目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第17話

       17


「刀に雷? カノン。あなたそれはどういう……」フィアナが不思議そうな面持ちで問うた。

「そっか、フィアナさんは知らないんですよね。わたしの黒黄刀は、雷を吸収させて強化できる特性があるんです。いわゆる特別製ってやつです」

 小さな両手を腰に当て、カノンは自慢げに説明した。顔はさながら、おすましする童女のそれである。

「あいつに効くとしたら雷系の技だけ。つまりつまり突破口を切り開けるのは、ユウリ君の雷槌らいついとわたしの黒黄刀だけ! まことにまことに申し訳ないですが、フィアナさんには今回は援護役をお願いしたいです。お怪我のこともありますし」

 すらすらとカノンは力説した。「わかったわ」とフィアナは力強く応じる。

 ざわり。不気味な音がして、極小悪竜ヴァルゴンが動き始めた。

 ユウリは力強く雷槌らいついを突き上げた。瞬時に稲妻が昇天していき、折り返してきた。

 カノンは黒黄刀を持ち上げた。雷が先端に命中し、バヂヂッ! 激しい音がして、黒黄刀が稲光を纏い始めた。

「準備万端! 気力充実! あとはあいつを倒すだけ、です!」

 やる気満々のカノンが無邪気に叫んだ。

 極小悪竜ヴァルゴンの大群が押し寄せてきた。「雷晶壁ディアクラスタ!」ユウリは再び雷壁を展開。無数の敵を間断なく打ち落としていく。

「カノン!」フィアナは言い放つと、左手をすっと前に出した。

 すると蝶翼の一部が分離。二十個近くの球体となり、カノンの廻りを漂い始めた。

「私の力の根幹である、子ユリシスの塊よ。あなたの動きに追随するようにしたから。ちょっとでも役に立てば良いんだけど。こんな手助けしかできなくて、何だか私、情けないな」

 フィアナは寂しげに呟いた。するとカノンはにこりと微笑を浮かべる。

「何を仰いますやら、フィアナさん! とてもとってもありがたいサポートです! ではではとくとご覧あれ! わたしとユウリ君の怒濤の連撃で、見事勝利を勝ち取って見せますゆえ」

 熱弁を振るい、カノンはキビタキ化した。ふわりと舞い上がり、雷壁の上を通過してリグラムへと接近していく。

「カノンは相変わらずわけがわからないけど、あの元気さは見習わないとな。さあて、俺たちも進むか。カノン一人に、命運を託すわけには行かないしな」

 ユウリが覚悟を口にすると、フィアナは真剣な顔で小さく頷いた。

 前に視線を戻し、ユウリは雷壁を出したまま前進を始めた。

 突如、ユウリたちへの極小悪竜ヴァルゴンの飛来が止んだ。一番の脅威と感じたのか、キビタキ・カノンのほうに全個体が向かったためだった。

 フィアナが差し向けた子ユリシスの塊が、何体もの敵を打ち落とした。しかしあまりにも数が多すぎて、キビタキ・カノンの被弾は時間の問題だった。

 ふわりとフィアナが雷壁の範囲外に出た。引いた右手にトライデントを生み出し、ぶん投げる。

 勢いよく飛んだトライデントは、キビタキ・カノン間近の極小悪竜ヴァルゴンを次々と貫いていった。そのままリグラムに命中するが、やはり金属皮膚に防がれる。

「サンキューです!」澄んだ声で礼を言い、カノンは突き進んでいく。わずかに残る極小悪竜ヴァルゴンも、ひらりひらりと器用に避けていた。

 頭の真上に到達した。カノンは人型に戻った。雷を帯びる黒黄刀を振り上げ、リグラムの頭頂部を突き刺さんとする。

 刹那、リグラムの首の付け根に「口」が出現。中から極小悪竜ヴァルゴンが飛び出してくる。

「カノン! 受け取れ!」叫んだユウリは雷槌らいついを横手投げした。

 雷壁を纏った雷槌らいついは横回転しながら飛び、カノンは左手で見事にキャッチ。「口」の前にかざして極小悪竜ヴァルゴンを撃滅し、右手の黒黄刀をリグラムの頭目がけて突き入れた。

 黒キラーヴォ刀が脳天に刺さった。ズバチチッ! 雷鳴が鳴り響き、リグラムの体内に雷電が侵入する。

「ぐおおおおおお! おのれ、羽虫どもが!」

 苛立たしげなリグラムの怒声が轟いた。危険を感じたのか、カノンはキビタキに変身して退却していく。

 数瞬の後、リグラムは爆発。辺り一帯に爆音が鳴り響いた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?