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「
わずかに遅れて「
リグラムは長大な翼を前方に展開。二方向からの一斉射撃を翼表面で受けた。フィアナの弾幕も、器用に左翼を動かして完封する。
ひらり。
人間に戻ると「唐竹割りっ!」勇ましく叫んで両手持ちの黒黄刀を天地方向に振り下ろす。
リグラムは左手で反応。籠手で受けきると、間髪入れずに右手を振るった。
カノンの姿が消えた。否、キビタキに変身したのだ。竜閃爪が空を切り、キビタキ・カノンは背後へと回り込む。
「背中ががらがらのがら空きです!」
カノンは人型になり切り上げを敢行。リグラムの腰に当たり、黒黄刀が体内へと入っていく。
「ぐっ!」リグラムが呻いた。左手で黒黄刀を押しとどめると、刀を経由させて黒炎をカノンへと送る。
カノンはリグラムの尻を蹴り、反作用でリグラムから距離を取った。再度キビタキになり危険な間合いから退いていく。
フィアナが二本のトライデントを形成。両手で一本ずつ持ち、同時にぶん投げた。
いずれもリグラムの翼の障壁を抜けた。カノンの猛攻で、翼の制御が甘くなっていた。
しかしリグラム、竜閃爪を閃かせて二本とも防いだ。
隙を突くべくユウリが滑空。
「
少年の真剣な声が響き渡った。(
数秒ののちに光が一点で止まった。やがて折り返し始め、どんどん高度を下げていく。
動けないリグラムはかっと目を見開いた。刹那、
光が止み、リグラムの姿が鮮明化した。衣服はずたずたになっており、中から覗く身体にも青痣があちこちに見られた。
ユウリは高速飛行しつつ「
リグラムが右手を薙いだ。ユウリは
とどめを刺すべく
「よぉし! 狙い通りだ! ユウリもナイス追撃だぜ! これで奴もあの世行き確定だ!」
貪欲さを感じる大声がした。ユウリは視線を向けた。シャウアだった。ユウリたちから少し離れた建物の陰にいる。はにかみながら、握り込んだ右手をユウリに掲げている。
「シャウア! お前また
「心配いらねえよ! あの後、メイサ先生の助言を得て改良版を編み出したんだ! 呼び出せる数は一羽だけだが、
自信たっぷりにシャウアは叫んだ。ユウリは納得し、リグラムに視線を戻した。完全に膝を突いて俯き、苦しげに呼吸をしている。
「は、かはっ──! ふ、巫山戯た真似を」
苛立った口調でリグラムが言った。
「魔王リグラムっ! あなたはわたしたち英雄カルテットに討たれる運命なのです! いざ神妙にその邪悪な命を散らすのです!」
黒黄刀をリグラムに向けつつ、カノンが可愛らしい声で言葉を叩きつけた。
「──ほう、愉快な冗談もあったものだな。この程度で私を斃したつもりか」
リグラムは地の底から響くような声を出した。(何だと?)ユウリが訝しんでいると、リグラムの瞳が怪しく光った。
「真なる神レヴィア。
厳かに唱えて、リグラムは目を閉じた。するとリグラムの身体はどろりと溶け始めた。
(いったい何が──)混乱するユウリをよそにリグラムの変形は進む。
やがて完全な黒球になると、むくむくとあちこちが突き出てき始めた。
リグラムの身体が徐々に形成されていく。ユウリは
諦めた三人は、離れた位置からリグラムを見続ける。リグラムは今や翼のない竜のようなフォルムだった。ただ色はグラデーション皆無な漆黒で、身体のラインはすべて完全な曲線だった。体長はユウリの背丈よりやや長い程度。のっぺりとした雰囲気の奇妙な竜である。
頭部がぐねぐねと怪しく蠢いた。一秒もせずに正三角錐が形成される。
リグラムの動きがぴたりと止まった。次の瞬間、頭部の三角錐に白い箇所が生じた。細長い三角形二つと、その下に一直線に走る線。眼と口のようにユウリには思えた。
「待たせたな。それでは始めようか」口をわずかに動かしつつ、リグラムはゆっくりと告げた。
ユウリはすっと身構えた。近くではカノンとフィアナも、リグラムに油断のない視線を向けている。