終章
1
「任せたとは言ったが、私抜きで
小さな手で頬杖を突きつつ、メイサが悠然と言葉を並べた。ユウリに向ける眼差しは意味深で、真意が測りがたいものがある。
リグラムを討ち滅ぼした日の夜だった。ユウリたちはルミラリアの士官学校の校長室で、報告を行っていた。
すぐ近くには、フィアナ、カノン、シャウアがおり、メイサと向かい合っていた。三人とも落ち着いた表情をしている。
ユウリはメイサの小さな身体を注視する。至るところに包帯が巻かれており、何とも痛々しい様だった。
リグラムの相手をユウリたちに託した後、メイサは魔竜レヴィアと死闘を繰り広げた。レヴィアは第三の眼から長大な光剣を生み出し、驚異のスピードとパワーでメイサを攻めた。
その結果、双方の致命の攻撃が同時に命中。メイサとレヴィアは共倒れとなり、その後にリグラムがレヴィアと融合した、という流れであるようだった。
「ただお話ししましたとおり、僕一人の力では絶対に勝てていませんでした。フィアナ、カノン、シャウア。全員で力を合わせたからこその勝利だと心得ています。
それにメイサ先生。あなたがいなければ、僕たちはレヴィアの恐怖に戦意喪失していました。もし良かったら教えて下さい。あの忌まわしいレヴィアに立ち向かえるだなんて、先生はいったい何者なんですか?」
尋ねた瞬間、(しまった、踏み込みすぎたか?)ユウリは後悔した。だが出てしまった言葉は取り消せない。
するとメイサはにこりと微笑んだ。
「私は神の子だからな。たとえ相手が
冗談めいた口調だった。ユウリは戸惑いつつ、(本当だとしても驚きはしないな)と静かに考えていた。
「それよりもだ、真に讃えられるべきは君たちだ。人の身にして悪しき竜に立ち向かい、無辜なる者たちの命を救ったのだからな。おおいに誇るべきだ」
メイサは穏やかな口振りでユウリたちを称賛した。ユウリは微妙に照れくさい気持ちになる。
リグラム撃破の後、シャウアを含め、帝都の人民は皆、解放された。リグラムの操る黒色の渦により、不可思議な空間に幽閉されていたという話だった。
誰一人として殺されなかった理由は、いざという時の人質要員ではないかというのがメイサの読みだった。ユウリたちとの戦いで人質を使わなかったのは謎だったが、激高のあまり忘れていたのではとユウリは考えていた。
エデリアの各地に現れた
「それにしても、『僕一人の力では絶対に勝てていませんでした』か。殊勝な心がけだな。今後も精進するように。君の愛しい妹も、草葉の陰から君を見守っているさ」
ゆっくりと言葉を紡いだメイサは、にこりと穏やかに笑った。どこが違うとは明言できないが、いつもとは違う心からの笑みに思えた。
ユウリの胸にじわりと暖かいものが生じた。辛い出来事もあったが、必死に努力して平穏を勝ち取ったことは誇りたい。そんな心境だった。