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04 一夜明けました♡ 

「あの、あの! ヴァイオレッタ様。もしかして、昨日は王子様と」

「こら、グロッサ。やめなさい、そんなはしたない」


「じゃあ、言い方を変えます。ゆうべはお楽しみでしたね」

「グロッサ!」


 慌てて第二メイドであるグロッサを叱責する第一メイド、ローザ。


 ええ、ええ。いいのよ、グロッサ。あなたはこういう恋愛のお話が大好きだものね。まぁ、ゆうべのお話はあなた達のご想像にお任せするわ。


 ふふふ。昨日は嵐様万歳だったわね。雷が鳴った事でワタクシの中に生きているモブメイドの純情な感情が思わず飛び込んでしまった事で、王子のスイッチが入ったみたいね。ワタクシは今、王宮の一室で、ローザとグロッサに髪を整えて貰っているわ。


 あれはまだ夕方で、全身が熱く火照ったまま、お風呂に入って身体を綺麗にしたわ。王宮の方々とお食事をした後、王子のお部屋に泊まる事になって。ふふふ……これ以上はワタクシの口からは言えないわね。


「ヴァイオレッタ様。先程から笑みが零れていますが、どうかされましたか?」

「え? 嗚呼。なんでもないわ」


 ローザとグロッサが顔を見合わせて何やら頷いているわね。何か思うところがあったのかしらね。


 まぁいいわ。それにしても、普段見ることの出来ないクラウンは、ドSで意地悪だったわ。でもね、耳元で囁かれると魔法をかけられたみたいに脳内が蕩けていくの。もう何が何だか分からないまま、夢のような時間が過ぎていったわ。ふふふ。駄目だわ。思い出すと恥ずかしくて、笑いがこみ上げて来るんだもの。


 翌朝、目を覚ました時、隣に眠る王子の寝顔があって……。


「ふふふ……あの寝顔……可愛かったわね」


「まぁ!」

「ヴァイオレッタ様! 心の声が漏れてます!」


 あ、いけない。これじゃあローザとグロッサにもバレバレじゃない。まぁ、この二人は信頼出来る子達だから、問題は無さそうだけど。


 あら、駄目ね。ちょっと心の中のモブメイドが叫びたがっているので、叫ばせてあげてもいいかしら?


――嗚呼、もぅううう、ヴァイオレッタ様ぁあああ! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてませんから~~♡♡♡ 



★★★



 王宮の食堂へ向かうと、王様と王妃様がいらっしゃったので、恭しく一礼したわ。


 王子からは昨日嵐になったため、ワタクシ達が泊っている事は既に知っていたみたい。


 そして、この食事の席で、王子の口から王様へあの事が告げられたの。


「父上、母上。許嫁であるヴァイオレッタ・ロゼ・カインズベリーを、正式に王宮へ迎え入れたいんだが」


「なんと!」

「まぁ!」


 王様は、お肉へナイフを入れていた手を止め、王妃様は、懐からハンカチを取り出して、何やら目元にあてている。


「そうか。丁度一年後、クイーンズヴァレー王国創立五百年の記念式典がある。婚姻の儀はそこに併せて準備をしておくのもよいじゃろう」

「ヴァイオレッタ、よろしくお願いしますね」


 ワタクシは王様と王妃様へ向かって一礼し、これで来年より王宮へ住まう事が約束されたわ。これで、第一関門はクリア……。


 ガタン――


「本日は午前中から魔法の稽古がありますので、僕はお先に失礼致します」

「アイゼンお兄様。わたくしもご一緒しますわ!」


 クラウンの隣に座っていた二人が立ち上がり、早々に席を立つ。


 一人はアイゼン・アルヴァート。クラウンの弟であり、クイーンズヴァレー王国の第二王子だ。白髪短髪で背丈はワタクシ、ヴァイオレッタと同じくらい。普段はクラウン王子の背後に隠れているが、その可愛らしい容姿に、抱き締めてあげたいと思う年上のお姉さん多数だ。ヴァイオレッタ付のメイド達の間でも人気が高い。勿論これは、モブメイド情報である。


 もう一人は、フィリーナ・アルヴァート。クラウン、アイゼンの妹であり、クイーンズヴァレー王国の第一王女。彼女の翠髪ツインテールは遠くから見ても目立つ。背はモブメイドと変わらない位イコールとっても小さい。二人の兄が大好きな彼女は、クラウンやアイゼンに寄って来る女性はみんな毒虫・・だと思っている。案の定、席を立った彼女は食堂の入口付近で振り返り、ワタクシを睨みつけるようにして外へと出て行った。


 確か王宮へ住まうようになってから、アイゼン、フィリーナ兄妹とヴァイオレッタとの関係性はどんどん悪化していく一方だった。


 来年訪れる破滅エンドを回避するためには、この二人との関係性も良くしていく必要があるのではないかと思う。


「来週12月15日には十六歳となるアイゼンの誕生日パーティが開かれる予定だ。ヴァイオレッタ。君も招待しよう」

「あら、お招きいただき光栄ですわ」


 当事者が居ない中で、王様から誕生日パーティへのお誘いを受けるヴァイオレッタ。そうだった。モブメイドとしての生前の記憶を辿り、思い出す。この一年、イベント毎が尽きないのだ。


 そして、イベントの度にヴァイオレッタはその悪役令嬢振りを発揮し、己の道を歩んでいったのだ。己を曲げる事無く、自身の信念を貫くその姿はモブメイドからすると美しく、尊く眩しい程だったらしいわ。


 まずはアイゼンを味方にする事から始めましょう。


 確か、あの誕生日パーティでは事件が起きた筈。え? モブメイド如きが誕生日パーティへ招かれていないだろう? どうしてそんな情報を知っているのかって? ふふふ。モブメイドを嘗めてもらっては困るわね。メイドは貴族間の噂が大好物。『誰と誰が結ばれたらしい』、『あのパーティでこんな事があったらしい』、『無礼な伯爵令嬢をヴァイオレッタ様が一蹴した姿が凛々しかった』、『クラウン王子とヴァイオレッタ様がお似合いのカップル振りを発揮した』エトセトラ、エトセトラ……。百人ものメイドが居れば、貴族のお噂情報なんてすぐ仕入れる事が出来るのよ。


 食事を終え、帰りの馬車に揺られる車内でワタクシは薄っすら笑みを浮かべるのです。


「さぁ、これから忙しくなりそうね」


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