだった。今すぐこの愛玩動物を優しく抱き締めてあげたい。

 とりあえず操られているとしても、悪魔はその者が持っている内なる欲望を増幅させているらしいから、マーガレット王女は悪い……という事で、一発平手打ちをかましてもいいですよね? とか、思っていると……。なんと、ミランダがワタクシよりも早く、ベッドの横に立っている王女の下へと向かい……。


「……あなた。ミュゼファイン王国のマーガレット王女ですね」

「え? ちょっと……誰?」


「アイゼン王子と最近仲良くさせてもらっているミランダと申します。失礼ながらひと言、物申させていただきます」

「な……なんなの!?」


「この……泥棒猫!」


 パシーーーン!――


 鬼の形相でマーガレットへ近づいたミランダ伯爵令嬢は、そのまま右手でマーガレット王女の左頬を平手打ちしたのだった――



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