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第14話

       14


 数歩行って急停止。雷槌らいついを水平に振るった。軌道に沿って雷が生じ、弾ける音とともにリグラムへと飛んでいく。かつてないほど速く大きな雷撃だった。

 すっとリグラムは肩の高さまで両手を上げた。金属製の物体が手の甲に生じる。

 リグラムは右手を横薙ぎにする。雷撃は右手に命中。金属物体は帯電するが、やがて収まった。ユウリは雷撃を防いだものを注視する。

 精緻な装飾が施された黒色の籠手だった。指の側には湾曲する五本の金属棒が付いており、動物のかぎ爪のようである。長さは前腕程度で、先端は鋭く尖っている。

竜閃爪りゅうせんそう。君たちを屠る至高の武具だ。存分に味わい尽くすが良い」

 重々しく告げてリグラムは嗤った。ユウリを見据える眼差しには、深い理知と強い悪意の双方が見受けられる。

 フィアナが地を蹴った。一足飛びにリグラムに近づきつつ右手を掲げた。背の翼から、清らかな緑青色の奔流が掌に集まっていく。

 三つ叉のトライデントが生じた。三つの穂がぐんっと伸長し始め、リグラムに向かう。

「仲間の覚醒に何某なにがしかの刺激を受けたか。小賢しい」

 不快げに吐き捨ててリグラムは身体を横にした。すんでのところでトライデントを回避する。

「甘いわよ!」フィアナが勇壮に叫んだ。すると穂が直角に曲がり、リグラムへと迫っていく。

 リグラムは一瞬目を瞠るが、即座に右手を一閃。竜閃爪で跳ね上げて弾いた。

 刹那、小さなキビタキが恐ろしい速度で滑空。リグラムの懐に至ると一瞬で人の形になった。

「新技からの瞬・殺・です!」

 カノンだった。ユウリの影響でキビタキへの変身能力を得たのだろう。高い声で叫び黒黄刀を突き入れる。

 リグラムは身を捻る。だが黒黄刀は脇腹を掠めた。衣服の一部がちぎれ、皮膚に切傷が刻まれる。

 すかさずカノン、追撃の横薙ぎ。しかしリグラムの反応も速い。右の籠手で黒黄刀を防いだ。ガギン! 金属音が鳴り響き、刀と籠手が押し合い始める。

(隙だらけだ!)ユウリは即断し、雷槌らいつい片手にリグラムへと飛行。大きく振りかぶり側頭を叩かんとする。

「頭が高いぞ!」憤怒のリグラムが一喝した。 すると突然、竜閃爪の周囲に黒炎が出現。怪しげにメラメラと燃えさかり始めた。

 カノンの前腕に接触した。危険を感じたのか、カノンはすぐさま飛び退り逃れる。

 構わずユウリは雷槌らいついを打ち下ろす。リグラムはしゃがんで避けた。姿勢を戻しつつ、右の竜閃爪を振り上げる。

 ユウリは頭をずらした。竜閃爪本体は避けたが、黒炎が左頬を掠める。

(ぐあっ!)凄まじい熱感が生じた。ユウリは頬に手をやるが、黒炎は消えない。

「プ、プラリアっ」ユウリは唱えて水盾すいじゅんを生成。頬に当てるとジュウッっと音がした。その後、十秒弱が経ってようやく消える。

 とっさにカノンを見やった。腕から上がる大きな炎にのたうち回っている。幼い顔を苦しげに歪めており、見ていられないような様だった。

「カノンっ!」ユウリは叫んで水球を放った。気づいたカノンは右腕に水球を捉えた。黒炎はしばらくして消失する。

「如何かな、勇ある者たちよ。感づいているだろうが、私の憎悪の黒炎は有象無象のそれとは格が違う。手ではたいた程度で消せるとは思わんことだな。そして」

 嬲るような調子で力説し、リグラムは表情を険しくした。

 次の瞬間、ボンッ! 爆発音がしてリグラムの背後から何かが出現した。(なっ!)ユウリは驚嘆する。

 リグラムの背に生えたのは、悪竜ヴァルゴンと同じ黒色の翼である。しかし異常なのはその大きさで、両翼を広げきった幅はリグラムの背丈の五倍近くあった。

「瞠目せよ! これが全てを蹂躙する王の翼だ!」

 朗唱するように声を張り上げ、リグラムはその場で一回転した。リグラムを中心に暴風が吹き、巨大竜巻と化す。

 ユウリは水盾すいじゅんを構えた。覚醒により大きさ、厚みは増していたが、すべては防ぎきれない。

 左肩が風に切り裂かれた。その後、刃のような風が次々と身体の至るところに命中。意識が飛びそうになるほどの激痛に苛まれる。

 竜巻が消滅し、ユウリはふらつきつつもリグラムを睨んだ。見下すような余裕たっぷりの視線を向けてきている。

「王を名乗るだけはあるわね。でも、負けない! ルカさんの死を弄ぶような悪魔に、私は負けるわけにはいかないの!」

 フィアナが己を鼓舞するかのように言い放った。



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