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(何だあの姿は。無機的というか、生物って感じがしない。というか翼もないのにどうやって宙に浮いてるんだ。……気味が悪いな)
ユウリは変身したリグラムを注視しつつ思考を巡らせていた。
「まずは翼なき者にはご退場願おうか。神聖なる戦場に不相応極まりない」
リグラムが冷静な調子で言い捨てた。するとユウリの視界の端に、純黒の物体が入った。
ユウリははっとしてそちらに顔を向けた。人間大の渦があり、近くにシャウアがいた。難しい面持ちでリグラムを見ていて、背後の渦に気づいていない。
「シャウア、後ろだ!」ユウリは右手を口に添えて大声を出した。
シャウアはきょとんとした顔になり、振り向いた。
しかしすでに遅かった。渦はぐわりと大きさを増し、シャウアの身体を包み始めた。
「シャウア!」フィアナの悲鳴が耳をつんざく。シャウアは手足をばたつかせる。
だが渦は完全に全身を包み、収縮し始めた。渦はやがて点になり、跡形もなく消え去った。
「シャウアをどこへやった!」ユウリは声を荒げた。
「愚問だな。答える義理などありはしないよ」
落ち着いた声音でリグラムは応じる。
(くそっ!)ユウリが心中で毒づいていると、リグラムが頭から前進した。魚が水中を行くような奇妙な動きだった。
右、左。ユウリは
リグラムはぬるりと空中を滑り、雷を躱した。速度を上げてユウリに迫ってくる。
(普通の
ユウリは
緑色の暴風が吹き荒れ、リグラムに到達。リグラムはその場に縫い止められる。
トライデント片手にフィアナが滑空。静止したリグラムへと突きを放つ。
刹那、リグラムの皮膚の一部が銀色に変わった。トライデントはそこに当たり、ギンッ! 鈍い金属音がして弾かれる。
フィアナは反動でのけぞった。リグラムは向き直り、がぱりと口を大きく開けた。
微細な黒色の何かが吐き出され始めた。フィアナはとっさに左手を振るい、子ユリシスの障壁を長方形に展開。防御に成功する。が。
一度障壁に跳ね返された「何か」は、迂回してフィアナに向かい始めた。ユウリは瞠目して目を凝らす。
(小さな、
推察する間にも、極小
ユウリは再び風扇を振るった。風が発生し、フィアナのすぐ前に至った。極小
「ありがとユウリ!」朗々と言い放ち、フィアナはもう一本トライデントを生成。二本を同時に投擲する。
だがリグラムは身体を部分的に金属化。トライデントは二本とも命中するが、ダメージは与えられない。
「身体がダメなら、顔です!」キビタキ化による移動で、カノンがリグラムの頭部に迫った。黒黄刀を振り下ろし顔面を両断せんとする。
キンッ! カノンの斬撃も金属化によって阻まれた。リグラムは尾をぶん回し、カノンの胴体を狙う。
カノンの姿が一瞬で消えた。すぐにひらりとキビタキがユウリの元に飛んできて、人間になった。
「やっかいですね。どれだけ高速で攻撃を加えても、それを上回る超反応で皮膚を金属に変えちゃうんですから」
形の良い顎に右手を添えて、カノンは思慮深い様に呟いた。
「金属…………。電気なら、通るか?」ユウリは呟いた。
「それよユウリ! やってみましょう!」
少し離れた位置からフィアナが言い放った。
するとリグラムの全身の至るところに、切り込みのような白線が生じた。一秒もしないうちに、次々と線は膨らんでいく。
「全身に、口?」ユウリが言葉を漏らすや否や、リグラムの数多の「口」からうじゃうじゃと何かが現れた。極小
「来るわよ!」危機感たっぷりにフィアナが叫ぶと、極小
(なんて数だ!)ユウリは戦慄しつつ、「カノン! 俺の後ろに来い!」と言い放った。刀では多数の敵に対応できないと考えてだった。
「ごめんなさいユウリ君!」カノンは申し訳なさそうにユウリの後ろに移動した。
ユウリは風扇を大きく横薙ぎにした。緑色の風が渦を巻き、極小
大多数は風を受けて吹き飛ばされていった。だが攻撃範囲の端だった者は、大きくは後退せずユウリたちに接近してくる。
(くそっ! 切りがない!)焦燥に駆られつつ、ユウリは
バリリッ! 雷鳴が轟き、
次々と極小
極小
フィアナは障壁とトライデントで極小
「ああっ!」フィアナが苦しげに呻いた。トライデントが落下していく。
ユウリははっとしてフィアナへと飛んでいった。風扇を小振りし弱めの風を発射。
フィアナに当たると、取り付いていた極小
苦痛の表情をしていたフィアナは、きっと己に付いていた極小
カノンがフィアナの隣に着いた。恐ろしい速度で黒黄刀を操り、残った敵を屠っていく。
ユウリも追いついて援護し、極小
「フィアナ!」ユウリはフィアナの全身を注視する。濃紺の軍服はあちこちに破れがあり、覗く皮膚かはおびただしい量の血が出ていた。特に右腕は酷かった。
「あいつらに、噛まれて……。ごめん、ユウリ。足手まとい、よね」
はあはあと辛そうに呼吸しながらフィアナは謝罪した。
「成程。この攻め手はなかなかに有効なようだな。では遠慮無く、もう一度試させて貰おうか」
怪しげな口振りで言葉を吐くと、ぐぱり。再びリグラムの全身の「口」が開いた。すぐさまぐじゃぐじゃと、無数の極小
「──まだあれだけいるのかよ」ユウリは眉を顰めて呟いた。
「ユウリ君。わたしの大事な黒黄刀に、あなたの雷を。それでわたしは、あの悪魔を討ちます」
カノンは顔の前で黒黄刀を掲げた。小さな顔には強い決意の色が滲んでいる。